第52話 シュヴァルツデッキ構築店、開店!
監獄から戻ってしばらくたった。
召喚具店くすのきの店の端には「シュヴァルツデッキ構築店」の看板が建っている。
ここまで来るのに時間がかかった。
だけど、これで功績値に追われない未来がやってくる。
店頭に立つ看板娘リーゼはスカートを履いていた。ロングスカートになったのは誤算だったが、リーゼが嫌がる以上仕方ない。
しかし、恥ずかしそうに立つ姿がまたいい。
勝ってよかった。
負けていれば、パンツ一枚で覆面を被った僕があそこに立つことになっていた。
いや、それでは普通に店が潰れてしまう。
小さいながら自分のお店。
可愛い看板娘。
それなりに客も来るだろう。
ここから僕の異世界ライフは始まるんだ。
あ、看板娘が客を殴った‥
普段冷静なのに喧嘩っ早い。
「トオル、客がすぐに声をかけてくるんだ。
なんとかしろ」
そんなんで殴らないでほしい。
「それで契約してくれるなら安いけど」
言った瞬間、僕の顔面にも拳が飛んできた。
さて、オープンしたのはいい。
しかし客は遠巻きに見るばかりでやってこない。
完全に今までなかったサービスだし、しりごみしているのか? 最初の1人が来ないと意味がないぞ。
その時、クスノキの店長コハクさんがやってきた。
「トオルくん。お店の利益になるっていうから、場所貸したんだからね。
期待してるよ」
まずい、客が入っていないのを見てプレッシャーをかけに来た?
その時、救世主が現れた。
「よぉ師匠。店オープンさせたんだって」
ローウェン! 僕の親友!
「あぁ、デッキの構築店をな。
まだ誰も来てないけどな」
「まだ人が入ってないのか?
じゃあ俺が最初の客になってやるよ」
ありがたい限りだ。
「よし、じゃあデッキとバインダーのカードを見せてくれ」
「はいよ。中身は他のやつには内緒で頼むぜ」
「当たり前だろ。そこは抜かりない。
ちょっと預かるぞ。ここで待っていてくれ」
カードを預かり、リーゼと裏に引っ込む。
「リーゼのデッキビルディングの実力も見たい。このデッキならどう最適化する?」
「僕を試す気か?」
「できないなら全部僕がやるけど」
リーゼは舌打ちすると無言でデッキを見始めた。
「護衛兵はいらない。
あとはここら辺の兵士ももたつくから、いらないんじゃないか?
で、位相が空のカードを少し足して‥
こんな感じでどうだ?」
リーゼの組んだデッキはかなり僕の考えと近い。
「さすがリーゼだな。完璧だ。
けどそれだと30点だな」
「はぁ?
なぜ完璧なのにそんなに点数が低い」
「まぁ見てなって」
僕はローウェンの方に向かい、話し始めた。
「お待たせ。
三つのコースと二つのプラン。計5種あるけどどれにする?」
「中身を説明してくれよ」
ローウェンと話しているうちにギャラリーが集まってきた。この展開は悪くない。
「まず基本は松竹梅の3コースだ。
梅 新しいコンボをデッキに実装する
竹 デッキを最適化する
松 全く未知のデッキを構築する」
ローウェンがしきりに頷く。
「なるほどな。なかなかわかりやすいな。
で、2つのプランってのは?」
「梅と竹は、並と上を用意している。
並は持ってるカードだけで組む。
上は店のカードも使う。ただし店のカードを使う分、追加費用がかかる」
そのあと細かい料金をローウェンに説明した。
「竹からは結構するんだな。
まぁご祝儀の意味合いもあるし、竹の上で頼む。追加費用は銀貨30枚以内にしてくれ」
ローウェン、意外とお金持ってるんだよな‥
「よし、じゃあデッキのコンセプトだけ聞いて、それで組もうか」
もう一度リーゼと裏に引っ込み、デッキを検証する。この世界はカードの能力を発揮しないとわからないので、この商売はどれだけカードの効果を知っているかが肝だ。
「しかし、なぜいくつもプランを用意するんだ? ややこしいだろ」
「もともとリーゼが組んでくれたのは竹の並だろ? 一回デッキを最適化すると来てくれないからね」
「だから基本は梅なのか‥」
「で、上を用意したら、クスノキのカード販売にも貢献できるからね」
「いろいろ考えているんだな。
トオルは何も考えてないのかと思ってたよ」
辛辣なリーゼの言葉を無視してデッキを組み上げる。
「よし。コハクさん、このリストの召喚獣ください」
「‥銀貨20枚分?
意外と儲けになる?」
コハクさんはいつも通り柔らかい笑顔を浮かべ、カードを用意してくれた。
これでしばらく追い出されることもないだろう。
「完成だ。ローウェン、前のデッキとは戦い方そのものが変わるぞ」
「お、そんなにか?
じゃあ一回試してみるか」
「あと、これは追加した召喚獣の説明と、元のデッキのリストだ。戻したければこれを見てくれ」
「至れり尽くせりだな。
結果が出たらまた来るぜ」
新しいデッキを試したいのか、ローウェンは足早に去って行った。
「すまん、俺もいいか? 梅の上で頼む」
ローウェンの姿を見たからか、ぼちぼち注文が入り始める。あとは評判が広まるのを待つだけだ。
僕はこの商売で召喚師界を変える。
監獄を再現してやる。




