第33話 狩られるもの 狩るもの
バジリスクが重い足取りで忍野へ迫る。
風食いクラゲが防御に回ったが、バジリスクの爪はそれをあっさりと引き裂いた。
「くそ、役立たず。なんとかしろよ」
忍野には、前回のような余裕がなかった。
「よしいいぞバジリスク。そのままタリスマンを破壊しろ!
【ジャイアント】召喚。畳みかけるぞ」
「さっ、させるか。【封殺】、消えろ」
追加の召喚獣を出されれば、忍野はさらに追い込まれる。
それがわかっているからこそ、焦った忍野は打ち消し呪文を切った。
だが、【封殺】はジャイアントを阻めなかった。
地面が沈み、土煙の中から巨人が姿を現す。
【封殺】を浴びたはずのジャイアントは、何事もなかったように戦場に立っていた。
「なんで消えない?バグ?いやイカサマか!」
狙い通り、忍野は打ち消し呪文を切った。
まさかここまで上手くハマるとは思わなかった。
【ジャイアント】属性 地
コスト 4
パワー 4
タフネス 4
位相 地
能力
・ジャイアントは打ち消されない
“ジャイアントの力は水を堰き止める”
コハクさんに効果だけ聞いていた召喚獣。
実は効果欄は???のままだったが、実際に打ち消されることで、今その能力が浮かび上がった。
聞いてた情報が間違ってたら目も当てられないところだった。
「なんで、水の対策召喚獣なんか入れてるんだよ!
人のデッキに対して対策するなんてマナー違反だ。卑怯者め!」
忍野は完全に自分のことを棚に上げて、地団駄を踏んでいる。
いいざまだ。
人のデッキに対策する方法は、特定の相手にだけは強いが、非常に脆い。
他の人と戦っても勝ち目がないからだ。
忍野は対戦者のデッキを調べて、勝ちを積み重ねてきたんだろう。
だから、デッキのズレが発生した時に対応ができない。
「くだらんな‥
トオルの勝ちだ。僕の出る幕はないな」
横で見ていたリーゼがぼそっと呟く。
「くそ、来いスライム。僕を守れ。切り札を引くまで耐えろ」
「ほう、切り札があるのか」
「ふーん、切り札ね」
その言葉に、僕とリーゼが同時に反応した。
リーゼの目つきは、完全に獲物を見つけた肉食獣のそれだった。
たぶん、僕も同じような目をしている。
忍野の切り札。ここまで来たら、それも見ておきたい。
忍野が苦し紛れに呼んだ召喚獣は、やはり防御に寄せたものだった。
僕の召喚獣はそれを無視し、忍野のタリスマンを削っていく。
しかし、タリスマンの削れる速度が思ったより遅い。
詳細はわからないが、恐らく忍野の固有能力は防御に特化している。
忍野のタリスマンはあと10個。
いくら防御を固めているとはいえ、後は時間の問題だ。
僕の場にはバジリスクにジャイアント、追加したロケットタートルが残っていた。
「よーし、引いたぞ!!
僕の、僕の切り札!
これで勝ちだ!」
忍野の顔がパーっと明るくなり、大声をあげる。
「シシシ、次に召喚クリスタルが充填された時が君の最後だ」
忍野の切り札は見たい。
だけど、それ以上に。
切り札を切れず、項垂れる忍野の顔が見たい。
「【薔薇の棘】をプレイ。対象は忍野がさっき引いた一番右のカード」
忍野の切り札に蔦が巻き付く。
「うん?なんだこれ?
けど、召喚クリスタルは溜まった。
戦場を飲み込め!全部蹴散らすんだ、【リヴァイアサン】」
忍野は召喚しようとしたが、【リヴァイアサン】は反応を示さない。
「そのカードを縛った。しばらくは使えない」
【薔薇の棘】属性 地
コスト 2
相手の手札一枚を一定期間縛る。
“薔薇を引きちぎる?そんなことはできない”
「ずるいぞ!
くそ、こっちに来るなよ。
本当なら僕の勝ちなのに」
冷や汗を浮かべ、ジリジリと後退する忍野。
「シシシ、ちょっとタイム。話し合おう」
引き攣った笑いを浮かべながら、僕から譲歩を引き出そうとしているようだ。
「バジリスク、ジャイアント。
残りのタリスマンを潰せ」
バジリスクの牙が刺さり、ジャイアントの拳が炸裂する。
忍野の残りのタリスマンはバラバラに壊れた。
「ぼ、僕の負けだ‥」
忍野はその場にへたり込んでしまった。
ざわ、と観戦席が揺れる。
打ち消し封じも、切り札封じも見せたせいだろう。
「忍野ってルーキー最強だろ?」
「忍野が対人対策だけなら、俺たちでも勝てるんじゃないか?」
「それ以上にアイツが上手かった。
さすがハーレムを目指しているやつは違うな」
いや、僕はハーレム目指してない。
殺気を感じ、横を見ると、氷のような目でリーゼがこっちを睨んでいた。
そのままリーゼがこちらに歩み寄ってくる。
「とりあえずこれで功績値はなんとかなったな」
「リーゼのおかげだ。助かった」
「しかし、本当にハーレムを目指していたとは‥
やはり僕をそういう目で見てたわけだ‥」
「違うって!」
「シシシシシ!」
その時、忍野から大きな笑い声が上がる。
「なんだ忍野、狂ったか?」
「きみ、功績値足らなかったんだね?
望願紙をよーく見てみなよ」
忍野の書いた望願紙を見なおした。
“功績値3200ポイント、デッキ外のカード全て。ただし支払いは明日”
支払いは明日?
血の気が引いた。
僕に必要なのは、今日中に支払いに使える功績値だ。
明日支払われても、今月の不足分には間に合わない。
「シシシ、カードが部屋にあったから支払いは明日って書いといたんだ。
これで君は助からない。僕の勝ちだ!」
支払いには間に合わない?
くそ、ちゃんと確認しておけばよかった。
勝負には勝った。なのに、功績値だけが間に合わない。
「やられたな。
どうやら君はここまでのようだね」
リーゼの声が僕の耳元で冷たく響いた。




