第10作 閃きは人助け
商談の日から数ヶ月。
ハンドバームは予想以上の売り上げを見せた。
主に貴族夫人たちの間で評判となり、製造が追いつかないほど売れているらしい。
加えて、一般向けの商品も手頃な価格設定が功を奏し、着実に売り上げを伸ばしているという。
世の女性たちにとっては目を引く品だったようだ。
おかげで俺にも売上の一部が入ってきた。
思った以上の額で物理的に目が飛び出るかと思った。
そして。
フォルトゥーナに事前に相談していた素材がようやく届いた。
魔石と魔鉄の額を売上の一部から融通してもらったのだ。
これから定期的に送られてくるから素材不足になることは当分ないだろう。
「よし、これで本格的に魔道具作りに専念できるぞ!」
「何から作ろうかな。」
「試作中だった火の術式を完成させようか...でもコンロの魔道具はすでにあったから何か差別化を...。」
コンコン。
部屋の扉から音がした。
ーー嫌な予感がする。
すると、ユウナが部屋に入ってきた。
「アウル様。」
「旦那様がお呼びですよ。」
「はい。」
予感が的中してしまい落ち込んだ表情を見せるアウル。
そのまま部屋を出てマグヌスのいる書斎へと向かった。
「お呼びですか父上。」
「おお、来たか。」
部屋に入るとそこには外出の支度をしているマグヌスの姿があった。
「アナスタシアから聞いたぞ。」
「商会を相手に商談をまとめたそうじゃないか。」
「はい、おかげさまで。」
「立派なものだ。」
「私がお前に言ったことを、きちんと実践しているようだな。」
マグヌスは嬉しそうに頭を強く撫でてくれた。
「そ、それで父上。」
「今日はどういったご用で?」
その言葉に何かを思い出した表情を見せるマグヌス。
「おっと、本題を忘れるところだった。」
「アウル、お前も五歳になったことだし領地の視察に連れて行こうと思ってな。」
「視察...ですか?」
「ああ。民がどう暮らし、何に困り、何を必要としているのか。」
「それを知ることも領地を治める貴族の大切な務めだ。」
その後、アウルは支度を済ませるとマグヌスとともに領地へと向かった。
♦︎
ーー何度見ても圧巻だな。
そこには広大に広がる小麦畑。
もう時期収穫時期なのか畑には多くの小麦が実っている。
多くの領民たちも朝から畑仕事に勤しんでいた。
「これは領主様。」
すると、畑の方から一人の男がやってきた。
「おお、コレルか。」
「どうだ、畑の様子は。」
「今年も豊作になりそうですよ。」
「人手が足りないくらいで...そちらは?」
コレルと呼ばれた男はこちらに視線を向けた。
「そうだった。」
「これはウチの次男だ。五歳になって日も経ったから連れてきたのだ。」
「アウルと申します。」
「おお!これはこれはご丁寧に。」
「私はここ一帯の畑を任されているコレルと申します。」
父の話では広大な畑なため何分割かしていて、
各村の村長に各一帯を任せているのだとか。
「それでは他の一帯も見て回るか。」
「では、何かあれば連絡してくれ。」
その後、他の区画も見いて周りながらあることに気がついた。
時代が時代なため老若男女問わず、畑仕事をしている。
俺とさほど年も変わらない子供でさえ働いていた。
ーー俺は恵まれているな。
ーー何かこの人たちのためになることでもあればいんだけど。
その時、あるものに目がついた。
井戸から水を汲む母親と子供の姿だ。
人力で井戸から水を汲み、タライに入れて何往復も水撒きをしている。
「……大変そうだな。」
ーーせめてもっと楽に水が汲めれば...。
その瞬間、前世の記憶が脳裏をよぎった。
「そうだ!あれがあるじゃないか!」
その後、視察を終えたアウルは自室に戻り何やら作業を始めた。
「できた!」
紙には現代人なら誰しもが見たことのある馴染みのもののスケッチが。
そう。
『手押しポンプ』
「見た目はこんな感じだったけど、肝心の仕組みがな...。」
農家などでよく見かける井戸についている手押しポンプ。
幾度と見たことはあるが実際の仕組みはわからなかった。
「レバーを上下にすると水が井戸から汲み上げられるのはわかるんだけど。」
頭をフル回転させても実際に見たこともない仕組みを
専門でもない人間が考えるのは難しい。
「...いや。」
「仕組みをそのまま再現する必要なんてないか。」
この世界には魔術がある。
水を汲み上げるという結果さえ同じなら、
方法は現代と同じである必要はない。
アウルの口元に笑みが浮かぶ。
「そうだ、魔術で再現してみよう。」
新たな魔道具の構想が、
静かに動き始めた。
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