第7作 笑顔のためのものづくり
「金が欲しい。」
数日前ーー。
マグヌスの書斎。
「父上、材料を使い切ってしまったのでまたいただきたいのですが。」
「ついこの間、渡したばかりだろう?」
「それがもう底がついてしまいまして。」
その言葉に呆れた表情を見せるマグヌス。
「いいか、アウル。」
「お前のその好奇心と情熱は感心している。」
「それじゃあ...!」
だが、マグヌスは首をよくに振った。
「だが、お前だけ特別扱するわけにはいかん。」
「兄弟皆平等に小遣いをやっているのだ。」
「欲しいものがあれば、自分で手に入れる方法を考えなさい。」
ーーようやく夢中になるものを見つけたのだ。
ーー力になってやりたい気持ちはある。
ーーだが、今甘やかせばこの子のためにはならない。
マグヌスは苦渋の末、その願いを退ける。
息子を想えばこその拒絶だったが、その表情には隠しきれない苦さが滲んでいた。
「わかりました...。」
というのがことの経緯だ。
「とにかく今はどうやってお金を稼ぐか考えないと。」
アウルは自室から飛び出し、家の探索を始めた。
屋敷の中を歩いていると窓の外にメイドたちの姿を見つけた。
アウルは裏口からメイドたちのいる中庭へと出た
「何をしているの?」
「これはアウル様。」
「お洗濯ですが、何かご用ですか?」
冬の始まりを告げる冷たい風が中庭を吹き抜ける。
メイドたちは赤くなった手で洗濯物を洗っていた。
ーーこんな寒空の下で水仕事なんて。
すると、メイドの手の異変に気づく。
「その手...。」
「あぁ、お見苦しいものを。」
「この季節になりますとどうしても。」
手は乾燥とあかぎれでとても痛々しい。
お仕事とはいえ、なんとかならないものか。
その時。
ふと、あるものを思い出した。
「そうだ!」
「明日また来るよ!」
そういうとアウルは中庭からは走り去ってく。
メイドたちはあっという間のことで呆然と立ち尽くしていた。
アウルはその後、自室で何やら作業を始めようとしていた。
「よし、この材料があればできるはずだ。」
自室に戻る前、セバスにお願いして用意してもらった。
机の上には、
”オリーブオイル”
”蜂蜜”
”蜜蝋の蝋燭”
そして、中庭に咲いていたラベンダーに似た花。
とてもいい匂いだったから少々拝借してきた。
「まずは蝋燭から芯を取り外した蜜蝋を細かく切る。」
「次はキッチンから借りてきた鍋にオリーブオイルと布で包んだラベンダーの花を入れる。」
「そして...。」
アウルは引き出しから魔鉄板を取り出した。
「まだ試作段階の術式だけど動作確認はしたから多分大丈夫だろう。」
そう。
ここ数日余った材料を使って色々な術式を試していたのだ。
これもその一つで魔力を流すと火が出る魔道具。
まだ構想段階ではあるが将来的に、
コンロの魔道具として形にしたいと思っている。
「じゃあこの術式に魔力を流して。」
すると、術式から小さな炎が出てきた。
「火加減はこのくらいでいいかな。」
そういうと、術式の上に鍋を乗っける。
そして、火にかけること30分ほど。
「そろそろ頃合いかな?」
鍋からラベンダーを取り出して、
鍋に残ったオイルの匂いを嗅ぐとラベンダーの
スッキリとしたほのかに甘い匂いが香った。
ーー昔の理科の実験とか思い出すなあ。
ーーそれが楽しくて家でもいろんなの作ったっけ。
前世の記憶を思い出し、どこか心がはずむ。
その後、冷ました油に細かく刻んだ蜜蝋を少し入れて、
弱火で完全に溶けるまでよく混ぜる。
完全に溶けたら固まらない程度に冷まして、
最後に蜂蜜を少し加える。
「あれ?」
鍋の底の方に蜂蜜が溜まり始めた。
もう一度混ぜる。
だが、蜂蜜は均一に混ざらず、容器の底には液体が残っている。
「油と蜂蜜は、簡単には混ざらないのか...。」
「乳化剤が必要かな。」
「また一から作るのも面倒だな...。」
ーーよし。それなら。
「構成を組み替えれば……。」
アウルは鍋に手をかけると詠唱を始めた。
『構築』
すると。
そこに溜まっていた蜂蜜が油とうまく混ざり合った。
そして、出来上がったものを指で掬って手に馴染ませてみる。
「おお、問題なさそうだ!」
ーーやっぱり無属性魔法は便利だ!
「よし!あとは出来上がったものを容器に入れて。」
「一晩冷まして固めれば『ハンドバーム』の完成!」
ひと段落つきアウルはソファーに腰をかける。
「固まるまで冷ますのも時間かかるし、次は冷やす術式を作ってみてもいいかも。」
「そうすれば、冷蔵庫とか冷房とか現代に近いものができそうだ。」
完成の喜びに浸る間もなく、アウルの思考は次なる発明へと向かっていた。
そして翌日。
アウルは昨日と同様、メイドのいる中庭へと向かった。
「アウル様、これは?」
メイドたちは不思議な容器を渡された。
中には何やらとてもいい香りのするものが入っていた。
「これはハンドバーム...軟膏みたいなものだよ。」
「手荒れを防いでくれるから、水仕事を終えた後とか寝る前に塗ってみて。」
「多分、手荒れも少しは改善すると思うから。」
アウルのその言葉にメイドたちは目を丸くし、思わず顔を見合わせた。
「こんな貴重なものを私たちのために...。」
「アウル様...ありがとうございます...。」
「数はあるから後で他のメイドに人たちにも渡してあげて!」
「じゃあ、お仕事頑張ってね!」
少し気恥ずかしそうにアウルはその場をさっていった。
「みんな喜んでくれてよかった!」
その後、アウルは自室に戻りメイドたちの喜ぶ顔を思い出し
作ったもので人の笑顔が見れたことに満足していた。
「さーて、次は何を...。」
そう。
アウルは忘れていた。
「お金稼ぎのことすっかり忘れてた。」
一番重要な目的を忘れていてアウルは気落ちしていた。
そんな時。
ゴンゴン!
部屋の扉を強く叩く音が聞こえた。
扉の向こうで慌ただしい女性の声が聞こえてきた。
「アウル!入るわよ!」
返事を待たずにその声の主は勢いよく入ってきた。
扉が勢いよく開く。
「ね、姉様!?」
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