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第45話 邪道の一手

結局、リーゼとサラさんとのペアマッチは、負け越したまま終わった。


火野とサラさんは、二人の生活ルールを擦り合わせて幸せそうにしている。

一方、僕に残ったのは、リーゼから課された過酷なルールだけだ。


「火野さんには勝利が似合います。絶対勝ってくださいね」


「ああ、絶対だ。サラは俺の勝利の女神だな」


サラさんと火野の会話は、僕とは別の世界の出来事みたいだった。

その事実が、僕の心を重くする。


これ以上聞いていると精神に悪い。

僕は話を切り上げるように、火野へ手を差し出した。


「火野、少しデッキを貸してくれ」


「分かった。透のデッキ構築は信用してる。好きなように組み替えてくれ」


火野は以前、でかい召喚獣で殴ることしか考えていなかった。

だが最近は、スペルを使うタイミングが目に見えて良くなっている。


使いたい場面でも一度こらえ、より効果的な瞬間まで待つことができる。

簡単そうに見えて、初心者にはこれが難しい。一種の才能だ。


なら、その才能を勝ち筋に変える。

火野の得意を最大限に生かしたデッキを組もう。


召喚獣とスペルの割合を見直し、僕のデッキとの噛み合わせも考える。


普通に整えるだけでは、看守の二人には届かない。

それなら――少しくらい大胆に崩した方がいい。


何度かカードを入れ替え、ようやく形になったデッキを火野へ差し出す。


「よし、できた。これで行くぞ」


「どんなデッキだ? ちょっと見せてくれ」


火野は嬉しそうにカードをめくり始めた。


だが、その手は次第に遅くなっていく。

最後まで確認した頃には、すっかり険しい顔になっていた。


「これは少し極端すぎないか? こんなデッキ、見たことないぞ」


「その分、僕のデッキでバランスを取ってある。うまく回れば、確実に勝てる」


僕は火野をまっすぐ見る。


「だから、僕を信用してくれ」


火野はもう一度デッキへ目を落とした。

しばらく迷っていたが、やがて覚悟を決めたように頷く。


「そうだな。俺は透を信用するって言ったんだ。このデッキと心中する」


そう言った直後、火野は何かを諦めたように天井を仰いだ。


「透。俺かお前、どちらかのデッキが原因で負けても、恨みっこなしだからな」


どうやら納得してくれたらしい。

言葉の端々に、かなりの不安がにじんでいる気はするが。


「構成が大きく変わったから、戦い方を一度、自分の中で整理したい」


「ああ。使いこなすのは少し難しい。明日までに、できるだけ動きを覚えてくれ」


「分かった。ここから脱獄戦が始まるまで、デッキは触らない。次に会うのは、明日の試合だ」


火野はデッキを大事そうに抱え、自分の宿へ戻っていった。


あの様子なら、明日まで頭の中で何度もデッキを回し続けるだろう。

あとは火野が、この極端な構築をどこまで自分のものにできるかだ。


僕も宿に戻ると、明日の脱獄戦で使えそうな召喚獣がいないか確認することにした。


未解放カードを確認していると、ふいに猛烈な違和感に襲われた。


何かがおかしい。


バインダーを何度もめくる。

しかし、違和感の正体を見つけることはできなかった。


僕の気のせいか……


そう思いながら、未解放カードが格納されているページをもう一度開く。

ふと、右下のカードに目が止まった。


解放条件:僕を見つけること


泥田坊と同じページに入っているカードだ。

ここには前回、違う解放条件が出ていなかったか?


それより、僕を見つける?

どうやって?


漆黒のカードを取り出す。

手触りが、他の未解放カードと違う気がする。


何かおかしい……


カードの端を見ると、黒塗りの部分が少しだけ剥がれ、その下から別の絵柄が覗いている。

爪で優しく擦ると、何かが付着していたのか、パラパラと粉のようなものが落ちた。


黒い何かが塗られているだけなら、全部剥がせるかもしれない。


ドキドキしながら、カードに付着しているものを少しずつ削っていく。

時間はかかったが、やがて隠れていた召喚獣が僕の前に姿を現した。


【変幻の神ロキ】


このカード、未解放カードじゃない……

最初から僕のバインダーに潜んでいたんだ。


カードに描かれた男が、イタズラを見つけられたとばかりに、ニヤリと笑った。


――眠れる力を抱く者よ

――定められた役割を捨て、敵も味方も運命さえも欺け。

――我は届かぬ勝利へ、邪道の一手を授ける者なり。


無色の召喚獣。パワーもタフネスも低い。

恐らく、かなり特殊な召喚獣だな。


能力は何も分からない。

それでも、このカードが僕のパートナーになるのだと、この時はっきり確信した。


「運命を欺く? 邪道の一手?

僕のパートナーが、こんな捻くれ者とは」


【変幻の神ロキ】属性 無

コスト 6

パワー/タフネス 2/2

位相 地

能力

・???

・???


能力は分からない。

それでも、こいつを入れなければ勝てない――そんな確信だけがあった。


能力が分からないカードをデッキに入れる。僕はいまだに、この行為には慣れない。


この一枚が原因で敗北するかもしれない。

そう思うと、なぜか笑みがこぼれた。


ロキを入れて、デッキを組み直そう。

その日、僕は夜遅くまでデッキの調整を続けた。


翌日。

僕たち四人は、アンダードッグで食事を取っていた。


「それで、仕上がりはどうなんだ?

遅くまで何かやっていたようだが。昨日のままなら、勝つ確率は低いぞ」


リーゼが口火を切った。


「バランスはかなり良くなったはずだ。

勝ちは3割見込める」


「一日調整して3割か?やはり無謀だったんじゃないか?」


「なに、3割勝てるってことは、10割勝つってことだよ。分かる?」


「トオルの言うことは、一から十まで分からん。とりあえず任せるから勝て」


リーゼは理解することを諦めたようだ。

だが、勝利に関してはある程度、僕を信用してくれているようだった。


「火野さん、勝ったらご褒美を用意しますね」


サラさんの笑顔が眩しい。


「勝ったら、毎日僕と一時間トレーニングだ。楽しみだろ?」


火野とのご褒美の落差がデカい。

全然楽しみではないが、勝つしかない。


食事を終えると、僕は火野と二人で看守戦へ向かった。


看守戦が始まる直前。控え室で待っていると、火野が気まずそうに声をかけてきた。


「透、悪い。少しデッキを組み替えた」


「へっ?」


「どうしても入れたい召喚獣を、一枚だけ足した。これは絶対に必要なんだ!」


おい、ふざけるな!

僕の勝利の方程式が揺らぐじゃないか。


「準備は整った。二人とも闘技場に出ろ」


その時、看守が僕たちを呼びに来た。

どうやら、デッキを調整し直す時間はもうないようだ。

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