第54話 勝利なき勝利
「おい24番、もっと腰を入れて剣を振れ」
「はい!」
リーゼに野外実践訓練に放り込まれた僕は必死に剣を振っていた。
「あと300本だ!」
「はい!」
もはや剣を振りすぎて手が痛い。
軽い竹刀ならともかく鉄の剣を何時間も振るなんて頭がいかれてる。
なんなら鎧をつけている奴もいる。
なんでも騎士の家系の人間が多いらしい。もやしの僕は完全に場違いだった。
しかし、監獄から帰ってから毎日リーゼに扱かれているおかげでなんとかついていけている。
「死ぬ」
「トオル氏、体弱すぎですぞ」
同室のランウェイが声をかけてくる。
「いや、なんでずっと剣振って、ずっと走るんだよ。持久走なんてさせるな。
体力ないんだから僕が死ぬだろ」
「そんなこと言っても、申し込んだのはトオル氏ですぞ」
「僕は申し込んでない。
従者が勝手に申し込んだの」
「あぁ、トオル氏のイマージナリー従者のことですか?」
おい、リーゼは僕の妄想じゃないぞ。
「僕の言葉を信じろよ」
「はい、信じた信じた。
しかし、ひ弱なトオル氏のところに金髪の美人従者がいて、トオル氏の言うことをなんでも聞くなんてね」
全然信じてない。
まぁ僕もかなり盛った。リーゼは何も言うことを聞かない。
「ふむ、それが嘘だとして、僕がこの訓練に放り込まれた意味が説明つかないだろ?」
「拙者と同じで、母君に申し込まれたのでは?
お互い肩身が狭いですな」
まぁ似たようなものかもしれなかった。
「しかし、明日は召喚師実戦。
練習はしておりますが、不安ですな」
「じゃあ僕が教えてやるよ」
「はっはっは、頼みますぞ。
何せトオル氏は連戦連勝の強者ですものな。
なーに負けたら2人で反省会しましょう」
ランウェイの中で僕はただのほら吹きだと思われているらしい。
いや確かに負けた数の方が多いから、連戦連勝も嘘なんだけども。
「しかし、不遇な風陣営どうし仲良くしましょう。しかし、給金も他の陣営に比べると少ないし、なんともやりきれませんな」
「え、給金って額違うの?」
確か功績値を納めると王族から支給されたはずだ。銀貨20枚も貰えたけど。
「水の陣営だと銀貨50枚からだと噂ですぞ」
僕は言葉を失った。そんなのカード格差で勝てなくなるじゃないか。
「明日も風陣営というだけで、狙われますぞ。やだやだ」
翌日、予告通り星儀戦の実践演習が始まった。
「負け越したやつは不合格だ。
自分が勝てるやつを探すのも訓練。各々対戦相手を決めて4戦してもらう」
教官の言葉を受けて僕に群がる参加者。
「おい、俺と対戦しようぜ」
「いや、俺の方がいいだろ」
僕人気だな。完全に舐められている。
見ればランウェイも同じような調子で人気者だった。
が、逆に言うと対戦相手を選べる。僕は対戦希望者から4名を選び取る。
「よし10番と32番前へ」
何人かの勝負を見たがそこまでレベルは高くない。せっかくだから少し遊ばせてもらおう。
「最弱の風陣営が選んでくれるなんてついてるな」
「なーに、すぐに笑えなくしてやるよ」
手札を補充して星儀戦が始まる。
「よし、ヤマアラシ召喚だ」
相手は土属性。小粒で強い召喚獣を積んでいるタイプか。
「スペル【火弾】だ」
対する僕は火属性でデッキを組んでいた。風属性は封じられてしばらく経ったし、僕が風属性だと知っている召喚師も少ない。
強く記憶に残しているのは、ローウェンとリーゼ、ルナさんくらいじゃなかろうか?
だからここでは火属性を使う。
監獄で充実させた召喚獣を見せてやる。
しばらく戦闘が進み、相手の場には一体の召喚獣、アーマアルマジロだけ。
よし、今だ。
「僕は、この召喚獣マグマスライムを召喚する」
「聞いたことのない召喚獣だな。
切り裂け、アーマアルマジロ」
アーマアルマジロがマグマスライムに向かう瞬間、マグマスライムは二つに分裂し、小さい方が盾になった。
「ほら【火弾】だ」
アーマアルマジロは僕のスペルで燃え尽きる。
【マグマスライム】属性 火
コスト 3
パワー 0
タフネス 3
位相 地
能力
・護衛をもつ0/1のプチマグマスライムを生み出す
このマグマスライム、パワーこそないが、分身を次々作り出す。
相手がまごまごしているうちにあっという間に三体のプチマグマスライムが場を埋める。
「クソ。倒せ、【グリーンゴーレム】」
グリーンゴーレムが一体のプチマグマスライムを倒すうちに新しいプチマグマスライムが場を埋める。
「時間切れまで付き合ってもらうぜ」
相手が召喚獣を追加しても火力でご退場いただく。地属性は直接召喚獣を狙うスペルが少ない。弱点は把握済みだ。
「30分経過。この試合引き分けとする!」
事前に時間制限があるのは聞いていたからな。
僕が対戦相手に選んだのは全て地属性の召喚師。完封?してやるぜ。
「トオル氏すごいですな。
まさかあんな汚い手で同点に持っていくとは」
「褒めるなランウェイ。お前は?」
「舐めてたやつらを選んで2勝ですぞ。
弱いのを選べるから楽なもの‥
あとは適当に流す予定ですぞ」
ふっふっふと笑う。こいつも案外悪どいんじゃなかろうか。
同じ調子で3戦目まで引き分けに持ち込む。
――力ではなく、策をもって戦場を制した者よ。
――勝利なき勝利を、汝の手に。
未解放カードが解放されたようだ。
引き分けが条件だったのか?
何にしろ幸先がいい。
様相が変わったのは4戦目だった。
「【マグマスライム】召喚」
「待ってたぜ、行け。
【グリズリー】【スコーピオン】【ガルゴグ】」
僕のマグマスライムを出すタイミングを図っていたようだ。
チッ、火力も手札にない。
「【炎の射手】、【ファイアドレイク】つぶせ」
相手の召喚師に僕の召喚獣が攻め込む。
ファイアドレイクがタリスマンを破り、炎の射手が狙撃する。
「くっ、他の召喚獣‥強い」
「僕は引き分けでもいい。
まぁ最後くらいは勝ってもいいけどな」
対戦相手に笑いかける。
「‥もっ、戻れ。ファイアドレイクを撃退しろ」
相手は自分の場に召喚獣を戻し、守りを固める。その後攻めっ気がなくなり、プチマグマスライムをちまちま削り出したのは笑った。
「そうだな、僕たちは全力で戦った。それでいい」
僕の言葉を受け、相手が引き攣った笑顔を浮かべているのが印象的だった。
負け越してないわけで合格ラインだ。
お試しのデッキでも通過できるんだ、案外楽だな。
「不合格者はここで帰宅だ。5番、11番、17番‥」
もちろん僕もランウェイも呼ばれなかった。
3日目は座学らしいしこれでクリアだな。
「異議あり!」
教官が全ての不合格者を読み上げたあと、身なりの良さそうな青年が手を挙げる。
「どうしました、アルフォンスくん」
「火属性を使っているのに時間いっぱい逃げ切って合格した卑怯者がいる」
思い切りこちらを睨んでいる。
え、もしかして僕のことか?
「同じ火属性者として許せん。
俺と勝負して負けたら不合格にしろ」
教官も困り顔だ。
「引き分けに持ち込むのにも技術がいるものだ。狙って引き分けに持ち込むのは勝つより難しいことも多いぞ」
「卑怯な策略を用いただけでしょう。
同じ火を使うものとして許せない」
「10番、お前が決めろ」
教官が僕にぶん投げてきた。
「トオル氏、あの人はまずいですぞ」
ランウェイが横からアドバイスしてくれるが、喧嘩を売られっぱなしというのも癪だ。
「引き分けでも合格なら別にいいですよ。
そっちが負けた場合は?」
「よく言った。
俺が負けた場合は俺もこの課程を辞退して受け直す」
2人ともリスクしかない、頭の悪い提案だ。勘弁してほしい。
「よし、準備するぞ。
1時間後だ」
笑いながら試合会場に向かう。後ろには取り巻きらしき人間が5人。
「あの人、火の王族アルフォンス様ですぞ。
厄介な人に目をつけられましたな」
ランウェイ、もっと早く言ってくれ。




