第44話 噛み合わない2人
火野とサラさんの従者問題は片付いた。あとは、明日の脱獄戦に向けて準備するだけだ。
「サラさんとリーゼでペアを組んで、僕と火野の相手をしてもらえませんか?」
「はい、喜んで。私は地属性ですから、看守の方と似た動きができると思います」
リーゼとサラさんの属性は、水と土。
攻撃役と防御役に分かれてもらえば、アッシュとゲイルの戦い方を、ある程度は再現できるかもしれない。
「サラさん。少しですけど俺の手持ちから使えそうなカードを選びましょう」
「はい。火野さんから初めていただくカードですね。大切に使います」
まだ従者契約も結んでいないのに、ずいぶん初々しいやり取りだ。
「僕には?」
二人を眺めていたリーゼから、当然のように要求が飛んでくる。
そういえば、星儀戦で忍野からいただいたカードには水属性のものが多かった。
その中からリーゼが使えそうな騎士のカードを何枚か選び、差し出す。
「じゃあ、これは僕からリーゼに」
「騎士のカードか。今のバンディットデッキには入らないけど……」
そう言いながらも、リーゼはカードを大事そうに受け取った。
「ありがとう」
その顔が、見る間にほころんでいく。
本当に貰えるとは思っていなかったらしい。
リーゼも自分の手持ちから一枚のカードを取り出した。
「じゃあ、これは僕からお返しだ」
なぜか水の騎士のカードをくれた。
僕が水属性も使えること、ばれてないよな?
「よし。それじゃあ、星儀戦を始めようか」
僕と火野はリーゼたちと距離を取り、互いにカードを構えた。
「来い、【ファイアスピリット】」
火野が先に召喚獣を展開する。
「守れ、【アースエレメンタル】」
僕の召喚獣は守護持ち中心。これで僕と火野、二人分のタリスマンを守る。
火野のファイアスピリットが、僕の召喚獣を追い越して前へ出る。
「火野、待て。まだ守りが――」
僕が火野を追わせるためにアースエレメンタルを前進させた瞬間、空いた守備の隙へリーゼの攻撃が飛び込んだ。
慌てて守備に戻せば、今度は孤立したファイアスピリットがサラさんの召喚獣に包囲される。
「透、守ってくれ!」
「だから先に出るなって!」
召喚獣の強さだけを比べれば、こちらの方が上のはずだ。それなのに、僕と火野の動きはまるで噛み合わない。
僕が守ろうとすれば火野が前に出すぎ、火野に合わせて攻めれば守りが薄くなる。
「サラ、相手は浮き足だっている。ここで攻めるぞ」
「はい、リーゼさん」
「狙いはトオルだ。サラ、もう守らなくていい。
一気に潰せ」
リーゼの掛け声でサラさんの召喚獣とリーゼの召喚獣が僕の方に向かってくる。
「火野、一旦守るぞ」
「え、俺は攻撃役じゃないのか?」
「臨機応変に頼む」
火野が混乱しているうちに、リーゼたちの召喚獣が僕へ殺到する。
「空賊、海賊、挟み込め」
リーゼの召喚獣は軽く素早い。僕が逃げようとした経路に回り込まれる。
「ちっ、じゃあこっちだ」
僕が逃げた方向には大きなクマがヌッと現れる。
「ストロングベア。タリスマンを割って」
サラさんの言葉に、クマの丸太のような腕が振り抜かれ、僕のタリスマンは全て破壊される。
即席ペアなのに動きがいい。
サラさんはリーゼの指示に迷いなく応じていた。もともと忍野の従者として、他人に合わせる戦いに慣れているのだろう。
「僕は脱落だ。一人でもなんとかしてくれ」
場外へ退きながら、火野へ声を飛ばす。
火野は棒立ちになっていた。
「おい、召喚獣いないんだから逃げ回って時間稼がないと」
「そ、そうだな」
火野は僕がやられたことに気を取られ、すっかり場が見えなくなっていた。
「【ファイアボルト】」
僕の声で我に返った火野が、スペルを放つ。
しかし、やはり二対一の不利は覆らない。
火野が一体を召喚する間に、向こうは二人がかりで戦力を増やしていく。数の差は広がる一方だった。
ほどなく火野も倒され、一戦目は僕たちの負けに終わった。
その後も役割を変えながら何戦か試した。しかし、気づけば僕たちの方が大きく負け越していた。
「ふむ。トオルたちには、どうにも必死さが足りんな。次からは、何か賭けることにしよう」
リーゼがそう言うと、サラさんが少し考えてから口を開いた。
「これから一緒に暮らすことになりますし、生活のルールを賭けるのはどうでしょう? 勝った側が、一人一つずつ決めるんです」
火野が力強く頷く。
「いいですね!」
「では、次に私たちが勝ったら、火野さんには毎日少しだけ、二人で話す時間を作ってもらいたいです」
「喜んで!」
火野が間髪を入れずに答える。
それは罰じゃなくてただのご褒美じゃないか?
火野も喜んでるし……
「では、僕からトオルに。
次に僕たちが勝ったら、毎日一時間、訓練の時間を設けるから参加するように」
続いて、まったく可愛げのない要求が僕に飛んできた。
「なんで火野はご褒美で、僕だけ罰なんだよ……」
監獄を出られたとしても、僕は別の意味で死ぬかもしれない。




