第4作 もう一つの可能性
「アウル様。」
「こちらにいらしたのですね。」
書庫に一人の女性が入ってきた。
「あ、うん。」
「どうしたの?ユウナ。」
柔らかな栗色の髪を肩まで伸ばした
メイド服のその女性ーーユウナ。
この屋敷のメイドであり、俺のお世話係でもある。
「こんなに本を散らかして。」
「灯りもつけずに目が悪くなってしまいますよ?」
窓の外を見ると日は傾き、
部屋の中は本棚の影に隠れて薄暗くなっていた。
ユウナは扉近くにかけてあった
ランプを手に取り、灯りを灯した。
そして、アウルはその光景に自然と疑問を感じた。
「ねえ、ユウナ。」
「そのランプ、今どうやってつけたの?」
そのランプに灯った光は炎ではなかった。
ましてや電気でつけているわけはない。
「もしかして、魔法?」
アウルの問いかけに首を傾げるユウナ。
「何をおっしゃってるんですか。」
「平民の私が魔法を使えるわけないじゃないですか。」
「これは魔道具ですよぉ。」
ーー魔道具!
また新しい発見に胸が高鳴る。
「それでこれはどうやって光ってるの?」
アウルの目はキラキラと輝いていた。
「私もあまり詳しくは知らないのですが。」
「確かランプの内側に書かれたこの『術式』?で光ってるみたいですよ。」
ユウナが指を刺した先には魔法陣のような図形が描かれていた。
「そして、さっき嵌めた魔石を抜くと〜?」
ランプの光が消えた。
そしてもう一度ユウナは魔石を嵌めると再び光が灯った。
ーーおお!
「どうですか?わかりましたかアウル様。」
自慢げな表情を浮かべるユウナ。
「すごい!」
「それで、この術式っていうのはどういう仕組みになってるの?」
「それにその魔石って何?」
「魔石は魔物から取れるもので...。」
「仕組みは、え、え〜っと...。」
先ほどまで自慢げの表情だったユウナだが
アウルの間髪入れずの質問攻めにたじろぐ。
「そ、そう!魔術!魔術ですよアウル様!」
ユウナはアウルがちょうど手にしていた一冊の本を指差した。
「詳しいことは分からないですけど、魔術師さんが作ってるって聞きました!」
「それを見れば全部載ってますよ!」
「魔術...。」
アウルも自分が手にしている本に視線を向ける。
先ほどユウナが来る前に気になって手に取ったのだ。
ーーでも魔法と魔術はどう違うんだろう。それに...。
「ねえ、ユウナ。」
「魔法と魔術ってどう違うーー。」
「あっ!アウル様!」
突然ユウナが大きな声を上げた。
「もうご夕食のお時間でした!」
「ささ!食堂へ参りますよ〜!」
ーーこいつ、知らないな。
アウルの話を遮り、半ば強引に書庫から引きづり出されてしまった。
そして、食堂に着くと家族四人がすでに席に着いていた。
「おお、アウル来たか。」
「遅かったわね?」
「部屋で何をしていたの?」
「書庫に行ってました。」
マグヌスとアナスタシアは顔を見合わせて首を傾げる。
「書庫で一体何を調べていたの?」
姉のセレニアが疑問を口にする。
「魔法について調べていました。」
その言葉で空気が凍りついた。
恐らくみんな俺が無属性魔法であることを気にしていると思っているのだろう。
気持ちはありがたいが今しがた可能性を見つけて非常に興奮している。
ーーそれともう一つ。
「それより、父上!」
「魔術について教えていただけませんか?」
マグヌスは質問の内容に疑問を持った。
「魔術?魔法について調べていたのではないのか?」
「そうですが、魔術についても気になって。」
「そ、そうか!」
「興味を持つのはいいことだ。」
アウルのその言葉に少し嬉しそうな表情を浮かべるマグヌス。
「ちなみにアウルは魔術のことをどのくらい知っている?」
「えっと、術式を書くことで魔法を付与することができて、
付与された道具のことを魔道具ということぐらいです。」
「おお!その年でそこまで理解しているとはすごいぞ!」
壁際に立つユウナが”私が教えました”と言わんばかりに
自慢げな表情を浮かべているのが目に入った。
「魔術は簡単に言うと魔法を技術的に再現したものだ。」
「魔法は己に刻まれた属性紋を用いて使用する。それも一属性のみ。」
「対して、魔術は術式を刻み魔力を通すことで属性の制限なく使用することができる。」
ーー属性の制限がない!?
「そ、それじゃあ。」
「魔法より魔術の方が優れているのではないですか?」
その言葉にマグヌスは眉を顰め、首を横に振った。
「確かに今の説明のみならば魔術の方が優れている。」
「しかし、魔術には魔法に比べて欠点が多い。」
「欠点?」
「まず、魔法に比べて魔力効率が圧倒的に悪い。」
すると、マグヌスは手から火の玉が出てきた。
「たとえば、この下位魔法『火球』。」
「これは火属性魔法の中でもっとも魔力消費が少ない魔法だが
それを魔術で再現するとその倍以上の魔力を消耗する。」
「加えて威力も劣り、中位以上の魔法は今なお再現できていない。」
「そのため、現在の魔術は魔法を補う技術として、魔道具の製作に活用されている。」
なるほど。
戦いでは魔法に敵わないから、魔道具という形で発展してきたのか。
「便利なら、もっと普及していても良さそうですが。」
「今日街や屋敷を見て回りましたけど、あまりそれらしいものは見かけなかったのですが。」
マグヌスは苦笑を浮かべた。
「それはな、魔道具が一般的にはあまり普及していないからだな。」
そこに子供たちは皆首を傾げた。
便利なものならば普及していてもおかしくはない。
「それはなぜですか?」
「魔石があれば魔力がない平民でも扱えるのに。」
すると。
今まで黙って聞いていた兄のフォルティスが口を開く。
「簡単な話だ。」
「魔道具を作れる魔術師と呼ばれるものが極めて少ないからだ。」
「なぜ少ないのですか?」
次はセレニアが疑問を投げかけた。
「魔道具に必要な術式の構築には高度な知識と技術が必要になる。」
「そのため、魔法に劣る魔術を好んで学ぶものが少ないんだよ。」
確かに父上の言う通りだ。
魔法が使える貴族にとってわざわざ学ぼうなんて
物好きな者は少ないだろう。。
「それにね、魔石も消耗品なのに、とても高価なの。」
アナスタシアが補足する。
「作れる者が少なく、素材も限られる。」
「だから魔道具は高価になり、一部の貴族や大商人しか手にすることができないんだ。」
折角便利なのにそれを使える人が少ないのは勿体無い。
一般的に普及すれば魔力の持たない平民の人たちでも楽ができるのに。
どうにかならないものかな。
「何はともあれ、アウルよ。」
「何かに興味を持つことは大切なことだ。」
「また気になることがあればいつでも話を聞くからな。」
「父上、ありがとうございます。」
そうだ。
まだ何も初めていない。
魔法も。
魔術も。
魔道具も。
この世界には、俺の知らない技術がまだ山ほどある。
折角の異世界なんだから
面白そうなことは片っ端からやってみよう。
そんな期待を胸に、アウルは静かに微笑んだ。
この小さな好奇心が、やがて世界を変える第一歩になることを、
この時のアウルはまだ知らない。
お忙しい中お時間を割いて、本作品を見ていただきありがとうございます!
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