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第32話 望願紙の赤い光

忍野がギルドに顔を出す時間は、前回の行動から読めていた。

僕とリーゼは、偶然を装うために依頼掲示板の前で待っていたところ、やがて忍野がのそのそと姿を現す。


リーゼに目で合図を送り、忍野に接触する。


「あれ、忍野さん。また会いましたね」


忍野は、誰かに声をかけられることを予想していなかったのか、ギョッとした顔でこちらを見た。


「‥き、きみか。どうしたの?」


「いや、前回忍野さんに負けたのが悔しくて。

もう一回勝負して欲しいなと思って」


疑り深そうにこちらを見てくる。その目はこちらを全然信じていない。


「ほら、この前結構惜しかったじゃないですか?次やったら勝てるかなって」


全然惜しくはなかったし、そのまま同じデッキで再戦したら十中八九負ける。

だけど、忍野を釣るには間抜けを演じる必要がある。


「シシシ、なるほどいいよ。

賭けるのは功績値でいいかい?」


「もちろん。1000ポイントでどうですか?」


「いいよ。ところでその女の人は?」


忍野がリーゼの方をちらちらと見る。

視線がねちっこい。


「忍野さんを参考に、従者を雇ったんです」


「へー、なるほどね。じゃあ訓練所に行こうか」


促されるままに、訓練所に移動する。

一度負けた僕からのリベンジ戦ということで見に来る人も多かった。


「2回目だし、君もそれなりに自信があるんだろ?

よかったら従者を賭けないか?」


「従者なんて賭けられるんですか?」


「本人の同意があればね」


忍野はそこで、リーゼに向かって笑いかけた。


「君はどうだい?こいつより、僕の方が優秀だよ」


どうにも忍野がリーゼを気に入ってしまったようだ。リーゼがゴミを見るような目で忍野を見ている。


「我が主に、僕以外の従者は不要だ。

だから忍野殿は、従者の代わりに持っているものを全部賭けてくれ」


まぁ確かにこれ以上従者が増えても困る。

あの部屋は3人で生活するには狭すぎる。


リーゼの他に女の子を囲えば、僕のあらぬ噂もさらに広がることだろう。

それは何としても避けたい。


「忍野殿が持っている功績値と、デッキで使っているもの以外のカードをすべて賭ける。

その上でトオルと僕に勝てるなら、従者権を賭けてやってもいい」


リーゼがどんどん話を進めていることにあせり、耳打ちをする。


「おい、乗るのか?

負けたら忍野に何されるか‥」


「大丈夫だろ。だからこその二段構え。

君が負けたら、僕が情けない主の仇をとるだけだ」


忍野は一瞬たじろいだように見えた。

だが、ひそひそと相談する僕たちを見て、すぐに笑みを浮かべる。


「シシシ、重い条件で困るな。

けどいいよ。望願紙が受け入れるなら僕も受け入れよう。

まぁ成り立たないと思うけどね」


忍野はリーゼにその価値はない、と言いたいらしい。


「リーゼがそんな軽いとは思わないけどね‥」


もともと討伐報酬は一万ポイントは下らないと評価されてたんだ。

その評価は従者になっても大きく落ちるとは思えなかった。


お互いに望願紙に条件を書く。


「僕は功績値3200ポイント。それにデッキ外のカード全部だ」


「こっちはリーゼの従者権を賭ける」


書き終えると忍野の望願紙が赤く光る。


赤い光。

望願紙は、忍野の全財産程度ではリーゼの従者権に釣り合わないと判断したらしい。


「条件が合わない?

こっちは3200ポイントに、カードも全部賭けているのに?

条件が合わないのはあいつらの方じゃないのか」


狼狽した忍野は、ひどく滑稽だった。


リーゼが僕に耳打ちする。


「この条件で飲めばどうだ?

どうせ勝ちが決まった勝負だ」


僕は小さく頷いた。


「忍野さん、この条件でいいですよ。始めましょう」


望願紙は双方の価値が釣り合わない賭けには赤い光を灯す。

ただし、不利な側が明確に承認すれば、契約そのものは成立する。


こちらが承認の意を示すと、望願紙は青い光を放つようになり、勝負が成立した。


「えっ、本当に功績値もカードも全部賭けるの?

聞いてない。ちょっと待ってくれ」


どうやら、忍野は条件を引き下げてから勝負する気だったようだ。

なんだかんだ理由をつけて逃げられる前に、星儀戦を成立させてよかった。


手札が補充され勝負が始まる。


先ほどのショックを引きずっているのか、忍野はまだ落ち着かない様子で視線を泳がせていた。


相手の準備が整っていない?

知ったこっちゃない。


「咲け、エンシェントフラワー」


召喚クリスタルを充填できるエンシェントフラワー。いい初手だ。


「くそ、勝てばいいんだ。いくぞ。

【風喰いクラゲ】、全てを受け止めろ」


忍野の前に、風喰いクラゲが漂うように現れる。


「バジリスク、忍野のタリスマンを狙え」


続けて、僕はバジリスクを召喚する。


「エンシェントフラワーにバジリスク?

な、なんで地属性なんだよ?君、風属性だっただろ?

聞いてないぞ」


召喚されたバジリスクを見て、忍野はようやく気づいたらしい。

本来ならエンシェントフラワーを見た時点で気づくべきだが、賭けたものが大きすぎて、それどころではなかったようだ。


土属性で構成された僕のデッキに、風属性対策のデッキは通用しない。


風喰いクラゲは、風を喰う。

だが、地を這うバジリスクの毒牙までは止められない。


忍野の顔から、笑みが消えた。

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