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第56話 カエルデッキと小さなお願い

ランウェイと別れ帰路に着く。

リーゼにまかせた店は大丈夫だろうか。


足早に家に戻り、扉を開ける。


「うわっなんだこれ」


久しぶりに帰った僕の家には大量のカードが並べられていた。


「うん?帰ったか」


「なんかすごいことになってるんだけど‥」


「デッキ構築屋をやってわかったが、僕は召喚獣のなんたるかがよくわかっていない」


召喚獣の能力は基本的に発揮するまでわからない。店でも基本は教えてくれないから、自分で探すしかないのが現状だ。


「水の召喚獣はもちろんある程度わかるんだけどね。

他の属性の召喚獣はほぼお手上げだよ。

以前対戦したことある召喚獣ぐらいだ」


リーゼは真面目だな。

真剣に店のことを考えてくれているようだ。


「リーゼが一緒に店をやってくれてよかったよ」


「成功のために全力を尽くす。当たり前だろ?」


どこまでも頼りになる。


「さて、じゃあ試そうか?」


「何を?」


「僕の研究の成果だよ。

トオルが負けたら、僕に召喚獣の仕入れを任せてもらおう」


「仕入れ必要なのかな?」


「能力が未知の召喚獣を確認するには必要だろうね」


一理ある。

能力がよくわからない召喚獣は安い。

現状使い道がわからないからだ。

その能力が明らかになった時、本当の価値がつくわけだ。


「で、僕が勝った場合は?」


「まぁ正直なんでもいい」


「んん?星儀戦にする意味あるか?」


リーゼがすっと、机の上の本を指さす。


‘初めての従者’

あぁリーゼと従者契約した時にギルドからもらった冊子。あったなこんな本。

すぐ監獄行ったから読んでなかった。


何ヶ所か折り目がついている。


「従者と仲良くなるために小まめにコミュニケーションを取りましょう。

軽い星儀戦も効果的です。

願望紙にも、スキンシップを記載するのが効果的です。

※実力差がある時はきちんと加減をすること」


リーゼは真顔だ。


「サラに聞いたら従者として毎日一戦はしているらしくてな。取り入れようかと思ってな」


僕の友達の火野とその従者のサラさん。2人はすこぶる仲がいい。

リーゼもそこにあやかろうというのだろうか?


案外可愛いところもある。


「と言うわけで一石二鳥だ。まぁ条件は適当でいいから、始めようか」


多分その条件が大事だと思うのだが。


「じゃあ僕が勝ったらハグしてくれ」


「え、やだよ」


「‥」


僕の従者は趣旨をきちんと理解していない。


「よしじゃあ始めようか。

トオルが勝ったら小さなお願いを一つ聞く、でいいだろ?」


ハグは小さなお願いに入らないのか。

じゃあ何ならいいんだ?


考えているとすでにリーゼの準備は整っていた。


「始めるよ。僕は沼ガエルを召喚する」


これ、恐らくいつものバンディットデッキじゃないな。


【沼ガエル】

能力

・場に出た時1人を指定する。その召喚士はカードを一枚引き、一枚捨てる


「えらくゆっくりしてるな。

いつもみたいに責めなくていいのか?」


「なに、やり方を変えようかと思ってね。

お先にどうぞ」


普段のリーゼはひたすら責めを重ねる。少し警戒が必要だ。


「よし、【ジャッカル】を召喚だ」


即座にジャッカルが飛びかかりリーゼのタリスマンを削る。


「じゃあ、僕はこの召喚獣」


リーゼの場にはまたカエルが姿を表す。


【大ガエル】

能力

・???


場に出たのに能力がわからない召喚獣。

何かをトリガーにする能力。

正直こういった召喚獣の能力解析は進んでいない。


使わなくても勝てるわけで、わざわざ時間をかけて調べる召喚士は少ない。


「でもう一度【沼ガエル】を召喚」


沼ガエルが場に出て、リーゼが手札を捨てると小さな子ガエルが生成された。

召喚獣の生成能力。マグマスライムと同じ類だ。


【大ガエル】

能力

・手札を捨てるたび1/2の子ガエルを生成する


「嫌なコンボだな‥」


「そう褒めないでくれ。

さらにスペル【幻視】で3枚引いて2枚捨てる」


リーゼのスペルでカエルが2体増える。


恐らくこれから完成度が上がるとさらにシナジーが増える。

が、今はここまでかな?


「僕は【火爆破】を発動。

範囲内のカエルを焼き払う」


僕のスペルでコンボの起点の大ガエルが消える。


「火の範囲スペル!?

きみ風と土だけじゃなくて火まで使えるのか?」


恐らくリーゼも土属性に範囲スペルが少ないのを読んでこのデッキを組んだ。

だが前提が崩れれば脆い。


流れが一気に僕に傾く。


「まだ終わってないぞ。【幻視】でカードを引く。で、【ウシガエル】含む二枚を捨てる」


ん?捨てたウシガエルが場に飛び出て。僕に一撃を見舞う。


「ウシガエルは手札から捨てると特殊召喚される」


カエルデッキまだギミックがありそうだ。

しかし手加減する必要はない。


手を抜くとリーゼも怒るし‥


暫くしたのちリーゼのタリスマンが、音を立ててすべて砕け散った。


「くっ……火属性は予定外だった」


危なかった。土と火の複合デッキじゃなければ、負けていたかもしれない。


「まだ披露してない召喚獣が居たのに残念だ‥」


リーゼが僕の前まで歩いてくる。


「ほら。約束は約束だ。ハグしたいんだろ?」


少し呆気に取られながら、僕はリーゼの体を軽く抱きしめた。


近くで見る彼女の顔は、耳まで真っ赤だった。


「普段はこんなことさせない。今回だけだからな」


体を離すと、リーゼはもういつもの澄ました顔に戻っていた。


「火野殿とサラもこんな感じなんだろうか?」


火野とサラさんも一月前はこんな感じだったと思うが、今ではだいぶ先に進んでいる。

いや、僕たちはあの二人とは違う。リーゼは従者で、仕事仲間だ。

だから、これくらいでいい。


「あ、そうそう。召喚獣の仕入れは僕に任せてくれ」


「負けたのに?」


「研究には必要だろ?」


勝負の条件はどうなったんだ。


そう思ったものの、これだけ真剣に店のことを考えてくれたのだ。


「わかった。任せるよ」


その時、風にあおられて『初めての従者』のページがめくれた。


開かれたページの見出しが、ふと目に入る。


『従者との仲が深まると、星儀戦の勝敗条件は形骸化することがあります。

勝敗にかかわらず、互いが満足できる条件を設定するよう努めましょう。


※ハグやキスなど、親密な接触を条件にする場合は、それとなく事前に同意を取りましょう』


書いてあることには、いまいち納得できない。

だが、リーゼに仕入れを任せること自体に異論はなかった。


それに、僕の従者が嬉しそうに笑っている。


なら、これでいいのだろう。

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