第28話 地を這う召喚師 没落の騎士
僕とシュバルツは距離を取り、睨み合う。
場の召喚獣は僕の側に一匹、パワー0のエンシェントフラワーだけが残っていた。
「ここまで追い込まれるとは思わなかったな。第二ラウンド開始だ」
シュバルツはそう宣言すると、左右に【海賊】と【盗賊】を呼び出した。
「召喚獣が出ても構うな。あいつのタリスマンを破壊しろ」
軽めの盗賊デッキは立ち上がりが早い。だが、こちらの準備ももう整っている。
「【ツリーフォーク】、我が敵を撃ち倒せ」
巨大な樹人が地面を踏み鳴らす。
【海賊】と【盗賊】より攻撃力は上だ。
ダメージレースなら、僕の勝ち――そう踏んだ。
「なぜ、僕のデッキ相手にコストの高い召喚獣が不利なのか……わかってるだろ?」
シュバルツは二ヤリと口の端を歪める。
「【堕ちた騎士 アンドン】、ツリーフォークを縛れ」
呼び出された召喚獣から、投げ縄のようなものが飛び出す。
縄はツリーフォークに絡みつき、その巨体を強引に地へ引き倒した。
【堕ちた騎士 アンドン】 属性 水
コスト 5
パワー 6
タフネス 5
位相 地
能力
・アンドンのパワーよりパワーの低い召喚獣一体の動きを縛る。
“まさか、僕が盗賊の用心棒をすることになるとは”
ツリーフォークが動けない。
その横を、【海賊】と【盗賊】がすり抜けてくる。
「ほら、大きいだけじゃ、道は塞げない」
シュバルツが笑う。
ツリーフォークの動きを封じられた僕は、召喚クリスタルが再充電されるまで、シュバルツの呼び出した召喚獣を相手に逃げ回るしかなかった。
【海賊】の刃を避けたり、避けきれずタリスマンを削られながら、ひたすら再充電を待つ。
ここが正念場だ。
何度かの攻撃を凌いだ末に、ようやく準備が整う。
「ソウル2を支払う。アイネイアス、頼むぞ」
手札で眠っていた未解放カード。
アイネイアスが召喚されると同時に、支払ったソウルが流浪の民へと姿を変える。
「本体はともかく、一緒に出てくるのは戦えもしない雑魚か」
シュバルツが鼻で笑う。だが、その視線はすぐに険しくなった。
「いちいち、君の召喚獣はむかつくな。【追放されたアイネイアス】に流浪の民……
領地を追い出され、民も守れない僕への当てつけか?」
アイネイアスに近くの【海賊】を片付けさせる。
すると、また一人、流浪の民が生まれた。
「僕が足掻けば、また不幸な民が生まれるって言いたいのか?」
その光景に、シュバルツは苛立ちを隠せないようだった。
「そうじゃない。今から、わからせてやるよ」
「海賊、アイネイアスが何かする前に潰せ」
アイネイアスはそのまま【盗賊】と相打ちになり、さらに一人の流浪の民を生む。
四人の流浪の民が場に残った。
【追放されたアイネイアス】 属性 地
コスト 6
ソウル X
パワー 3
タフネス 3
位相 地
能力
・戦場に出た時、X体の流浪の民を戦場に出す
・戦闘時に流浪の民一体を戦場に出す
・死亡した時、姿を変えて戦場に戻る
“都市を追放されたアイネイアスに、戻る場所はなかった”
アイネイアスが倒れた瞬間、その姿が変じ、戦場に舞い戻る。
「ちっ、死亡がトリガーになる召喚獣か!」
シュバルツが焦りを滲ませたのと、ほとんど同時だった。
四人の流浪の民が、じりじりとシュバルツを取り囲んでいく。
「機動力を奪う気か? 邪魔だ、雑魚がまとわりつくな」
その瞬間だった。シュバルツのタリスマンが、一気に砕け散る。
「なっ!?」
シュバルツが目を見開く。
さっきまで武器も持たず、怯えているだけだった流浪の民。
だが今は違う。木で作られた粗末な槍を握り、瞳には闘志が宿っている。
「そいつらは、もう力のない民じゃない」
流浪の民は、建国の兵士へと姿を変えていた。
【建国の兵士】属性 地
パワー 2
タフネス 3
「兵士だと……?なぜだ……なぜこんなことが?」
「アイネイアスは祖国を追われても、お前みたいに腐っちゃいない。流浪の民もだ」
【建国の祖 アイネイアス】 属性 地
コスト 6
パワー 4
タフネス 4
位相 地
能力
・流浪の民を建国の兵に変える
“追放された男は、民を連れて国を築いた”
シュバルツが舌打ちする。
「もちろん僕も諦めてない。風がダメなら、今度は地で踏み潰す!」
「くそっ、まだ終わるか。アンドン! 僕と君の怒りをこいつに見せてやれ!」
シュバルツの咆哮に呼応するように、アンドンが肉薄してくる。
僕のタリスマンは、まだ十個以上残っている。
二発受けても、まだ耐えられる――そう思った、その瞬間だった。
アンドンの槍が閃く。
一つ、二つ、三つ――
数える間もなく、タリスマンが砕けていく。
「なっ……!?」
一撃を受けただけのはずなのに、僕のタリスマンは最後の一つを残して瓦解していた。
ありえない…アンドンの能力に、こんな効果はない。
それでも、反撃はそこまでだった。
建国の祖となったアイネイアスが、最後に残ったシュバルツのタリスマンへ槍を振り下ろす。
乾いた音を立てて、最後の欠片が砕けた。
これで、決着だ。
「……僕の負けだ。好きにしろ」
勝った。けれど、最後の一撃が頭から離れない。
あの瞬間、シュバルツの感情に呼応するように、威力が跳ね上がった。
あの一撃だけ、シュバルツの怒りそのものが槍になったみたいだった。
もしそれが本当なら――
僕はまだ、星儀戦の本当のルールを知らない。




