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第50話 燃え広がる火種

「透が作ったデッキを俺が使うんだ。負けるはずないだろ?」


俺の場にはロキとサラマンダー。

ゲイルの場には、アッシュから託されたバーストティラノがいる。


「守りに振り切った俺のデッキに、火力に振り切ったお前のデッキが勝てるはずがない」


使い切りの火力と、場に残り続ける召喚獣。

どちらが優れているという話ではないが、タリスマンを削るなら、場に残る召喚獣の方が有利だ。


「一気に決めるぞ。 【三つの魂】。数で押し潰せ!」


空から三体のエレメンタルが飛来する。

一度に複数の召喚獣を並べるスペル。厄介だ。


だが、無駄だ。俺はゲイルへ向かって走り込む。


サラたちとの模擬戦では、上手く動けなかった。

だが今は、足が自然と三体の召喚獣の中心へ向かっていた。


「馬鹿が。自分から負けに来たか?」


「馬鹿はお前だ。さっさと召喚獣を逃がすべきだったな」


俺はカードを突きつける。


「【バーストボム】!」


俺を中心に、爆炎が吹き荒れた。


たった今呼び出された三体のエレメンタルも、バーストティラノも、炎に呑まれて塵へと変わる。

その代償に、俺のタリスマンも一つ残らず砕け散った。

爆炎が晴れると、驚愕に歪んだゲイルの顔がすぐ近くにあった。


これで俺は、もう一発も攻撃を受けられない。


「性懲りもなく、また自爆か。だが、先に切り札を使ってくれて助かったぞ」


「負け惜しみを!」


「今度は俺の番だ」


ゲイルがカードを天へ掲げる。


「撃滅しろ。 【大空の覇者ヌリス】!」


その声に応じ、頭上を巨大な影が覆った。


暴風が吹き荒れ、翼がひとたび羽ばたくたびに闘技場が震える。

雲を突き破って降りてきた巨鳥は、翼を広げるだけで空を埋め尽くした。


デカい……。


見上げているだけで、空そのものに押し潰されそうな威圧感がある。


それでも、一体だ。

一体だけなら、まだ何とかなる。


そう思った瞬間、遠くから複数の羽音が聞こえてきた。


あれは、サンダーバード……。

さっき倒したはずだぞ?


さらにその後ろからも、見覚えのある召喚獣が次々と飛来する。

どれも、今回の星儀戦で倒したアッシュの召喚獣だ。


「ヌリスが場に出た時、墓地にある空位相の召喚獣を呼び戻す。これで都合七体だ」


ゲイルが勝利を確信したように告げる。


「これで終わりだ」


今の手札に、7体をまとめて焼き払える火力はない。

それでも、どうにか凌ぐしかない。


「【火の粉】!」


飛びかかってきた召喚獣を炎で撃ち落とす。倒しきれない相手には顔面へ火をぶつけ、突進の軌道を逸らした。


一体を避ければ、すぐに次が襲ってくる。火の粉で勢いを鈍らせ、紙一重で攻撃をかわし続ける。


だが、足りない。


「火力が……足りない……」


ゲイルを倒し切るだけの火力は、もう残っていない。

召喚獣の直撃を受けないよう、いなすだけで精いっぱいだった。


残り3枚。2枚。1枚…ついに手札が尽きた。


それでも、ゲイルの場には5体もの召喚獣が残っている。


「火野、お前はよくやった。誇っていい」


ゲイルが静かに手を掲げる。


「とどめを刺せ、サンダーバード」


すまん、透。ここまでみたいだ……。


それでも最後まで、お前のパートナーとして足掻くからな。

サンダーバードが紫電をまとい、一直線に突っ込んでくる。


速い……。

今からでは、もう避けられない。


「サラ……悪い」


そう呟いた瞬間、足元から小さな影が飛び出した。

サラマンダーが俺の前へ割り込み、サンダーバードの鋭い爪をその身体で受け止める。


召喚獣は、召喚師の命令もなく勝手に動くことはない。

ただ「サラ」という言葉に反応しただけなのかもしれない。

それでも俺は、確かにサラマンダーの意志を感じた。


小さな召喚獣は俺の代わりに一撃を受け、その身体を激しい炎へ変えて弾け飛んだ。

爆風に煽られ、俺の身体も地面を転がる。


「火野さん!」


泣きそうなサラの声が聞こえた。


サラマンダーが消えた場所には、小さな火だけが残っていた。その火は消えることなく宙を漂い、やがて一枚のカードへと姿を変える。


カードは俺を追うように舞い、倒れた俺の目の前へ落ちた。


サラマンダーが最後に残したカード。

山札から最後の一枚を引く手間が省けたな。勝てないまでも、ゲイルに直接ぶち込んでやる。


「ゲイル、これが最後の一枚だ」


「させるか。全員、火野を倒せ!」


ゲイルの召喚獣が俺に迫る中、拾い上げたカードを見て、俺は笑った。

最後の一枚にこれ以上ふさわしいカードはない。


【サラマンダー】

能力

・破壊された時、【最後の火種】を残す


「これで最後だ。【最後の火種】!」


唱えた瞬間、手の中から小さな火種が飛び出した。

火種がゲイルの召喚獣の前で弾ける。直後、ロキの追撃が炸裂した。

しかし、ゲイルの召喚獣は倒れない。


「最後はあっけなかっ――」


ゲイルは言葉を途中で止めた。


俺の背後には大量の火種が浮かび、放たれる時を待っていた。


「行けっ!」


無数の火種が一斉に飛び出す。

どこへ向かうかは、俺にも分からない。


一発ごとの威力は低い。

だが、俺の能力がその全てを強化し、さらにロキの追撃が重なる。


火種がゲイルの召喚獣へ次々と炸裂する。

サンダーバードの翼に穴を開け、ヌリスの顔面を焦がした。


視界は見渡す限り、オレンジ色に染まっている。

炎が収まった後、どんな光景が広がっているのかは俺にも分からない。


【最後の火種】属性 火

コスト 5

墓地にあるスペルの数だけ、相手の場にいる対象へランダムに1ダメージを与える。


俺の墓地には、【火の粉】を含め、大量のスペルが落ちていた。


ここまで撃ち、凌ぎ、足掻いてきた全てが、この光景を作っている。


「まだだ! ヌリス、全て叩き落とせ!」


ゲイルの叫びに応じ、ヌリスが巨大な翼を振るう。

巻き起こった暴風が、いくつもの火種を吹き消した。


それでも、炎は止まらない。


一つを消しても、その背後から次の火種が飛んでくる。

ヌリスを抜けた火種にロキの追撃が重なり、残った召喚獣を次々と焼き払っていく。


「俺の召喚獣が……この程度の炎に……!」


ゲイルは歯を食いしばり、最後までその場に立ち続けていた。


やがて、乱舞していた炎が収まる。


ひび割れた最後のタリスマンが砕け散り、ゲイルは片膝をついた。

それでも倒れまいと地面に手をついたが、力尽きるように崩れ落ちる。


唯一戦場に残ったヌリスも、主を失い、巨大な翼を閉じて沈黙した。


透、見てたか。

俺たちの勝ちだ。


二人で掴んだ勝利が、俺の胸を満たした。


歓声の中、観客席の囚人たちが次々と立ち上がる。

その目には、もう諦めの色はなかった。


難攻不落だった看守は、もう倒せない存在ではない。


透が残した火種は、確かに監獄中へ燃え広がり始めていた。

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