第9話 頼りないデッキ
風見鶏のカードは横に置いて、次のカードを捲る。
【ジャンボラビット】
属性 風
コスト 3
パワー 2
タフネス 2
位相 地
能力 ???
“小さい動物をいじめるな?あれを見りゃ考えも変わるさ”
丸々と太った兎が、地面を踏み割るように跳ねている絵が描かれている。
……見た目だけなら強そうだ。
コスト3でパワー2、タフネス2。
さっきの風見鶏より明らかに見劣りする。
や、能力次第では話が変わるのかもしれない。けれど、その肝心の能力欄は『???』のままだ。
これが一番困る。
弱いカードなのか。能力込みなら化けるカードなのか。何もわからない。
カードゲームで効果が読めないなんて、ほとんど縛りプレイだ。
こんな状態で、まともなデッキなんて組めるのか?
十枚すべて確認してみたが、召喚獣の能力欄はどれも『???』のままだった。
よくわからないが、明日ローウェンに聞いてみよう。
【エアショット】
属性 風
コスト 2
対象に3点のダメージを与える
“エアショットで貫けないものなどない ―風の魔導師―”
召喚獣だけ並べればいいわけじゃないのか。
直接ダメージを飛ばせるなら、下手な召喚獣より強い場面もありそうだ。
となると、デッキの組み方もかなり重要になる。
……いや、今の僕にそんな贅沢を言っている余裕はないか。
そもそも持っているカードが少なすぎる。黄色のパックには、風属性のカードばかり入っていた。
次は灰色のパックだ。
封を切ると、黄色のパックとは違って、少し地味なカードが出てきた。
【時計塔】
属性 無
コスト 4
パワー 0
タフネス 10
位相 地
能力 ???
“時計塔はこの街をずっと守っている”
時計塔?
パワーは0。タフネスは10。
攻撃するカードではなく、場に残して守るカードなんだろうか。
能力が見えれば判断できるのに、やっぱりここも「???」のままだ。
灰色のパックには、無属性のカードだけが入っていた。
強いかどうかはともかく、カード不足の僕にはありがたい。
黄色と灰色、三つのパックを開け終えると、残るのはルナさんにもらった黒いパックだけだった。
手に取った瞬間、少しだけ指先が冷えた。
「……開かない?」
ほかのパックと同じように封を切ろうとしたが、びくともしない。
力を入れても、爪を立てても、紙のはずの封がまるで金属みたいに硬い。
「それは資格がある奴にしか開けられない」
ルナさんの言葉が蘇る。僕にはまだ、このパックを開く資格がないらしい。
仕方なく黒いパックを脇に置き、今あるカードをすべて並べる。
数だけ見れば、デッキらしきものは作れる。
だが、中身はひどい。
コストは偏っている。
魔法カードは少ない。
召喚獣の能力はほとんど読めない。
結局、僕にできたのは、今開封した二十五枚に、契約した三体を突っ込んだだけの簡易デッキだった。
これで戦えと言われても困る。
僕と一緒に召喚された人たちも、似たような状態なんだろうか。
せっかくならカードを揃えて、ちゃんとバランスを取りたい。けれど、金のない僕にできることは限られている。
祠を回る。
ローウェンに追加の金をねだる。
未解放カードの条件を探る。
今のところ、そのくらいしかない。
現状、ローウェンに勝てる見込みはまるでない。それなのに、なぜだろう。
机の上に並んだカードを見ていると、胸の奥がじわじわ熱くなってくる。
弱い。足りない。わからない。
でも、デッキはある。明日が楽しみで、なかなか眠れそうになかった。
翌朝、ローウェンと一緒に朝食を取る。
パンに薄いスープ。別段おいしいものでもないが、今の僕には味なんてほとんど入ってこなかった。
頭の中にあるのは、何度も並べ替えたカードのことだけだ。
風見鶏
ジャンボラビット
エアショット
時計塔
風狼、森ふくろう、炎猿。
強いのか弱いのかもわからない。能力欄はほとんど「???」のまま。デッキと呼ぶにはあまりにも頼りない紙束。
それでも、昨日までとは違う。僕の手元には、戦うためのカードがある。
「飯食ったら、軽く勝負するぞ。時間はそこまでないからな」
ローウェンが何気なく言ったその一言に、僕はほとんど反射で顔を上げた。
「食べ終わったらすぐやろう。どこでやる?」
即答した僕を見て、ローウェンは少しだけ眉を上げた。
「俺は、お前が召喚できない不良品だと聞いてる。なんでそこまでやる気なんだよ」
「召喚できないのは昨日までだろ?昨日、召喚カードを手に入れた。今日は違う」
ローウェンは呆れたような顔をした。
僕が召喚できることを、まるで信じていない。
……いや、本当に召喚できるのか、僕もまだ知らないんだけど。
カードはある。
デッキも組んだ。
でも、それが実際に召喚できるかは、まだ一度も試していない。
失敗すれば、昨日までと何も変わらない。僕はやっぱり、召喚できない不良品のままだ。
それでも、不思議と怖さより先に、早く確かめたいという気持ちが勝っていた。
「いいぜ。本当に召喚できるなら話は早い。全然召喚できないやつの相手をするのは、こっちも面倒だからな」
「じゃあ、すぐ行こう」
「飯くらい最後まで食え」
言われて、僕は慌てて残りのパンを口に押し込んだ。
召喚できるのか、できないのか。
その答えが、もうすぐ出る。




