第2話 僕のデッキ、全カード使用不可
真っ黒なカードを眺めて唖然としていると、同じようにカードを確認していたらしい、スーツを着たサラリーマン風の男が手を挙げた。
「黒く塗りつぶされたカードがあるんですが、これはなんですか?」
「未解放のカードです」
どうやら、僕以外にも黒塗りのカードを与えられた人がいるらしい。
仲間がいたことに、少しだけほっと胸を撫で下ろす。
ソルさんは表情を変えないまま続けた。
「通常、最初に与えられるカードは、使用者のレベルに合わせたものが用意されています。
しかし例外があります。それが未解放のカードです。
使用者とのレベル差があっても、それを超えてあなたに力を貸したいと思っているカード。
それが未解放カードです」
「これを使うにはどうすればいいのですか?」
いいぞリーマン。その調子でぜひ条件を聞き出してくれ。
「召喚者の成長、契約条件の達成、あるいは召喚獣側の承認によって開かれると言われています。
通常、異世界からの召喚者であれば一枚程度は所持しているようです」
「つまり、強いカードなんですか?」
「その可能性はありますがピンキリのようですね。
過去には、最上級の召喚獣が宿っていた例も記録されています」
広場がざわつく。だがソルさんは、すぐに続けた。
「ただし、最後まで開かなかった例の方が多いです。今は使えないカードとなりますので、一旦その存在はお忘れください」
ざわめきが、別の色に変わった。期待ではなく、値踏みするような沈黙に。
皆が黙って、自分のデッキに未解放のカードがないか調べ始める。
……いや、ちょっと待ってほしい。黒塗りのカードの存在を忘れると、僕には1枚もカードが配られていないことになるんだけど。
どうすればいいの、これ…
「皆様に配られたデッキ。それは皆様の心の有り様を映します。
どんなカードが配られようと、それはあなた自身です。大切にしてくださいね。ふふふ」
おかしそうに笑ったあと、ソルさんが続ける。
「では、皆様にはこれから模擬試合をしていただきます。試合での活躍に応じて、今後の待遇が変わりますので、死力を尽くしてください」
順に試合の対戦表が発表されていく。
僕の相手は、先ほどのサラリーマン風の男だった。
「変なことになりましたね。お手柔らかにお願いします」
模擬試合が始まると、自動的に手札が手の中に収まった。もちろん全部黒塗りだ。
先行はサラリーマン。
お互い何をすればいいのかわからず、無言でしばらく向かい合う。
すると、体の中に召喚に必要なエネルギーが少しずつ溜まっていくのがわかった。
さらに時間とともに、自動的に手札にカードが補充されていくようだ。
僕のカードはすべて黒塗りで、何もできない。試合中にうまく条件を満たして、使えるカードが出てくることを祈るしかなかった。
「ウィンドスプライト召喚」
サラリーマンのカードが光り、淡い風をまとった小さな精霊が目の前に現れる。
派手な威圧感はない。けれど主のそばに静かに控えるその姿は、妙に隙がなかった。
これが召喚……。
少し見惚れかけたが、召喚した本人もどう対応していいかわからないらしく、戸惑っているのが見えて、なんだか少しおかしかった。
「召喚した直後はしばらく何もできませんので、指示だけ与えておくといいですよ」
ソルさんのアドバイスに、サラリーマンはウィンドスプライトへ命令を下す。
「召喚獣もいない状況ですね……では、相手のマスターを攻撃してください」
いきなりウィンドスプライトが、その小さな手を振る。
おい、クールタイム短すぎるだろ!
風の塊のような球体が、すごい勢いで迫る。避ける余裕はなく、僕はまともにそれを食らった。
痛っ……くない?
その代わりなのか、カシャン、と音を立てて、ガラスみたいな破片が足元に飛び散った。
「だっ、大丈夫ですか?」
思った以上の勢いだったのだろう。命令したサラリーマンが、心配そうに尋ねてくる。
「痛みは受けないみたいです」
「よかった……じゃあお互い、遠慮なく戦えますね。本当にゲームみたいだな」
怪我をさせる心配がないとわかって、安心したらしい。そこからサラリーマンの目の色が変わった。
「見張り梟、伝令兎を召喚」
怪我をしないのは助かるが、これ、どうやって勝ち負けが決まるんだ?
サラリーマンの場には、どんどん召喚獣が追加されていく。
「ウィンドスプライト、マスターを攻撃」
何度目かのウィンドスプライトの攻撃。どうやら赤い果実を投げつけているらしい。痛みはないはずなのに、迫ってくる物体に思わず目をつぶってしまう。
バキッ。
その瞬間、頬に衝撃が走った。
崩れ落ちる僕。
固まるサラリーマン。
足元に散った破片はもうない。さっきのあれが身代わりみたいなものだったのだと、そこでようやく気づく。
「タリスマンを使い切ると、直接ダメージが通りますからお気をつけください」
ソルさんの説明を、ルナが引き継ぐ。
「タリスマンを使い切り、一撃を受けた時点で敗北だ。タリスマンを使い切った時点で降参するのをおすすめするぜ」
早く言ってほしい……。
恨めしそうに二人の方を見る。
「失礼ながら、やる気のない方はあまり好きではございません」
「違うんだ……」
「何も違いませんよ」
召喚できるカードがないだけなんだが、言い訳もさせてもらえず、ソルさんは踵を返す。
「次は二回戦です。早く準備をしてください」
立ち上がろうとした瞬間、手元の黒いカードが一枚だけ、かすかに熱を持った気がした。




