第58話 黒鉄の鎧
リーゼが監獄からの勧誘を断ると、レムルは面白そうにリーゼの方を見る。
「それは残念。
理由を聞いても?」
「透は将来黒鉄の鎧を纏うもの。
ここで働かせる意味がない」
レムルの笑みが消えた。
「……本気で言っているのか?
それはもう終わった話だろう」
「確かに終わった話だ」
リーゼは当然のように言い切った。
「だが、もう一度トオルと僕が始める」
何の話だ?
僕の就職先を勝手に断ったと思ったら、今度は知らない鎧を着せられようとしている。
毎度のことながら嫌な予感しかしない。
「しかし、肝心の主人にその気はないんじゃないか?」
レムルがこちらに目線を送る。
「どうだ、トオル。俺の元で働かんか?
先ほどの待遇は一般待遇。
君は幹部候補だ」
定収入に安定した生活。魅力的だ。
だが……
「お断りします」
話はよくわからないが、リーゼと揉める方がコストが高い。
恐らく僕が看守になればリーゼは従う。
だが毎日ネチネチと嫌味を言われるか、口を聞いてくれないか、何かしら報復があるはずだ。
そんな地獄のような毎日はご遠慮したい。
「主従揃って愚かな……
届かぬ理想は毒にしかならんぞ」
「トオルは君には従わない。
届かないかどうかは監獄から見ていればいい」
レムルは考えるように目を覆った。
「用件が終わったなら帰るぞ」
リーゼの言葉にレムルが反応する。
「待て。
監獄は制御できない召喚士の首に鎖をつける場だ。意味はわかるな?」
「最初からそれが本音だろ?
囚人として管理できないから、看守として管理する。
支配者が考えそうなことだよ」
ん?つまりよくわからない鎧の話で、リーゼがレムルの本音を引き出した、ということか。
「悪いけど、僕に首輪なんか必要ない。
僕は自由だからな」
レムルは余裕そうにソファに深く腰を沈めた。
「監獄長の権限があれば、君たちを危険人物として拘束する理由はいくらでも作れる」
「昔のつてを使えば戦いようはあるさ」
リーゼが不敵に笑う。
「ああ。君を強引に捕らえれば、面倒な連中が動くだろう。俺も監獄の外まで敵を増やしたくはない」
リーゼから目を離し、僕を真正面から見据える。
「あぁ、そうだな。だからこうしよう。召喚士らしく星儀戦だ。よもや逃げるとは言わんよな?」
どんどん面倒な方に進む。
一度功績値を払わなかっただけでツケがでかい。
恨むぞ忍野……
「また脱獄戦みたいにタッグマッチか?」
「いや、監獄長として一対一の勝負をしよう」
リーゼがいるのでタッグマッチも面白そうなんだけれど、ご希望に添えないらしい。
「何を賭けるんだ?」
「俺が勝てば2人ともラナ監獄の看守だ。
君たちが勝てば、俺はこれ以上君たちに干渉しない」
「……僕にメリットがないんだけど」
僕が勝ったら危害を加えません、って条件は飲めない。
「なるほど。では俺に勝ったら監獄の秘密を教えてやる。使い所があるかは君たち次第だ」
僕にメリットあるのかな……
「よかろう。負けたら情報で払え。
条件が釣り合うか望願紙に委ねる」
なるほど、そんな価値の測り方があるのか。参考にしよう。しかし、またリーゼが勝手に条件を決めてしまった。
「トオル、安心しろ。監獄長クラスが持つ秘密だ。
どう転んでも利益しかない」
リーゼの見立てなら間違いはない。僕の従者はなんだかんだで優秀だ。
「せっかくだ。囚人の前で叩きのめしてやる」
どうやら懐かしの監獄で戦うようだ。
あそこは地形も頭に入っている。知識の不利はなさそうだ。
「トオルが負けて俺の下に入る。
それを見れば囚人も少しはおとなしくなるだろう」
偉そうな奴は好きじゃない。
せっかくだ、囚人の前で恥をかいてもらおう。
そう意気込んだものの、誘導するように前を歩くレムルの体が大きく見えた。
監獄長。油断していい相手じゃない。
僕の頬を汗が伝った。
レムル監獄長に連れられて懐かしの監獄に降りる。
「ほら、下が見えるか?」
監獄では召喚士と看守がなにやら大声で言い争っていた。
召喚士を取り囲むように看守が陣取っている。
「今まで2人でよかった看守が今や20人。
治安を守るために人を割く必要がある。
当然皺寄せも来る」
いつの間にか召喚士側にも人が集まり、小競り合いが始まっていた。
「数は召喚士の方が多い。戦力がいる」
いつの間にかかなり治安が悪化してるな。
人づてに火野が煽りまくったような話も聞いている。それは気絶していた僕のせいではないが、少しだけ責任を感じる。
「ほら、懐かしの闘技場だ。
今、監獄中に試合のことを触れ回っている。時間になったら始めよう」
さて、どのデッキにするか。
監獄長レムル。ガタイだけ見ると土属性?
そういえばリーゼに煽られた分も返さないといけない。
僕がコンボデッキを組めないなんて失礼な言葉、撤回させてやるぜ。
……じゃあこのデッキだ。
完成したデッキって奴を見せてやる。
僕は1人笑った。




