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第34話 ペナルティより怖い責任問題

勝った。間違いなく勝った。

なのに、数字が僕を助けてくれるのは明日で、罰が僕を迎えに来るのは今日だった。


「勝ったのに功績値が足りないってどういうことだ?」


忍野には勝った。大量の功績値も手に入れた。だけど支払われるのは明日だ。


今日中に功績値を献上できない僕は、ペナルティを受けることが決まっていた。


「ご愁傷様。まぁせっかく最後の日だ。美味しいものでも食べないか?

もう金も必要ないだろ?」


リーゼはどこまでも冷静だった。


「僕がいなくなったらリーゼはどうなる?」


「君の最後を見届けて、フリーの従者になるかな。もう盗賊なんて虚しいし、また騎士を目指すか。

サキに言われた通りやり方を変えるよ」


「ん?見届け?

一緒に来るの?」


「従者も同行だよ。

まぁ戻ってきた従者は、何が起こったか絶対話さないらしいけどね」


さらっと言われて、背筋が冷えた。

僕はペナルティの中身を知らない。知る方法も持ち合わせていなかった。


2人で部屋の外に出た。


「銅貨それなりにあるな?

よしよし、じゃあ僕が知ってる店に行こう」


リーゼに連れられて着いたのは、僕が想像していた安酒場ではなかった。

石造りの古い店。入口には磨き込まれた槍と、見覚えのない紋章が掲げられている。


「……高そうなんだけど」


「昔はよく来たよ。騎士家の子供が初勝利のあとに連れてこられる店だ」


リーゼは何でもないことのように言ったが、店員は彼女を見るなり一瞬だけ背筋を伸ばした。


「リーゼ様」


「様はいらない。シュバルツ家はもうない。今はただの従者だ」


店員の視線は、リーゼの腰に剣がないことを確認してから、ほんの少しだけ沈んだ。

リーゼはそれに気づかないふりをして、席へ向かった


席に着くと慣れた調子で注文を終える。


「ここ、よく来たのか?」


「昔はね」


リーゼは短く答える。

そこで会話は途切れ、やがて運ばれてきた料理がテーブルに並んだ。


肉料理に、香草の効いたスープ。

焼きたてのパンまである。


おいしい…

この世界、パサパサのパンと塩辛いスープしかないと思っていたけど、ちゃんとした料理もあるんだな。


「君は幸せだね。死ぬ前に好きなもの食べられる。

なかなか、自分が死ぬタイミングがわかっている奴はいないよ」


好きなものを注文したのはリーゼだけど、まあそこはいいか。


「死ぬって決まったわけじゃないだろ?」


「どうだか?まぁ死ぬと思うよ。

少なくとももう、表には出れないだろ」


どうやら僕が楽観的なだけで、周りから見るとかなり悲惨な状況のようだ。


「リベンジマッチできないのが心残りだな」


心底残念と言った感じで、リーゼが呟く。


「僕は戻ってくるし、いつでも相手するよ。

ライバルの期待には応えなきゃな」


「ライバルね‥」


手元のグラスに目線を落とすリーゼ。


「まぁ手を差し伸べてくれた君に、恩返しできないのは騎士として癪だな‥」


「無事戻って来たら商売でも始めて、ゆっくり暮らそうかな。

奥さん貰って、小さいながら自分のお店」


「僕はそんなつまらない人生はごめんだね」


リーゼは小馬鹿にするように鼻を鳴らした。


「僕の従者なんだから当然付き合ってもらう」


「はぁ?僕に何をさせる気だ?」


「次に僕が星儀戦で勝ったら、リーゼは店の看板娘。

うちの店は制服スカートにするから」


「ふざけるな。先に風属性取り戻せよ。

もし僕が勝ったら、君は覆面にパンツ一枚で店頭に立ってもらうからな」


「そんなことしたら、僕の店が潰れるだろ。

あぁいいさ、リーゼが僕に勝てるならやってやるよ」


その日は少し遅くまでお酒を飲み、2人で部屋に戻った。

リーゼの素顔を見てから、まだ3日だったが、長く一緒にいる友のようだった。


次の朝、コツコツと扉がノックされる音が響く。


なんだよ‥

まだ早朝だろ‥


薄ーく目を開けると、目の前にはリーゼの寝顔が正面にある。

一気に目が覚める。


あれ、昨日一緒にお酒を飲んで、部屋に戻ってきたところまでは記憶がある。


問題はその先。

なぜリーゼと同じ布団で寝ている?

やばい覚えてない‥


なおも扉はコツコツとノックされていた。


「トオル、朝から五月蝿いぞ‥」


まずい、隣に寝ていたリーゼが目を覚ました。


「いや、違うんだ。気づいたら一緒の布団で寝ていて‥」


「ん?覚えてないのか?」


慌てる僕とは対照的に、リーゼはやけに冷静だった。


どうやら、リーゼには記憶があるらしい。よかった。服は乱れていない。

この様子なら、間違いは起きていなさそうだ。


「ごめん。全然記憶がない」


リーゼがゆっくりと目を伏せる。

そして、悲しそうな声で呟いた。


「‥無理矢理僕のことを女にしておいて、何も覚えてないんだ‥」


ピシッと固まる。

やばいことになってる‥


「昨日はライバルって言ってくれたのに、

夜には俺の女扱いだもんな‥

ライバルって言ってくれたの嬉しかったのに‥」


「いや、違う。何かの間違いだ」


「今思えば、昼間に言ってたよね。

奥さんをもらって商売を始める。リーゼにも付き合ってもらうって」


リーゼは布団を引き寄せながら、恨めしそうにこちらを見た。


「あれは、今晩にも僕を自分の女にするって宣言だったんだね……」


「違う、違うから」


「昨晩は僕を口説きながら何回も責任を取る、と言ってたけど?」


「セキニントリマス」


「うん、改めて言質とったからね」


どんどんと扉を叩く音が大きくなる。


「迎えだよ。早く出なよ」


扉を開けるまでに、「全部冗談だよ」とリーゼが言ってくれることを期待していたが、期待は叶わなかった。


今や僕の心臓は、激しく叩かれる扉と同じぐらいの勢いで鳴っていた。

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