第55話 紙の上での引き分け
炎の王族アルフォンス。ひたすら面倒な相手と戦うことになってしまった。
「トオル氏も馬鹿ですな。
適当に謝っておけばいいものを」
「受けちゃったからしょうがないだろ。
これ勝ってもいいのか?」
「アルフォンス様のデッキは苛烈な攻めを体現するデッキ。今回も4勝してますぞ」
「仮にだよ」
「勝ったら火の陣営にマークされて、一生生きづらくなるでしょうな」
やっぱそうだよな。引き分けを狙うか。
「しかもさっきのマグマスライム案は通りませんぞ。火属性には範囲スペルも多いですから」
「僕は地属性も火属性も知り尽くしてるからな。
まぁ任せろ」
「でたでた。トオル氏の武勇伝」
ランウェイと軽口を叩きながらデッキを構築する。というか、マルチ属性をもう少し表に出すか。
僕は組み上げたデッキを携え、試合会場に向かった。
「時間通りに来たか。
臆病者のくせに殊勝な態度。褒めてやる」
「ありがとうございます」
「よし、位置につけ」
そう言うとアルフォンスは試合の開始位置に構えた。
「我が業火に焼かれろ。一瞬で終わらせてやる」
試合が開始した。
「よし、ミニファイアドレイク召喚」
アルフォンスの立ち上がりはよし。
火力と召喚獣の速攻デッキかな?
小さなドラゴンが僕のタリスマンを崩す。
「さらにファイアゴブリン召喚。攻め立てろ」
追加された召喚獣もこちらに向かって来て、計五つのタリスマンが壊れた。
大口を叩くだけあって早い。
だけど……
「受けろ、ジャイアントビートル」
僕の前に巨大なカブトムシが現れ、ミニファイアドレイクを跳ね上げる。
「なっ!? 土属性だと?
消えろ【ファイアショック】」
間髪入れずジャイアントビートルに火力が直撃し、焼き焦げる。
速度よし、火力の威力も悪くない。
が、火力を切るタイミングが少し早すぎるな。
「そらいくぞ。【バジリスク】召喚。
蹂躙しろ」
「ちっ、【砂トカゲ】迎え撃て」
「させるか【火爆破】」
アルフォンスが召喚した砂トカゲは、すぐに僕の詠唱したスペルで爆ぜる。
バジリスクはアルフォンスのタリスマンを破壊した。
「うぉお!」
アルフォンスが叫び声を上げる。
「生ぬるい業火だな。一瞬っていつなんだ?」
「俺を侮辱するな。ここからだ!」
僕のデッキは監獄で火野と組んだデッキの再現だ。前回は召喚獣を僕が、スペルを火野が担当した。それを一つにまとめたのがこのデッキ。
火力で道を開け、強力な召喚獣を叩き込む。
「いけ、ファイアドレイク、オーガ。
やつのタリスマンを叩き割れ」
二匹のモンスターが召喚され、僕を狙う。
立ち直りもなかなか早いな。リーゼの時みたいに防御を捨てて殴り合うか?
召喚獣のサイズは僕の方が上。
タリスマンの防御に任せ、攻め立てる方針に変更した。
「【ギガントアーマー】本体を狙え」
アルフォンスのタリスマンがあと7個。
僕のタリスマンは10個まで減った。
「追い詰めろ【ロキ】。属性は地だ」
僕の相棒、地属性のロキが場に降臨して、味方を強化する。
ジャイアントビートル、バジリスク、ギガントアーマー、ロキの4体がアルフォンスを包囲する。
「戻れ、ファイアドレイク、オーガ。
俺を守れ!」
アルフォンスとの攻防により、僕のタリスマンもあと7つ。
二匹の召喚獣が取って返し、乱戦になる。
ロキの能力でタフネスが上がっている分、僕が有利だ。
条件は整った。あとは最後の火力のタイミングを図る。
「うおお! 【ファイアバースト】」
アルフォンスが乱戦の場を離れ、僕の召喚獣にスペルを叩き込む。
ロキを含め、僕の召喚獣は全滅した。
アルフォンスのタリスマンは残り3個か。
ちょうどいい。
場にはアルフォンスのオーガだけが残る。
僕はアルフォンスに向けて駆けた。
「痴れ者め、オーガ、叩き潰してやれ」
オーガの大振りの棍棒。
避けるのはたやすい。
しかし、僕はその一撃をわざともらい、タリスマンを調整する。
僕のタリスマンはあと2個だ。
僕はアルフォンスの目の前で叫ぶ。
「これで終わりだ。【火爆破】」
【火爆破】 コスト3
範囲内の召喚獣とプレイヤーに3点のダメージを与える
全力の火爆破は、アルフォンスのタリスマンと僕のタリスマンの両方を焼く。火が収まった時、2人ともタリスマンは残っていなかった。
「勝負あり。この勝負、引き分け」
教官が叫び、沈黙が場を支配した。
「おい、先ほどのオーガの一撃。
お前なら避けられたのではないか?」
アルフォンスが険しい顔で近づき、詰問してくる。
「いえ、まだ未熟で避けられなかっただけですよ」
「嘘をつくと許さんぞ」
これはある程度避けられたのを確信しているようだ。僕も迷惑な王族にうんざりしている。
「アルフォンス様、少しこちらに」
近づいてきたアルフォンスに耳打ちする。
「よかったな。紙の上じゃ引き分けだ」
呆けているアルフォンスに一言かけて、僕は去る。その背中に罵声が飛ぶ。
「卑怯者が、お前を絶対許さない。
力をつけて蹂躙してやるから覚えておけ」
外から見ただけだと、僕が苦し紛れに相打ちに持っていったようにしか見えない。
アルフォンスの取り巻きは何が起きているのかわからないようだった。しかし主の言葉に敏感に反応し、一斉に僕に敵意を向けてくる。
やばい、完全に目をつけられた……
が、アルフォンスともう会うことはないだろう。
僕は波風立てず静かに暮らすつもりだ。
野外研修2日目を全て同点で乗り切った僕は、3日目の座学もクリアできた。
炎の王族アルフォンスは事あるごとに僕を睨んでくるが、ここを出ればしばらく会うこともないだろう。
「お互い合格できてよかったですな」
「あぁ、だけどもう二度とごめんだ」
ランウェイが不思議そうな顔をしている。
「どうかした?」
「この課程、しばらく続きますからな。
次は二ヶ月後ですぞ。
課題もたんまり出るはずですぞ」
そんなの聞いてないんだけど……
「これ、拙者の連絡先ですぞ。
よかったら連絡くだされ」
「わかった。助かる」
ランウェイとはこれから仲良くできそうだが、アルフォンスからは敵視されたままだ。
二ヶ月後、アルフォンスと取り巻きをまた相手にしなければならない。




