第3話 誰にも選ばれない召喚師
三戦が終わり、僕は一人、通路に転がされていた。
他の七人は、最終戦を観戦しているようだ。
頬も腹も痛い。じわじわと熱を持っていて、息をするだけで鈍く響く。
召喚獣を呼び出せない以上、タリスマンが全部砕けたところで、降参のきっかけすら掴めなかった。
本当に、ひどい目に遭った。
「お兄さん、そろそろ全部終わるんだけど、動けるか?」
声をかけてきたのは、黒い神官のルナさんと、白い神官のソルさんだった。
どうやら、心配はしてくれているらしい。
「しかし、手札を一枚も見せないなんて、びっくりしたね。ただの馬鹿なのか、それとも戦略的に隠しきった天才なのか。どちらにしろ面白いな」
「ふざけすぎです。神聖な場であの振る舞い。今後の扱いが悪くなると分かっていて、何を考えているのか……」
大笑いするルナさんに、ソルさんがため息をつく。
「ほら、そろそろ立てよ」
二人に促され、僕はなんとか立ち上がろうとした。
だが、その拍子にカードを数枚、床へこぼしてしまう。
「おいおい、危ないな。しかし、どんなカードが配られれば、あんな戦い方になるんだ。少し見てもいいか」
ルナさんの言葉に、ソルさんが静かに頷いた。
「わかりますよ。最初のデッキには、自分に相応しいカードが配られますからね。
自分の下劣な本性が見えるのが怖いのでしょう? 貴方には、ゴブリンやトロールのような粗野なカードが似合いそうです」
「はは。善良そうに見えるけどな」
止める間もなかった。
こぼれたカードを、二人に表返される。
相変わらず、黒、黒、真っ黒だ。
「おい。これ、なんで……まさか、他も全部か?」
カードを見たルナさんの表情から笑みが消える。
「こんなこと、初めてですね。ルナ、王族に報告します?」
「そうだな……いや、これを伝えたところで、この後の結果は変わると思うか?」
「それは、変わらないでしょうね」
「……それに、神殿はあくまでも中立だ。だから召喚者の情報は秘匿するほうがいいと思う」
「同意します」
二人は目を合わせ、それから小さく頷き合った。
いや、僕は一切プレイできない状態なんだから、何かしら救済してくれ。
何も悪いことをしていないのに、理不尽すぎるだろ。
「これ、考慮してもらえたりは?」
ソルさんは視線をあさっての方に向け、ルナさんは僕の質問を完全に無視した。
「ああ、最後の試合が終わったようだ。この後は場所を移動するからな。他の奴らを誘導しないといけない。後から追いかけてこい。あと、その未解放カードの山、誰にも話さない方がいいぜ」
ルナさんがそう言い放つと、二人は他の召喚者を誘導するため、みんなが集まっている方へ行ってしまった。
みんなは連れ立って、部屋を移動していく。
最後にソルさんがこちらへ視線を送ったのが、妙に印象に残った。
気づけば、僕だけが部屋に取り残されていた。
未開放カードが配られ、少しだけ自分が特別だと思ってしまったが、ただの足かせでしかないようだ。
よろよろと立ち上がり、他のみんなが集まっている部屋へ向かう。
ガチャリと扉を開けると、そこは天井の高い部屋だった。先に入っていたみんなの視線が僕に集まる。
「よし、全員揃ったな。ここで、お前らの所属が決まる」
ルナさんの言葉に、サラリーマンが手を挙げる。
「所属とはなんですか?」
「この王国の王族は、火水土風、四つの陣営に分かれています。そのどこかの陣営、皆様は所属してもらいます」
ソルさんが答える。
「で、さっきの模擬試合の結果を見ながら、お前らを王族が取り合うんだよ。さっきの試合の評価で、待遇も変わるからな」
おい、本当に僕のことを考慮してくれよ……。
このままだと、召喚できない僕を欲しがる人なんているわけがない。
「じゃあまず、火の王族の指名だね。順番に結果が伝えられることになってるから、少し待ってな」
しばらくすると、黒い神官服を着た男性が扉から入ってきて、ルナさんに耳打ちした。
「よし、まずはさっき三勝した君だな。君の召喚した精霊は、なかなかだった。これからも励むように、とのことだよ」
呼ばれた男が、ほっとしたように息を吐く。
次に、白い神官服の男性が入ってきて、今度はソルさんに耳打ちした。
「水の王族の指名です。はい、そちらの女性の方です。未解放カードにも期待する、とのことです」
そんなふうに、ソルさんとルナさんに呼ばれ、一人、また一人と所属が決まっていく。
火、水、土、風。
その順番で一巡したあと、次は逆から選ばれるのかと思った。
だが、二巡目も火からだった。
どうやら、王族の間にも明確な力関係があるらしい。
そして、弱い陣営ほど選ぶ順番が遅い。なかなか、面倒くさそうだ。
七人目まで指名されたあと、残ったのはとうとう僕だけだった。
「あぁ、君。まともに戦ってないから、風の王族が拒否したら出て行ってもらうからね」
「え、そんなことあるんですか?」
思わず声が裏返る。
「王族は召喚者が欲しいからね。何もできない無駄飯食らいは置いておけないよ」
「ちょっ、僕の事情、知ってるでしょ?」
ここで放り出されたら、どうなる。
現代日本でぬくぬく育った僕に、見知らぬ土地で一人生き抜く力なんてない。
「知ってるさ。だけど、召喚獣がないんじゃどうしようもない。召喚者としての資格があるかもしれない、とは伝えておいたよ。あとは風のお姫様次第だ」
僕の番だけ、やけに待たされた。
他の召喚者たちも、興味深そうにこちらを見ている。
嫌でも視線が刺さる。
喉が渇く。
心臓が、嫌な音を立てていた。




