第46話 僕の知らない切り札
「レディース・アンド・ジェントルメン!
長らく開催されていなかった脱獄戦が、まさかの二日連続開催!
昨日の挑戦者が看守に完封された姿を見ても、なお心は折れなかったのか!
新たな挑戦者の入場だ!」
舞台袖から、観客を煽る司会者の姿を眺める。
どうやら僕たちの出番らしい。
「行くぞ」
「おう、任せろ」
火野の声にも、怖気づいた様子はまるでない。
僕たちが舞台へ踏み出すと、観客席から大きな歓声が上がった。
「現れたのは、異世界より召喚された二人組!
今期の異世界召喚者は落ちこぼればかりなのか――いや、この二人を侮ってはいけない!
監獄を手玉に取ったトリックスター、御厨透!
そして、闘技場の上級闘技者、火野大地!
今度こそ、難攻不落の看守を打ち破る者が現れるのか!
乞うご期待!」
意外と前評判は高いらしい。
「そして、迎え撃つのは我が監獄の精鋭!
アッシュ&ゲイル!」
司会者の声に合わせ、二人の看守が姿を現した。
「よう。結局、パートナーは用意できたんだな」
アッシュが気軽な調子で声をかけてくる。
「おかげさまでな。この監獄に、脱獄を許した汚点を刻んでやれそうだ」
「昨日、俺たちが倒した忍野はお前らの同期だろ?寂しくないように、二人とも深層へ送ってやるよ」
アッシュは相変わらず余裕を崩さない。
「僕らに負けて首になったら、就職の相談くらい乗ってやるよ」
「おい、二人とも。みっともないから、その辺にしておけ」
ゲイルに釘を刺され、僕とアッシュはそろって口を閉じた。
軽口の応酬が収まったところで、司会者が僕たちに構えるよう促す。
「両者、闘志は十分!
それでは、試合開始!」
開始の合図と同時に、召喚クリスタルへエネルギーが充填されていく。
だが、今回の僕たちのデッキは動き出しが遅い。
無理に先手を取る必要はない。
ここは先攻を譲る。
「いくぜ!【炎猿】、速攻を決めろ!」
アッシュが呼び出した炎猿が、着地と同時に駆け出した。
迎撃する間もなく、その一撃が僕のタリスマンを砕く。
「おいおい。僕から狙うのか?」
「ああ。何を考えているのか分からないお前が一番怖い。さっさと退場してもらうぜ」
続けて、二人がカードを掲げる。
「守れ、【ウィンドウォール】」
「攻めろ!【ファイアスピリット】、【ファイアフライ】」
ゲイルが壁となる召喚獣を呼び出し、その後ろからアッシュが次々と攻め手を送り込んでくる。
召喚クリスタルが三度、四度と充填される間、僕は攻撃を避けて逃げ回る羽目になった。
ゲイルが守備に徹し、攻撃に加わってこないのがせめてもの救いだ。
ようやく、バジリスクを呼び出せるだけのエネルギーが溜まる。
「よし、頼むぞ。【バジリスク】!」
僕の前に、大型の召喚獣が姿を現す。
アッシュの小型召喚獣など、まとめて蹴散らせるはずだ。
「そいつには、お引き取り願おう。【ウィンドバレット】」
次の瞬間、放たれた風の弾丸がバジリスクを撃ち抜いた。
大型召喚獣は何もできないまま、あっさりと姿を消す。
まずい。
これで僕たちの場は、また空になった。
火野! なんとかしてくれ!
助けを求めて火野を見る。
だが、火野は我関せずといった様子で、戦況を静かに眺めていた。
「ちょっ、助けてくれよ!」
召喚クリスタルのエネルギーを使い切った僕には、逃げ回ることしかできない。
「さらに追加だ! 【ファイアダンサー】!」
新たな召喚獣が戦場に降り立つ。
これで僕を追う召喚獣は四体。
逃げ道を塞ぐように広がり、じわじわと僕を取り囲んでいく。
避けきれなかった攻撃が次々と身体をかすめ、そのたびにタリスマンが砕けていった。
「今だ! 【クロスファイア】!」
火野の詠唱と同時に、僕を中心として炎の奔流が巻き起こった。
視界が一瞬で真っ赤に染まる。
全身を焼く熱に耐えながら身をかがめると、周囲から召喚獣たちの断末魔が響いた。
炎が収まった時、僕を取り囲んでいた四体の召喚獣は、すべて灰へと変わっていた。
ついでに、僕のタリスマンも音を立てて砕ける。
やばい……。
開始早々、残りのタリスマンが十個を切った。
「くそっ! 普通、仲間ごと焼くか?」
召喚獣をまとめて焼き払われたアッシュが、悔しそうに声を上げる。
火野には、僕に遠慮せず火力を撃ち込めと伝えていた。
まさか初手から僕を囮にしてぶっ放すとは思わなかったが、敵の召喚獣を一掃できたのなら結果オーライだ。
「よし、【バイオスネーク】召喚!」
「【ストームガード】を召喚。受け止めろ」
僕の呼び出したバイオスネークの前に、ストームガードが立ちはだかる。
さらに、その背後にはウィンドウォールも控えていた。
二体の守りに阻まれ、アッシュたちのタリスマンまで攻撃が届かない。
ゲイルのデッキは、守備向きの召喚獣と妨害スペルが半々といったところか。
「【モンク】、【ファイター】召喚だ!」
アッシュが新たな召喚獣を並べる。
「させるか! 【ファイアジャベリン】、【ファイアボール】!」
火野の放った炎が、二体の召喚獣へ突き刺さった。
よし、火野。ナイスだ。
盤面の優位を取るためにも、アッシュの召喚獣を残すわけにはいかない。
火野がアッシュの攻め手を潰している間に、バイオスネークはストームガードとウィンドウォールを巻き込み、相打ちになっていた。
これで戦場から召喚獣が消えた。
再び振り出しだ。
「旦那。火野は木偶の坊って言ってなかったか?
なかなか厄介なんだが」
ゲイルが訝しげに火野を見る。
「おかしい……。火野はさっきからスペルしか使っていない」
「はあ? まさか、召喚獣を一体も入れてないのか?
いくらペアマッチだからって、そんなデッキを組むやつはイカれてるぜ……」
アッシュが驚愕の声を上げた。思ったより早く看破されてしまった。
その通り。
火野のデッキには、召喚獣が一体も入っていない。
火野が火力で道を開き、僕の召喚獣が敵を踏み潰す。
それが今回のデッキのコンセプトだ。
「しかも、固有能力の効果か。スペルの威力まで上がってやがる」
「自分の得意分野に振り切ったのか……。厄介だな」
二人の意識が火野へ向いている。
今がチャンスだ!
「【ウッドストーカー】、【アースエレメント】召喚!
アッシュを削り取るぞ!」
ゲイルの反応が一瞬遅れた。
その隙を突き、アースエレメントの拳がアッシュのタリスマンを砕く。
「くそっ! ゲイル、頼む!」
「任せろ。【ウィンドカッター】!」
鋭い風の刃が、僕の召喚獣へ襲いかかる。
「ロキ。地属性で召喚!」
僕の相棒、ロキが戦場に顕現する。
ロキのカードは無属性だが、召喚時に好きな属性を選ぶことができる。今回は地属性だ。
風の刃が召喚獣たちを切り裂こうとした瞬間、地面から伸びた太い蔦が、その身体を覆った。
【不落の神ロキ】属性 地
コスト 6
パワー/タフネス 6 /6
位相 地
能力
・あなたの召喚獣にタフネス+2と護衛を付与する
・???
蔦に守られた召喚獣たちは、ウィンドカッターを受けても倒れない。
「くそっ、全体強化か……」
僕の相棒が場に出た以上、ここから先、簡単にタリスマンを削らせるつもりはない。
「何も問題はない。やることは変わらん」
ゲイルが冷静に僕を見据える。
「御厨を倒せば、残るのは頼りない火力だけだ。さっさと潰すぞ」
ゲイルの声が、不気味に闘技場へ響く。
その時、火野が吠えた。
「【サラマンダー】召喚!」
火野の足元から赤い魔法陣が広がり、闘技場の空気が一瞬で乾いた。
魔法陣の中心から、赤黒い鱗を持つ小さな獣が姿を現す。
一歩踏み出しただけで石床が焦げ、闘技場を熱気が満たした。
「こいつが俺の切り札だ。透、一気に決めるぞ!」
おい、待て。
僕が組んだ火野のデッキに、そんな召喚獣は入っていない。
その召喚獣、僕の知らないやつ!




