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第49話 託された切り札

「さあ、終わらせよう」


アッシュの短い声が耳に入る。


バーストティラノが地響きを立てながら突進し、その巨体が俺を弾き飛ばした。

タリスマンが激しく砕け、俺は地面を転がる。


ああ、早く終わらせてくれ……。


その時、観客席から声が飛んできた。


「火野さん!

あなたは私の主人でしょ!

勝つんです! 勝って、ここから一緒に出るんです!」


サラの声だ。


だけど、俺は……。


「言ってくれたでしょ! 私は勝利の女神だって!」


サラの声が、闘技場に響き渡る。


「私はいつでもあなたの隣にいます!だから、あなたは勝ちなさい!」


俺の従者になると言ってくれた人。

俺には勝利が似合うと言ってくれた人。

いつもアンダードッグに通っていた俺を、ウィナーホースへ導いてくれた人。


俺は軋む身体を起こした。


ロキは相変わらず、人を食ったような笑みを浮かべている。

だが、もう俺を嘲っているようには見えなかった。


遅い――そう言われている気がした。


俺はバーストティラノへ向かって駆け出す。


さっき落としたカードは、あの巨体の足元に散らばっている。

踏み潰される寸前、そのうちの一枚を滑り込むように拾い上げた。


「【ファイアバレット】!」


至近距離から放った炎弾が、バーストティラノの顔面で炸裂する。

巨体が怯んだ隙に足元へ飛び込み、散らばったカードを一気にかき集めた。


バーストティラノが体勢を立て直す前に、その場から転がるように離れる。

再び立ち上がった時、カードを握る手の震えは、もう止まっていた。


「サラ、任せろ」


短く答え、アッシュとゲイルを睨みつける。


「なんだ。今頃やる気になったのか?

まあいい。結果は変わらないけどな」


透の召喚獣と殴り合っていたおかげで、アッシュのタリスマンはすでに少ない。


残りは俺の火力で削り切れる。

せめて、こいつだけは仕留める。


「【火の粉】!」


サラマンダーが生み出した小さな炎が、アッシュへ飛ぶ。


本来なら、威力は微々たるものだ。

だが、俺の固有能力によって火力は上がっている。


俺のデッキに、サラマンダー以外の召喚獣は入っていない。


透から託されたロキと、俺の切り札であるサラマンダーを守り抜き、その間に火力スペルでタリスマンを削り切る。


それが、ここからの俺の戦い方だ。


「一人で何ができる?

そんな豆鉄砲じゃ、俺は――うおっ!」


【火の粉】が炸裂した直後、別の火球がアッシュを襲った。


合わせて四つのタリスマンが砕け散る。


ロキの手から火球が放たれたのを、俺は見逃さなかった。


【灼滅の神ロキ】

能力

・あなたがスペルでダメージを与えた時、追撃して対象に2ダメージを与える


「どうやら、透はまだ俺の隣で戦ってくれるらしいぞ」


自然と笑みがこぼれた。


「アッシュ、気をつけろ!

御厨は火野に火種を残した。本命はこいつだ!」


ゲイルが吠えるが、もう遅い。


「いくぜ! 【火の粉】!」


小さな炎とロキの追撃が立て続けに炸裂し、アッシュのタリスマンをさらに四つ砕く。


「ぐっ……!」


それでも、アッシュは怯まなかった。


炎が消えるより早く、次のカードを掲げる。


「調子に乗るなよ、火野!」


アッシュの前に魔力が集まり、反撃のスペルが形を成していく。


こいつ、あれだけ食らって、まだ撃ち返してくるのか。


「【火の粉】!」


アッシュのスペルが完成するより先に、三発目の炎を放つ。


「うおっ、くそ……。

こいつ、土壇場で化けやがった……」


アッシュの手からカードがこぼれ落ちる。


ロキの追撃が重なり、残っていたタリスマンが一斉に瓦解した。 さらに炎がアッシュの身体を捉える。

完成寸前だったスペルも霧散し、その身体は炎に巻かれながら床を転がった。


「アッシュが……撃ち負けただと……」


ゲイルが顔色を変える。

先ほどまで余裕を崩さなかった二人の姿が、今はひどく滑稽に見えた。


「透が残した火種、俺が監獄中に燃え広がらせてやるよ」


「くそっ……。御厨のやつ、ロキを火野へ託すため、わざと攻撃を受けたのか……」


ゲイルのぼやきに、俺は心の中で同意する。

あいつなら、そこまで見越していてもおかしくない。


もしかすると、昨日サラマンダーが覚醒したことさえ、計算の内だったのかもしれない。


「御厨とアッシュがいなくなって、結局は一対一か」


ゲイルがため息をつく。


「お前も俺の成長の糧にしてやる」


「これ以上、好きにやらせると思うか?」


先ほどまでの冷静さとは打って変わり、ゲイルが威嚇するように歯を剥いて笑った。


星儀戦は、ただ苦しいだけのものだと思っていた。


俺は看守が怖い。

戦うのが怖い。

負けるのが怖い。

笑われるのが怖い。


その恐怖が消えたわけじゃない。


それでも、透と一緒に勝ちたい。

勝って、サラと笑い合いたい。


もう、覚悟は決まっていた。

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