第6作 最初の発明
「領地にまた魔物の被害か。」
報告書に目を通しながら、小さく息をつく。
「そろそろファルティスも学園に通わす頃だ。」
「その前に、一度実戦を経験させるにはちょうどいいかもしれんな。」
我がクレアトル家は由緒正しき魔法師の家系だ。
ノインシュタット王家より国の南東部の領地を賜り、
隣国フォルトナ帝国と魔物の脅威から国の守護を任されている。
そのため、後継になるものたちは”強さの格”を求められる。
魔法師としての才が権威に直結する我が国では必要不可欠なものだ。
幸い、次代の領主となる長男フォルティスは私と同じ「火属性の5th」。
長女のセレニアも母親のアナスタシア同様「水属性の4th」だった。
ただ。
昨日、祝福の儀を行った次男のアウル。
あろう事か「無属性の1st」となってしまった。
実力主義の貴族社会において相当苦労することになるだろう。
本人も祝福の儀の直後、かなりの落ち込みを見せていたからな。
父としてどう励ませば良いか、どう道を示せば良いか。
だが、それも杞憂だった。
昨夜のアウルの瞳は落ち込むどころか新たな扉を開いたのか
小さい頃に私に向けていた憧れのそれと同じように思えた。
私への興味が薄れて少し悲しい気持ちはあるが
子供が自分らしくのびのびとする姿を見ることができるのはとても好ましい。
あの子が笑って生きられるのなら、それでいい。
他の誰が何と言おうと、父である私だけは必ず味方でいよう。
マグヌスはそう心に誓うのだった。
コンコン。
「アウルです。」
「父上、いらっしゃいますか?」
「入りなさい。」
扉を開けるとそこには机に向かい
書類仕事をしているマグヌスの姿があった。
「どうした、お前がここに来るの珍しいな。」
「お仕事中、申し訳ありません。」
「お聞きしたいことがありまして。」
マグヌスは首を傾げた。
「この家に魔鉄ってありますか?」
「あれば少し分けていただきたいのですが。」
「魔鉄か?」
「確か倉庫にいくつかあるが...一体何に使うんだ?」
息子から思いもよらぬ要望に少し驚きの表情を見せるマグヌス。
「昨日お話しした魔術についての実験に使おうかと。」
「ほお。魔術に興味を持ったか。」
「それなら後ほどセバスに用意させよう。」
「だが、危険なことはするなよ?」
「何かするときは必ずユウナか他の従者を伴にすること。」
「はい!」
「ありがとうございます、父上!」
部屋を出て行ったアウルを見て柔らかな表情を見せるマグヌスだった。
その後、すぐにセバスが魔鉄を自室に持ってきてくれた。
「アウル様、ご希望のお品を持ってまいりました。」
「セバス、ありがとう!」
セバスが持ってきた木箱を覗くとそこには
子供の手のひらサイズの鉱石がいくつか入っている。
「これが魔鉄?」
思ったより数が少ないし、何も加工されていない原鉱のままか。
「何か問題ありましたかな?」
「う、うんうん!」
「これで大丈夫だよ、ありがとう!」
そういうと、セバスは木箱を置き部屋を退出していった。
ーーんー、インゴットなり加工された状態だと思ったらまさか原鉱とは。
「どうなさったんですか、アウル様。」
マグヌスの言いつけ通り、実験をするために
お目付役としてユウナを自室に呼んだ。
「ちょっと思ってたのと違ったからどうしようかなと思って。」
原鉱からいきなり使えるわけじゃないか。
精錬して、不純物を取り除いて、板材に加工して……。
「この工程、鍛冶場じゃないと無理だよな。」
そのとき、左手の魔術紋が目に入った。
ーーそうだ!俺にはこれがあるじゃないか!
すると、魔鉄の原鉱を手に取り机へと向かう。
ーー予想が正しければこれでなんとかなるはず。
「まずは原鉱から魔鉄とそれ以外で分解する。」
原鉱に手をかざす。
『分解』
すると。
原鉱から魔鉄と石の塊や砂などの不純物に分解された。
「やっぱり...!」
続けて分解して取り出した魔鉄に手をかざす。
『構築』
魔鉄は徐々に形を変え、最終的に一枚の金属の板へと変化した。
ーーすごい!これはすごいぞ!
本来ならいくつもの面倒な工程を
無属性魔法を使えば一瞬で解決できた。
「えっ!?石から一枚の板になりました!」
「一体何がどうなってるんですか!?」
「僕の無属性魔法で原鉱から魔鉄だけ取り出して板に加工したんだよ。」
魔道具作りに無属性魔法は相性がいい。
この組み合わせなら、できることは一気に広がる。
「すごいじゃないですか!」
「私、無属性魔法は何の役にも立たないって聞いていましたが...。」
その言葉を口にした途端、ユウナははっとして慌てて口元を押さえた。
「あっ……。」
そんな彼女の様子に、アウルは苦笑する。
「まあ、実際こんな使い方するのは僕くらいだと思うよ。」
「正確には、誰も『そういう使い方』を思いつかなかっただけだと思うけど。」
そう。
無属性魔法で分解や構築を行うには、対象がどんなもので、
どんな工程を経て作られるのかを理解していなければならない。
この世界では、それを知る術がまだ少ない。
だからこそ。
前世の知識を持つ俺だからこそ、この魔法を活かせる。
「よしこれで材料は揃った!」
「早速、術式を施してみよう!」
まずは昨日やった通り既存の条件に魔力量を調整する条件を付け加えて、
注入する魔力量に合わせた光量になるように設定。
そして今回は魔石でも魔力量の調整ができるようにする。
「どんな感じにしようかな。」
現代で言えば、魔石は乾電池のようなものだ。
魔力を持たない人たちは魔道具を使うときは毎回着け外ししている。
ボタン制御にすれば、押すだけで光が灯るようになって便利だよな。
それに加えて、光量をダイヤル式にして好きに強弱をつけられるようにしてみよう。
そうすれば、魔力供給量を調整できて魔石の消費も抑えられるはず。
出来上がった構想で魔鉄板に術式を施していく。
「できた!」
「一度この状態で光らせてみよう。」
昨日の二の前にならないように最小限の魔力を注入。
しかし、光は灯らない。
「あれ?魔力が少なすぎたかな?」
少しづつ魔力量を増やしていくがやはりつかない。
ーーどうしてつかないんだ?術式に問題ないはずだけど。
そして、既存の魔道具のランプに視線を向ける。
そこに記述している術式と自分が書いたものを見比べるとあることに気づいた。
「もしかしてインクか?」
既存の術式の触ってみるとどこがサラサラとした質感なのがわかる。
それに対して、自分が書いたものを触ると板に定着せず指でなぞると消えてしまった。
ーー盲点だった。
この時代のインクは金属のツルツルとした表面には適さない。
ーーでもこのサラサラとした質感は一体...。
「ものは試しだ。」
そう口にすると既存の術式に手をかざす。
『分解』
すると。
魔法陣はインクと細かな鉄粉のようなものが出てきた。
そこであることに気がつく。
「これも魔鉄か?」
魔鉄でできた板同様、鉄粉から魔力を感じる。
おそらく、魔鉄を細かくしてインクに混ぜたのだろう。
そして、推測だがもう一つ。
早速、鉄粉をインクに混ぜてみる。
ペンにインクをつけてもう一手間。
魔力を流しながら術式を描き始めた。
すると。
インクは魔鉄の板に染み込むように書くことができた。
「よし、できた!」
「では、改めて...。」
出来上がった魔術紋に最小限の魔力を注ぎ込む。
その時。
魔術紋から小さな灯りが一つ灯った。
「っ!」
そして、魔力量を徐々に増やしていくと
それに比例して光量も変化していく。
「よし!これで術式は問題ない!」
「あとは...。」
ランプ本体に魔石を取り付ける箇所を作って、
ボタンと光量を構成するダイヤルをつける作業だ。
分解と構築の魔法、残った魔鉄を使ってランプの土台に細工をしていく。
「これで本当の完成だ!」
出来上がったランプの魔道具を眺めながら
ものづくりの楽しさを再確認する。
「ねえ、ユウナちょっと試しに...。」
ユウナの方に視線を向けるとそこには
椅子にもたれかかり、静かな寝息を立てている姿があった。
「……っ!」
「お、起きてます!」
「ちゃんと起きてますから!」
アウルの呼びかけに勢いよく飛び上がるユウナ。
苦笑いを浮かべながらアウルはユウナを手招いた。
「これをアウル様が?」
「そうだよ。」
「悪いけど、このボタンを押してみてくれるかな?」
ユウナは恐る恐るボタンを押す。
カチッ!
次の瞬間。
ランプに淡い光が灯る。
「えっ!?」
「ボタンを押しただけで点いたんですけど!?」
「魔石を付け替えなくても使えるんですか?」
「うん。中に魔石を組み込んだからね。」
「ボタンを押せば点いたり消えたりするようにしたんだ。」
「今度は、そのダイヤルを回してみて。」
言われるがままダイヤルを少しづつ回してみるユウナ。
「うわぁ!光がだんだん強くなってきた!」
「そう。ダイヤルで光を調整させるようにもしてみたんだ!」
「すごいです、アウル様!」
「ボタンを押すだけで灯りがついて、明るさまで変えられるなんて!」
「とっても便利じゃないですか!」
ダイヤルを回し、明るさが変わるたびにユウナは目を輝かせる。
「夜のお仕事や読書にもぴったりですし、魔石も長持ちしそうです!」
「こんな魔道具、きっとみんな欲しがります!
ユウナは楽しそうにボタンを押したり、ダイヤルを回したりしている。
それをみながら嬉しそうに微笑むアウル。
ああ、思い出す。
作ったものが人の笑顔に変わるこの瞬間。
これだから俺はものづくりにハマったんだ。
ーー次は何を作ろうかな。
この世界には、まだ便利にできるものが山ほどある。
そんなことを考えるだけで胸が高鳴るアウルだった。
お忙しい中お時間を割いて、本作品を見ていただきありがとうございます!
いかがだったでしょうか?
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作者のやる気にもつながります!
読者の方が満足できるお話を書けるように頑張って参ります!




