第8作 ものづくりの本質
「これ!アウルが作ったの!?」
そう言って、突き出されたのは先ほどメイドたちに私たハンドバームだった。
「そ、そうだけど...。」
姉の見たこともない迫力に気圧されてしまうアウル。
「こんなすごい物を作ったのに、どうして私には教えてくれなかったの!?」
「塗った瞬間、乾燥していた手がしっとり潤るし、お花の香りもとっても素敵なの!」
「そうだ!母上にも教えてあげましょう!」
セレニアに手を引かれ、アナスタシアの自室に強引に連れて行かれた。
そして、アナスタシアの自室。
「お母様!これ使ってみて!」
「アウルが作ったのよ!」
突然のセレニアにたじろいでしまうアナスタシア。
「こ、これは?」
「とりあえず、開けてみて!」
そういうと、恐る恐る蓋を開けるとほのかに甘い花の匂いが香った。
「あら、とってもいい匂い。」
「こうやって手に塗るよのよ!」
セレニアの言う通り、手に塗ってみる。
指先に少量取り、手の甲へゆっくり伸ばしていく。
乾燥で硬くなっていた肌へすっと馴染み、みるみるうちに艶を取り戻していく。
「ーーっ!?」
思わずアナスタシアは息を呑んだ。
「アウル...これは...?」
「ハ、ハンドバームといって、手の保湿するためのものです。」
「メイドさんたちの手が水仕事で荒れていたので良かれと思って...。」
アナスタシアの見たこともないほどの真剣な眼差しに
少したじろいでしまったアウル。
だが、それも束の間。
アウルの説明でアナスタシアの表情はいつも通り優しい母親の表情に変わった。
「アウルはとっても優しい子ね。」
「あなたのそういう分け隔てなく優しいところ母さんは好きよ。」
「でもね、アウル。」
そして。
ナスタシアの表情から母としての優しい笑みが消える。
そこにいたのは、一人の母ではない。
美容に情熱を燃やす、一人の女性だった。
「こんな素晴らしいものを作ったなら私たちにもちゃーんと持ってきなさいね?」
「ーーいいわね?」
「は、はい。」
女性の美への渇望は男の俺からは理解に難しかった。
♦︎
数日後。
アウルは自室で頭を抱えていた。
「どうやってお金を貯めよう...。」
そう。
いまだにお金稼ぎの目処が立っていないのだ。
構想自体はいくつかあるのだが何が売れて何が売れないのか。
お小遣いもそこまであるわけではないし、慎重に選びたい。
それに作ったとしても実際に売る手段がないのだ。
アウルは机に顔を伏せ悶々としていた。
コンコン。
「アウル様、失礼します。」
すると、ユウナがやってきた。
「どうしたの?ユウナ。」
「奥様がお呼びなのですが...アウル様また何かされたのですか?」
「え...。」
先日ハンドバームの件で少し怖い思いをしたばかりなのに。
でも、それ以外で何か呼びつけられる覚えはない。
「わかった。」
「今から行くよ。」
そして、なぜ呼ばれたかわからない恐怖心でアナスタシアの私室へと向かった。
「お呼びですか?母上。」
「あら、来たわね。」
そこにはアナスタシアとセレニアの姿があった。
「あの...僕また何かやっちゃいました?」
アウルの震えた声に母と姉は顔を見合わせて首を傾げる。
「今日来てもらったのはこれよ。」
セレニアはそう言うとテーブルの上に見覚えのあるものを置いた。
そう。
俺が作ったハンドバームだ。
あの後、アナスタシアとセレニアにお願いされて二人専用の香りのハンドバームを作ったのだ。
「お気に召しませんでしたか?」
「その逆よ!」
事の経緯はこうだ。
どうやらセレニアは俺が作ったハンドバームが嬉しくて、
他の令嬢とのお茶会で自慢して回ったらしい。
令嬢たちも使わせてあげたところとても好評で
どうやって手入れたかしつこく聞かれたのだとか。
「それでね、その令嬢たち伝手でその親たちにも伝わったらしくてね。」
セレニア同様、アナスタシアの元にもお茶会の時に
いろんな貴婦人から質問攻めにあったのだとか。
「まあ、こんな素敵なもの女性だったら誰でも欲しいがると思うわ。」
相当な質問攻めにあったのか二人は少し疲れた表情で苦笑いをした。
「そこでね、アウル。」
「はい。」
すると、アナスタシアは真剣な声色になる。
「よかったら、このハンドバーム。」
「商品化してみない?」
「えっ?」
思いもよらない話に驚きの表情を見せるアウル。
「これならきっと売れるし、何よりたくさんの女性が喜んでくれると思うわぁ。」
ーーそうか。
ーーこういうのでよかったんだ。
お金をかすぐために便利で凄いものを作ろうと思ってたけど、
ささやかでも誰かを笑顔にできるものを作ることだったんだ。
「わかりました!」
「やってみようと思います!」
息子の一皮剥けたような声色に
母親として少し考え深くなってしまうアナスタシアだった。
「それじゃあ、参りましょうか?」
「え?どこへ?」
「懇意にしている商会があるの。」
「きっと、力になってくださるわ。」
そう言うとアウルを連れて馬車に乗るアナスタシア。
そのまま、馬車は商会のある街に向かっていった。
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