第4話 裏切り者の風陣営
ぎいっと大きな音を立てて、最後の神官が部屋に入ってきた。
そのままソルさんの耳元で、何かを囁く。
部屋の空気が張りつめた。みんなが、その一挙一動を見守っているのがわかる。
ソルさんの顔がわずかに歪み、難しい表情になる。
「わかりました。それが王族の意向なら従います」
そう言って、ソルさんはすっとこちらに向き直った。
「あなたは、風の王族の召喚師見習いとします。一定期間様子を見て、改善が見られない場合は放逐されますので、励むように」
なんとか、首の皮一枚つながったらしい。
いや、つながったと言っていいのかも怪しい。
見習いって、正式な召喚師と何が違うんだ……。
「見習いなんて制度はないので、私もよく知りませんよ。一度訓練を受けてから正式配属するように言われております」
僕の顔に出ていたのだろう。ソルさんがそう補足してくれた。
「こいつ以外の七人は王国に所属して、召喚師として働いてもらう。なに、エリート職だから、そこまで悪い待遇じゃないさ」
「無理やり呼びつけて、働けって、めちゃくちゃじゃないか?」
金髪のヤンキーみたいな男が食ってかかる。
「うーん。あちらの世界で死ぬ予定だった方を、こちらに呼んでいるんですよね。だから、そのまま死ぬよりはよくないです?」
「なっ……」
ソルさんの返答に、ヤンキーは言い淀んだ。
それが本当なら、話はかなり変わってくる。
「活躍して貴族になっている人もいますし、頑張り次第では前の世界より良い生活もできますよ」
「ただし、それなりに働いてもらうがな。召喚師は途中で死ぬやつも多いから、あまり気を抜くなよ」
部屋の空気が、少しだけ重くなった。
召喚師の光と闇、って感じだな。ハイリスク、ハイリターン。
……もっとも、僕にはまだ関係のない話かもしれない。
他の七人は、もう召喚師として扱われている。けれど僕だけは違う。
「ふーん、面白そうじゃないか。上手くいってなくて、むしゃくしゃしてたんだ。こっちで成り上がってやる」
どうやらヤンキー風の男は納得したらしい。
単純すぎるだろ。こんなんで納得するな。もっと揉めろ。
すると、隣で静かに聞いていたオタク風の男が、勢いよく前に出た。
「召喚師って、貴族になれるんですよね!? じゃあ、その、貴族の娘とかとも――」
ソルさんの目が険しくなる。さっきまでより、露骨に冷たい。
「ごく一部ですが、優秀な召喚師なら、王族との婚姻が認められることもあります」
「よしっ!」
オタク風の男が、小さくガッツポーズする。
「異世界人生、始まったな……!」
盛り上がっているオタク風の男は、ひとまず置いておくとして。
他国に流すくらいなら、婚姻で自国につなぎ止める。
そう考えると、召喚師の立ち位置がますます見えなくなる。
確かに召喚獣は、人智を超えた力を持っている。
そんなものを抱えている以上、戦争に駆り出されたり、殺し合いに参加させられたりしてもおかしくない。
けれど、僕の不安なんて無視するように、話はどんどん進んでいく。
「ここには同じ所属になっている人がいますから、仲良くしておくと、後々助かるかもしれません」
風の所属になったのは、一回戦で戦ったサラリーマン風の男だった。
男は僕と目が合うと、困ったように笑った。
「どうやら、あまり期待されている組ではなさそうですね」
「……そう決まったわけじゃないでしょう?」
そう返したものの、声に力は入らなかった。
最後に回ってくる陣営。
誰も選ばなかった人材の受け皿。
見習いという名の保留枠。
並んだ言葉だけで、だいたいの扱いは察せてしまう。
「いえ、会社でもこういう時はだいたい分かるんです。期待されている部署と、そうでない部署は、空気が違います」
サラリーマン風の男は、ソルさんたちの表情をちらりと見てから、少し声を落とした。
「しかし、だからこそ協力しましょう。周りを見る限り、癖が強くてスタンドプレーに走りそうなタイプが多い。こちらは二人で乗り越えるんです」
力強い眼差しだった。
ここに来て、かなり当たりを引いた気がする。
ヤンキーやオタクくんと組めば、いざという時に切り捨てられる可能性が高い。
でも、この人は長い目で見てくれそうだった。
「よろしくお願いします。僕は御厨透です」
「こちらこそ。私は皆川唯です」
名前まで誠実そうだ。
少なくとも、今の僕にとっては一番頼れる相手だった。
「はいはい、じゃあ見習いくんは、私と一緒に来な。訓練をつけてくれる人のところに引き渡す。他の七人は、それぞれの所属ごとに振り分けるからな」
せっかく協力関係を結べたのに、早速お別れらしい。
「必ず合流しますので、待っててください」
「ええ、期待しています。また後ほど」
手を振って別れを惜しんでいたところで、ルナさんに声をかけられた。
「おい、そろそろ行くぞ。上手くやったら、あいつとも合流できるから」
「絶対合流しますよ。見習いのまま終わるつもりはないので」
「はん。失敗したら一般人として生きられる。成功したら、王国の裏切り者の風陣営だ。どっちが幸せなんだろうな」
ルナさんのその一言で、足が止まった。
裏切り者の風陣営。
さっきまでの扱いの悪さに、ようやく名前がついた気がした。




