表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/30

第8話 能力欄は???

「いや、ちょっと周りを見てただけ」


ローウェンは怪しむように僕を見たが、門前の混雑に気を取られたのか、それ以上は追及してこなかった。

促されるまま王都に入る。


門を抜けた瞬間、音が一段増えた。石畳を叩く馬車の車輪、露店の呼び込み、遠くの鐘の音。通りの左右には店が並び、人の流れが絶えず動いている。


ローウェンにくっついて、街を歩く。

商店街のような場所、その中で、ひときわ派手な建物が目についた。

看板には、色とりどりの召喚獣が描かれている。


「あれが召喚具店だ」


「召喚具店?」


「カードやパックを扱う店だ。お前らの言い方なら、カードショップってやつだな」


外観はやたら派手なのに、店の中は意外なくらい静かだった。客も、僕たち以外には見当たらない。


「いらっしゃいませ」


魔女みたいな大きなとんがり帽子をかぶったお姉さんが、カウンター越しににこやかに笑った。

紫色のローブの胸元はゆるく、長い黒髪が片側に流れている。細い指にはいくつもの指輪がはまり、いかにも「魔法使いです」という格好なのに、どこか胡散臭い。


店先には、色とりどりのカードパックが所狭しと並べられていた。黄、赤、青、緑。袋の表面には、それぞれ違う紋様や召喚獣らしき影が描かれている。


まずい。見ているだけで、テンションが上がる。


「種類がいっぱいありますけど、それぞれ違うんですか?」


思わず、店員のお姉さんに聞いてしまった。


「はい。入っている召喚獣の傾向が異なります。五枚入りと十枚入りがありまして、特定の属性が出やすいものもありますよ」


「レアが出やすいのがあったり?」


そう言いながら、僕は緑のパックへ手を伸ばしかけた。

その直後、横からローウェンの声が飛ぶ。


「ウィンドパックの大きい方を二つ。ほら、その黄色いパックから二つ取れ」


先に指定された。風の陣営だから黄色のパックなんだろうか?

いや、わかる。わかるけど、自分で選びたかった。


「あと、お前みたいな召喚されたやつはよく言うが、この世界のカードにレアとかコモンとかいう格付けはないぞ。強いか弱いかは、自分で見極めろ」


「レアリティなし……」


それはそれで、かなり怖い。

黄色のパックは五つ並んでいる。


どれも同じように見えるのに、なぜか一つずつ気配が違う気がした。たぶん気のせいだ。けれど、カードを選ぶ時にそういう直感を無視するのも違う気がする。


僕はその中から、なんとなく惹かれた二つを選び取った。


「じゃあ、この二つにする」


「初めてのお客様ですよね?こちら、おまけに差し上げます。ぜひ当店をご贔屓に」


そう言って、お姉さんは灰色の小さなパックを一つ手渡してくれた。

おそらく五枚入りのパックだ。カード不足の僕には、ありがたすぎる。


「ありがとうございます。また必ずここに買いに来ます」


「いい心がけですね」


お姉さんがにこりと笑う。その横で、ローウェンが別のパックを二つ手に取っていた。


「俺はこの二つ。支払いはまとめて持つ」


「……それ、僕の借金に混ぜてないよな?」


「当たり前だろ。俺の分は俺の金だ」


ローウェンは呆れたように言うが、さっき金を貸すと言われたばかりなので、こちらとしては警戒して当然だ。


「一瞬信用できなかった」


「失礼なやつだな」


お店のお姉さんに、見送られながら二人で店を出る。


「街外れにある館で、しばらくはみっちり修行するからな」


カードパックを手に入れたおかげで、足取りはさっきまでよりずっと軽い。


王都の中心から離れるにつれて、人通りは少しずつ減っていった。店の看板もまばらになり、石畳の道もだんだん静かになっていく。


やがて民家が少なくなり、開けた場所へ出た。


少し離れた先に、やや大きめの館が見える。立派ではあるが、貴族の屋敷というよりは、訓練施設を兼ねた別邸といった雰囲気だった。


「ここだ」


「思ったよりちゃんとしてる」


「王族預かりの人間だからな。寝床くらいは用意される」


館に入ると、中は思ったより静かだった。人の気配はあるが、騒がしくはない。廊下には簡単な武具や訓練用の木剣が置かれていて、ただの宿ではないことがわかる。


「もう遅いから、今日は自由にしていいぞ。時間はあるし、パックを開けてデッキ強化でもしとけ」


そこで、ふと気になった。


「そういえば、僕の風狼はどこに行ったんだ?」


「バインダーに入ってるだろ。胸元から取り出してみろよ」


胸元?


言われた通りジャケットの中へ手を突っ込むと、厚い本みたいなものが指に引っかかった。


――んな馬鹿な。


引っ張ると、魔法みたいにするりと薄いカードバインダーが出てくる。


「そうそう。その中に入ってる。使わない召喚獣も、基本はそこに収納されてるからな」


亜空間に収納されてるとかか?

原理はわからないが、いつでも手元に置いておけるのは相当助かる。


「ほい、これ今日の飯な。部屋はその手前を使ってくれ。俺は二階の部屋にいるから、なんかあれば呼べ」


ローウェンはパンと水を渡すと、さっさと二階へ上がっていってしまった。

僕の部屋には、ベッドと机が一つずつ置かれていた。飾り気はないが、清潔で、寝るだけなら十分だ。


さて、僕もカードを確認しないと。


黄色のパックが二つ。

黒のパックが一つ。

灰色の小さいパックが一つ。


馴染みのあるカードだとよかったんだけど、そう都合よくはいかないらしい。


まずは二つある黄色のパックに手を伸ばす。

ぺりぺりと封を開ける。この瞬間がたまらない。


記念すべき一枚目は――


【風見鶏】 属性 風

コスト   1

パワー   2

タフネス  2

位相    空/地

能力    ???

“風の向くまま、気の向くまま”


屋根の上に乗った黄色い鳥が描かれている。


絵がある。文字が読める。最高!


しかも、コスト1でこの数値なら、意外と強いんじゃないか?


……いや、待て。


僕の視線が、能力欄で止まった。


『???』


なんで能力が見えない?


未解放カードみたいに真っ黒なわけじゃない。ただ、そこだけ綺麗に伏せられている。

嫌な予感がした。


もしかして、この世界のカードは、全部こうなのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ