第8話 能力欄は???
「いや、ちょっと周りを見てただけ」
ローウェンは怪しむように僕を見たが、門前の混雑に気を取られたのか、それ以上は追及してこなかった。
促されるまま王都に入る。
門を抜けた瞬間、音が一段増えた。石畳を叩く馬車の車輪、露店の呼び込み、遠くの鐘の音。通りの左右には店が並び、人の流れが絶えず動いている。
ローウェンにくっついて、街を歩く。
商店街のような場所、その中で、ひときわ派手な建物が目についた。
看板には、色とりどりの召喚獣が描かれている。
「あれが召喚具店だ」
「召喚具店?」
「カードやパックを扱う店だ。お前らの言い方なら、カードショップってやつだな」
外観はやたら派手なのに、店の中は意外なくらい静かだった。客も、僕たち以外には見当たらない。
「いらっしゃいませ」
魔女みたいな大きなとんがり帽子をかぶったお姉さんが、カウンター越しににこやかに笑った。
紫色のローブの胸元はゆるく、長い黒髪が片側に流れている。細い指にはいくつもの指輪がはまり、いかにも「魔法使いです」という格好なのに、どこか胡散臭い。
店先には、色とりどりのカードパックが所狭しと並べられていた。黄、赤、青、緑。袋の表面には、それぞれ違う紋様や召喚獣らしき影が描かれている。
まずい。見ているだけで、テンションが上がる。
「種類がいっぱいありますけど、それぞれ違うんですか?」
思わず、店員のお姉さんに聞いてしまった。
「はい。入っている召喚獣の傾向が異なります。五枚入りと十枚入りがありまして、特定の属性が出やすいものもありますよ」
「レアが出やすいのがあったり?」
そう言いながら、僕は緑のパックへ手を伸ばしかけた。
その直後、横からローウェンの声が飛ぶ。
「ウィンドパックの大きい方を二つ。ほら、その黄色いパックから二つ取れ」
先に指定された。風の陣営だから黄色のパックなんだろうか?
いや、わかる。わかるけど、自分で選びたかった。
「あと、お前みたいな召喚されたやつはよく言うが、この世界のカードにレアとかコモンとかいう格付けはないぞ。強いか弱いかは、自分で見極めろ」
「レアリティなし……」
それはそれで、かなり怖い。
黄色のパックは五つ並んでいる。
どれも同じように見えるのに、なぜか一つずつ気配が違う気がした。たぶん気のせいだ。けれど、カードを選ぶ時にそういう直感を無視するのも違う気がする。
僕はその中から、なんとなく惹かれた二つを選び取った。
「じゃあ、この二つにする」
「初めてのお客様ですよね?こちら、おまけに差し上げます。ぜひ当店をご贔屓に」
そう言って、お姉さんは灰色の小さなパックを一つ手渡してくれた。
おそらく五枚入りのパックだ。カード不足の僕には、ありがたすぎる。
「ありがとうございます。また必ずここに買いに来ます」
「いい心がけですね」
お姉さんがにこりと笑う。その横で、ローウェンが別のパックを二つ手に取っていた。
「俺はこの二つ。支払いはまとめて持つ」
「……それ、僕の借金に混ぜてないよな?」
「当たり前だろ。俺の分は俺の金だ」
ローウェンは呆れたように言うが、さっき金を貸すと言われたばかりなので、こちらとしては警戒して当然だ。
「一瞬信用できなかった」
「失礼なやつだな」
お店のお姉さんに、見送られながら二人で店を出る。
「街外れにある館で、しばらくはみっちり修行するからな」
カードパックを手に入れたおかげで、足取りはさっきまでよりずっと軽い。
王都の中心から離れるにつれて、人通りは少しずつ減っていった。店の看板もまばらになり、石畳の道もだんだん静かになっていく。
やがて民家が少なくなり、開けた場所へ出た。
少し離れた先に、やや大きめの館が見える。立派ではあるが、貴族の屋敷というよりは、訓練施設を兼ねた別邸といった雰囲気だった。
「ここだ」
「思ったよりちゃんとしてる」
「王族預かりの人間だからな。寝床くらいは用意される」
館に入ると、中は思ったより静かだった。人の気配はあるが、騒がしくはない。廊下には簡単な武具や訓練用の木剣が置かれていて、ただの宿ではないことがわかる。
「もう遅いから、今日は自由にしていいぞ。時間はあるし、パックを開けてデッキ強化でもしとけ」
そこで、ふと気になった。
「そういえば、僕の風狼はどこに行ったんだ?」
「バインダーに入ってるだろ。胸元から取り出してみろよ」
胸元?
言われた通りジャケットの中へ手を突っ込むと、厚い本みたいなものが指に引っかかった。
――んな馬鹿な。
引っ張ると、魔法みたいにするりと薄いカードバインダーが出てくる。
「そうそう。その中に入ってる。使わない召喚獣も、基本はそこに収納されてるからな」
亜空間に収納されてるとかか?
原理はわからないが、いつでも手元に置いておけるのは相当助かる。
「ほい、これ今日の飯な。部屋はその手前を使ってくれ。俺は二階の部屋にいるから、なんかあれば呼べ」
ローウェンはパンと水を渡すと、さっさと二階へ上がっていってしまった。
僕の部屋には、ベッドと机が一つずつ置かれていた。飾り気はないが、清潔で、寝るだけなら十分だ。
さて、僕もカードを確認しないと。
黄色のパックが二つ。
黒のパックが一つ。
灰色の小さいパックが一つ。
馴染みのあるカードだとよかったんだけど、そう都合よくはいかないらしい。
まずは二つある黄色のパックに手を伸ばす。
ぺりぺりと封を開ける。この瞬間がたまらない。
記念すべき一枚目は――
【風見鶏】 属性 風
コスト 1
パワー 2
タフネス 2
位相 空/地
能力 ???
“風の向くまま、気の向くまま”
屋根の上に乗った黄色い鳥が描かれている。
絵がある。文字が読める。最高!
しかも、コスト1でこの数値なら、意外と強いんじゃないか?
……いや、待て。
僕の視線が、能力欄で止まった。
『???』
なんで能力が見えない?
未解放カードみたいに真っ黒なわけじゃない。ただ、そこだけ綺麗に伏せられている。
嫌な予感がした。
もしかして、この世界のカードは、全部こうなのか?




