第38話 監獄相場
金。
火野の命。
リーゼとの従者契約。
そして、忍野。
限られた時間の中で、解決しなければならない問題が多すぎる。
考えながら歩いていると、昨日とは違う召喚具店が目に入る。
店先には木箱が並び、その中にカードが種類ごとに分けられている。
昨日の店より雑然としているが、品数は多そうだ。
昨日は値段に驚いて、まともに見られなかった。品揃えも気になる。少し確認しておくか。
「おじさん、カードを見せてもらってもいいですか?」
「ああ、好きに見ていけ。買うなら声をかけな」
店主に断って、並べられた召喚獣を確認する。
地、火、風、水。
属性は思ったよりバランスよく揃っている。ただし、強いカードがあるかは別問題だ。
一番高いカードは?
大地喰らい?銀貨3枚?
能力がないゴミカードが一番高額?
「おじさん、これなんでこんな高いの?」
店主は呆れたように鼻を鳴らした。
「若造には分からんかな」
「分からないですね」
「コスト八、パワー七、タフネス八だぞ。ここまででかい召喚獣はそうそう出回らん。こいつが戦場に出れば、まず勝ちだ」
店主は自慢げにカードを指で叩いた。
「入ったらすぐ売れる人気品だ。欲しいなら早めに決めた方がいい」
なるほど。そういう評価なのか。
この監獄では、分かりやすく大きい召喚獣ほど高く売れる。
効果の有無より、単純な数字。戦場に出るまでの遅さより、出た後の迫力。
火野の戦い方を思い出す。
でかい召喚獣を出して、正面から殴る。あれが、この監獄では普通なのかもしれない。
僕はもう一度、木箱の中へ視線を落とした。
使えないと思われて安く売られているカード。本当は強いのに、誰にも価値を理解されていないカード。
あるいは、組み合わせれば化けるカード。
金を稼ぐ方法が、少しだけ見えてきた。
気になって他のカードを順に確認していく。
【石穿ちモール】が、銅貨一枚?ふざけてるのか。本来銀貨5枚はする。
パワーは弱い。
だけど条件付きで相手の召喚獣を壊す。1枚で相手のカードを2枚壊せる可能性がある強いカード。
この店では、そういう価値がまったく見られていない。
「お金ないんだけど、このカード買い取れない?」
2枚の大地喰らいを差し出す。
「これは‥
お客さん人が悪いね。
価値わかってるじゃないか‥
2枚合わせて銀貨4枚でどうだ?」
「うーん、おまけでここら辺の弱いカードつけてくれない?この8枚でどう?」
「小銀貨一枚相当か‥よし持ってけ」
銅貨2枚分のカードで、銀貨10枚相当のカードと銀貨4枚。
あまりにもあっけない。
昨日、全身を痛めながら働いて得た金が銅貨十枚。食費を引けば、ほとんど残らない。
それなのに、カードの価値を少し見抜くだけで、銀貨が手に入った。
看守への挑戦料だけなら、もう届いている。
外で働くと1日で銅貨6枚。その何倍もの額が一瞬で手に入ってしまう。
もちろんここは脱出しないといけない。
しかし、まだまだ時間はある。しばらくここで稼ぐか‥
「召喚具店って、他にもあるんですか?」
「あぁ、数えたわけじゃないが10店舗くらいはあるんじゃないか?」
10店舗か‥
ここと同じ値付けならまだまだ稼げそうだ。
それに、金だけじゃない。使えるカードも集められる。
「ありがと。また来ます」
店主に礼を言い、僕は次の店へ向かった。
二店舗目も、予想通りだった。
大型召喚獣は高い。能力持ちの地味なカードは安い。
癖の強いカードは、ほとんど投げ売りに近い。
監獄中の召喚具店が、似たような基準で値付けしているらしい。
高額カードが安く手に入るのはありがたい。だが、一通り買い終われば終わりだ。
この方法は、無限に稼げるわけじゃない。
市場の歪みを食えるのは、最初に気づいた人間だけだ。
5店舗を回ったところで、召喚具店にいた火野と顔を合わせることになった。
「怪我してないか?」
「あぁ中級の壁は厚いぜ。今日は負けちまった」
火野は笑っているが、腕には包帯が巻かれていた。
笑って済ませていい怪我には見えない。
火野、一般召喚師に負けるなよ‥
「それでデッキ強化か?」
「あぁ、強力な召喚獣が必要なんだ。しかし高くてな」
火野の熱い視線の向こうにはファイアゴーレムのカード。能力のないサイズだけの召喚獣だな。
分かりやすく強そうに見えるだけの召喚獣だ。
だが、僕から見ればただの的だ。召喚獣を除去するスペル一枚で終わる。
そこで、頭の中でいくつかの線が繋がった。
大型召喚獣。
除去スペル。
火野のデッキ。
監獄内の歪んだ相場。
なるほど。
上手くやれば、これは使える。
「火野、僕がお前を勝たせてやる」
火野は困ったように笑った。
「気持ちは嬉しいが、どうやってだよ」
僕はバインダーから、【ゴーレム】のカードを取り出して見せる。
「そっ、それは!ゴーレム!レアカードじゃねえか」
だが、ここでは違う。この監獄では、大きくて硬い召喚獣はそれだけでありがたがられる。
「これをやる。その代わり、火野のデッキを少し触らせてくれ」
「デッキを? 構わんが、本当に大丈夫なのか?」
「ああ。ここからが、僕たちの勝利の第一歩だ」
火野のデッキを見せてもらうと、予想以上にひどかった。
能力のない大型召喚獣が多くて序盤を支える小型が薄い。
スペルがほとんど入っていない。総じてバランスが悪い。
「大型召喚獣、コスト払えずに負けたことないか?」
「何だ前の試合見てたのか。まさにそれだ。5枚くらい手札にあったんだが、コストが払えなくてな」
「少し、抜くぞ」
「あー、何してんだよ。弱体化するだろ」
僕は余計な大型を抜き、序盤用の召喚獣と除去スペルを足した。
火野が好きそうな派手なカードも、少しだけ残しておく。
全部否定すると、火野はたぶん使いこなせない。
火野の戦い方を残したまま、勝てる形に寄せる。
火野のデッキを調整した後、僕は残りの仕込みを始めた。
予定通り行くかはわからないが楽しみだ。
翌日。召喚具店に追加されたカードがないか確認していると、火野が勢いよく駆け込んできた。
「トオル!」
「どうした?」
「お前の組んだデッキ、最強だ!あっという間に三連勝だ。上級入りだぜ。これは約束の分前な」
火野は興奮した様子で、小銀貨三枚を僕に渡してきた。
「そりゃよかった」
「最初は、弱そうなカードを詰め込まれてビビったけどな。お前の計算通りってわけか。やるじゃねえか!」
「明日、もう一回チューニングしてやるよ」
「頼む。お前がいれば勝てる気がしてきた。
今日も、相手が【大地喰らい】を出して勝ち誇った瞬間、お前が入れた除去を撃ったらよ。
あいつ、顔が真っ青になってたぜ!」
火野は上機嫌で店を出ていった。
火野のデッキは、元が悪すぎただけだ。少しバランスを整えれば、一般召喚師相手なら十分勝てる。
だが、本命はそこじゃない。ここからが勝負だ。
翌日、僕が再調整したデッキで、火野はまた勝った。
「最近、でかい召喚獣を使うやつが増えててな。追加で入れてくれた除去スペルのおかげで助かったぜ」
「そうか。役に立ったならよかった」
僕は笑って答えた。
監獄内では、大型召喚獣が増えている。理由は簡単だ。
僕が持っている安価な大型召喚獣は全部売却した。今監獄内では、大型の召喚獣の枚数はかなり増えている。
大型召喚獣が増えれば、環境は遅くなる。
そして、大型を一枚で処理できるカードの価値が上がる。
これから除去スペルは高騰するだろう。
現在、召喚具店には一枚のスペルも置いてない。僕が買い占めたのだから。
「大型召喚獣に強い除去スペルあるよ。銀貨一枚からだ」
さぁ勝ちたければ僕からスペルを買え。
何、遠慮はいらない、昨日銅貨数枚で買った安いカードだ。
今持っているカードで、監獄内のカード相場を何回でも変えられる。
召喚師たち、頑張って稼げ。僕に金を払えば、いくらでも勝たせてやる。
金も、カードも、情報も。この監獄には、まだまだ吸い上げられるものがある。
待ってろよ、監獄を全部平らげてやる。




