第43話 隣で戦いたい
「私は、火野さんの従者にはなれません」
サラさんの言葉に、僕は凍りついた。
なぜだ?
「功績値を支払えなかった場合、従者にも返済の義務が生じます。今、火野さんの従者になれば、かえって迷惑をかけてしまいます」
「俺は、その功績値ごとサラさんを背負いたいです」
火野は迷いなく言い切った。
サラさんはすぐには答えず、わずかに目を伏せる。
「……そう言ってもらえるのは、嬉しいです。でも」
まずい。
気持ちは届いている。それでも、サラさんの決意までは変えられていない。
このままでは、話が終わってしまう。
「火野も最初は、僕に迷惑をかけるからって、脱獄戦のパートナーを引き受けてくれなかったんです」
サラさんが、静かにこちらを見る。
「自分のせいで僕まで深層に送られるのが怖いって。でも、最後には一緒に戦うと言ってくれました」
「ですが、私が従者になると、火野さんまで返済に追われることになります」
「それを決めるのはサラさんじゃなくて、火野です」
僕は隣の火野を見る。
「火野は今、その危険ごと一緒に背負いたいと言っているんです」
わずかに揺れた表情を見て、僕はさらに言葉を重ねた。
「僕は、火野が引き受けてくれて本当に助かりました。あのまま断られていたら、星儀戦の舞台に立つことすらできなかった」
サラさんが、小さく頷いた。
「火野は従者がいないせいで、これまでずっと苦労してきました。だから、もし火野が看守に勝ったら……負債があるから迷惑をかけるなんて考えず、火野の従者になってくれませんか?」
サラさんはしばらく迷うように黙り込み、やがて火野へ視線を戻した。
「……それでも火野さんが、私を望んでくださるのなら、お引き受けします」
サラさんは胸元で手を握り、今度は目を逸らさなかった。
「負債を背負うと言ってくださったからではありません。火野さんなら、私も隣で戦いたいと思えたからです」
火野が勢いよく頷く。
「もちろんです!
看守に勝ったら、俺の従者として隣にいてください。功績値も必ず俺が返します」
「火野さん……」
二人は、互いを見つめ合う。
……これは、僕とリーゼがここにいる方が邪魔かもしれない。
「火野。僕もリーゼと話があるから、少し席を外す。あとで迎えに来るよ」
火野とサラさんの邪魔をしないよう、僕はリーゼを連れて店を出た。
「それで、またここか」
時間を潰すために入ったのは、すっかり馴染みになったアンダードッグだった。
「安くて美味い。おまけに、店名まで僕にぴったりだろ?」
「はぁ……」
リーゼが盛大にため息をつく。
どうやら、何かご不満らしい。
「え、僕、何かした?」
「いや。火野殿のように、少しくらい従者の前で格好をつけて欲しいものだと思ってな」
「僕がおしゃれな店に連れていって、真剣にリーゼを口説き始めたらどうする?」
リーゼはわずかに考えたあと、真顔で答えた。
「……殴り飛ばすかもしれん」
「なぜそうなる……」
アンダードッグに来るのも、あと数回だろう。
そう思うと、少しだけ名残惜しい。
「しかし、あんなにすんなり決まるものなんだな。火野は一目惚れみたいだったけど、サラさんまで受け入れるとは思わなかった」
リーゼが、なんとも言えない表情を浮かべる。
「え、何かまずかった?」
「いや。トオルは、従者という立場をあまり理解していないのだと思ってな」
「うん。確かによく知らないかも」
「一般召喚師にとって、上級召喚師の従者になる利点は大きい。後ろ盾が得られ、生活も安定する」
「なるほど」
「それに、異世界召喚者は結婚相手としても人気があるらしいぞ」
「ああ、玉の輿を狙えるわけか。そう考えると、サラさんも意外としたたかなのか?」
「それが目的なら最初から断ったりはしないだろう。少なくとも、損得だけで火野殿を選んだわけではなさそうだ」
確かに、利益だけを考えているなら、借金を理由に一度断る必要はない。
火野の覚悟が伝わったからこそ、受け入れてくれたのだろう。
ひとまず、二人のことは心配しなくてもよさそうだ。
「それより、タッグマッチではどんな構成がいいと思う?」
「攻めて、攻めて、攻めまくる構成だろう。一人を先に仕留めれば、残った一人を二人がかりで叩ける」
「僕とリーゼなら、それでもいいんだけど。今回は火野と組むから……」
リーゼが腕を組み、しばらく考え込む。
「ならば、攻撃と防御で役割を分けてはどうだ。トオルが守り、火野殿が攻める」
「それが現実的か。看守たちと同じ構成になるけど、今の僕たちには一番合っている」
僕が相手の攻撃を受け止め、その間に火野が一人を集中して攻める。
単純だが、火野の長所を最も生かせる戦い方だ。その後もリーゼと意見を出し合い、いくつかのデッキ案を組み立てた。
「あとは、火野殿と実際に合わせてみるしかないな」
しばらくしてリーゼとウィナーホースへ戻ると、火野とサラさんの話も、すっかりまとまっているようだった。
楽しそうに話している火野へ声をかける。
「うまく話がまとまったみたいだね。火野、これから明日の対策を立てるぞ。付き合ってくれ」
「おうよ! 俺は勝って、サラさんとの楽しい召喚師生活を手に入れる! 何でもやるぞ!」
「私も、火野さんの従者になれるよう、お手伝いします」
サラさんを従者にできるかどうかは、明日の脱獄戦に懸かっている。
そのためにはまず、僕と火野がまともに共闘できるのか、確かめなければならなかった。




