第2作 始まりの一冊
祝福の儀を終えたアウル一行は
馬車に揺られながら帰路に向かっていた。
アウルはひとり、馬車の窓から外の景色を静かにと眺めていた。
その横顔はどこか沈んで見えた。
「あなた。」
「やっぱり、アウル落ち込んでいるわね。」
その光景を見て心配そうに見つめるアナスタシア。
「小さい頃からあなたみたいな”立派な魔法師になるんだ!”って息込んでたもの。」
「そうだな。」
「よりにもよって『無属性』とは。」
無属性魔法。
あの後、司教から詳しい説明があった。
無属性は、全七属性ある魔法の一つ。
その中でも極端に数が少なく、そのため力のほとんどが未解明だった。
できることといえば、
『軽い物体を短時間浮遊させること。』
『物を分解すること。』
『物同士を合成。』
できることは、この程度だという。
それも、物の分解・合成についてははっきりした使い方が分からず
実用性がいまひとつで、何に使う魔法なのか誰にもよく分かっていないのだとか。
この時代では、戦闘向きの魔法ほど高く評価されるようだ。
攻撃能力を持たない無属性魔法は、あまりよく思われていないらしい。
両親の微妙な表情も理解できた。
「アウル、魔法だけが全てではない。」
「そうだ!剣術なんてどうだ?」
「上達すれば王国の騎士団にも入れるぞ?」
「そうですね。」
アウルの空返事に泣き顔を浮かべるマグヌスと
苦笑いをしながらその光景を見るアナスタシアだった。
ーー本当に異世界だ。
五歳までの記憶は確かにある。
ただ、記憶が戻ってから改めて見ると見え方が違う。
石造りでできた街並み。
露天が並ぶ繁華街。
見たこともない食材。
何より時折見かける耳と尻尾が生えた人たち。
ファンタジーでよく出てくる獣人だろうか。
目に映るもの全てが新鮮でたまらない。
両親の心配をよそに、
アウルの胸は、未知の世界への好奇心でいっぱいだった。
そして、教会から馬車に揺られること一時間、
街から外れた先には穀倉地帯が広がっていた。
ここ、クレアトル領は国一番の麦の産地らしく
両地の特産品にもなっている。
そして、穀倉地帯を抜けた先、
一際目立つ大きな屋敷が聳え立っていた。
そう。
クレアトル家、この世界の俺の我が家だ。
「おかえりなさいませ。旦那様方。」
家に着くと馬車のそばに一人の男性が近づいてきた。
執事の格好をした白髪に白い髭を生やしたダンディーなおじ様。
このクレアトル家の執事長ーーセバス。
「ああ。今戻った。」
馬車から降りると両親らと屋敷の中へ入った。
「お父様!お母様!おかえりなさい!」
「おお、アウル!祝福の儀はどうだった?」
家の中に入るとそこには両親に似た青年と少女がいた。
母親譲りの黄金色の髪と空色の瞳を持つ少女――姉のセレニア。
父親譲りの凛々しい顔立ちに、翡翠色の瞳を持つ青年――兄のファルティス。
「無属性の1stと言われました。」
「あぁ...。それは....。」
兄は教会での両親と同じような微妙な反応を見せる。
姉の方は突然抱き寄せてきた。
「大丈夫よ、アウル!」
「もしなんか言う人がいたらお姉様が文句言ってあげるわ!」
「だ、大丈夫ですよ姉上!」
「別に気にしていませんから!」
「それより少し疲れたのでお部屋の方に戻りますね。」
やんわりと姉の腕をほどき、、
アウルは自室へとかけていった。
「全く...みんな心配しすぎだって。」
属性がどうあれ、魔法が使えるんだ。
前世では考えられない超常的な力。
現代日本人ならワクワクしないはずがない。
ふと、視線を向けるとそこには鏡に映る少年がいた。
「おお、これが俺か?」
鏡に映っていたのは、サラサラとした黒髪に深い青の瞳を持つ幼い少年。
整った顔立ちはどこか中性的で、気品すら感じさせる美しさをまとっていた。
「前世では考えられないほどの美少年だな。」
しばらく見惚れているとふと我に帰った。
ーーいかんいかん!今は魔法だ!
「それにしても魔法ってどうやって使うんだろう?」
その場で手をかざしてみたり、
浮けと命令してみても何も起こらない。
「んー...。」
ふと、机の上に置かれた一冊の本が目に入った。
「そうだ!」
「確か屋敷の中に書庫があったはず!」
「もしかしたらそこに何かあるかも!」
自室から飛び出し記憶にある書庫がある一階へと向かった。
そして、書庫にたどり着いたアウルの目には驚きの光景が広がっていた。
「すごい、さすが貴族の家。」
「ちょっとした図書館並みだ。」
部屋中に並んだ本棚。
そして、その本棚には所狭しと本が並べられていた。
「これだけあれば、魔法に関する本があるはず...。」
書庫の中を散策していると一冊の本が目に入った。
『魔法学入門』
ーーあった!
高鳴る鼓動を抑えながら、アウルはそっと本へと手を伸ばす。
その指先が、本の背表紙に触れた。
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