表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/30

第27話 真正面から踏み潰す

僕たちは召喚能力を奪ったシュバルツと決着をつけるため、再び荷馬車に乗っていた。

前回と違うのは、僕にお金を貸してくれたサキさんと、その護衛の騎士、さらに僕の付き添いとしてローウェンがいることだ。


「今回、どんなデッキを用意したの?」


「護衛持ちの召喚獣を中心に組んでおります。相手の攻め手を受け止め、確実に勝つ構成です」


ローウェンが、妙にきちんとした口調で答えた。


「必ずや、トオルがあなたの手に勝利を捧げます」


おい、勝手に捧げるな。


「順当に固く、か。少し面白味には欠けるけど、楽しみ。勝つのも、負けるのもね」


相変わらず、サキさんは不思議な雰囲気だ。


そのとき、前回と同じように馬車が大きく揺れた。

横合いから中型の召喚獣がぶつかってきている。


「アイアンベア」


サキさんの護衛が短く告げると、馬車の横に巨大な熊が現れた。

ぶつかってきた召喚獣を受け止め、爪と牙を噛み合わせるようにして押さえ込む。


車輪が軋み、馬車が止まった。前回と同じだ。

道の先に、ライトアーマーをまとった騎士が立っていた。


「おい、荷を置いていけ」


シュバルツは特に警戒せずにこちらに近付いてくる。


「会いたかったよ」


僕の声を聞いた瞬間、シュバルツの顔が強張った。


「ああ、この前の君か。勝てなくて、増援を連れてきたのか?」


シュバルツはサキさんと、その後ろに控える護衛を一瞥する。


「一介の盗賊相手に、ずいぶん豪華な顔ぶれだね。ここまで大物を連れて来るとは、

君も案外、人を動かすのが上手い」


「彼女たちは見届け人だ。星儀戦は僕が受ける」


「なぜもう一度戦う? 翼をもがれたのに、まだ飛ぶつもりか?」


胸の奥がざらつく。けれど、それでも目は逸らさない。


「お前は翼をもがれたくらいで諦めるのか?」


「愚かな…

地上でもがくのが関の山だろうに」


「僕にはまだ、牙も爪も残っている」


シュバルツが鼻で笑う。


「OK、星儀戦成立だ。

僕が勝ったら、今度こそ君の召喚能力を全部もらう。

あと、後ろの付き添いは邪魔せずに引き上げさせろ」


「僕は前と同じ条件だ。負けたら黙ってギルドに同行してもらう」


サキさんがくすりと笑った。


「私はこの勝負を邪魔する気はないからね。ただ行く末を見届けたいだけ。だって退屈だから」


「どうだかな?」


一瞬、サキさんとシュバルツの間にだけ通じる空気があった。だが、それを確かめる間もなく、望願紙に条件が書き込まれていく。

紙面が淡く青く光り、星儀戦が成立する。


先に動いたのは僕だった。


「エンシェントフラワー、召喚」


大きな花弁が地面を割って開く。シュバルツの目が、わずかに見開かれた。


「なっ……地属性だと?」


無属性以外のカードを使うとは思っていなかったのだろう。だが、驚きは一瞬だった。


「守備重視の召喚獣で耐える作戦か? 臆病者の君にはお似合いだ」


僕の召喚獣を嘲るように笑う。


「ロケットタートル召喚」


僕の召喚に対してフィールドには何も姿を現さなかった。


「召喚失敗か。お笑い草だな。

一度負けた奴は、そう簡単に立ち直れない」


シュバルツがカードを掲げる。


「僕の前に立っているのも怖かろう?

すぐ楽にしてやる。【盗賊】よ、奴のタリスマンを砕け」


召喚された【盗賊】が地を蹴った。


だが、甘い。


「ロケットタートル、クリスタルを砕け」


「なっ!?」


シュバルツのすぐ近くで、地面が盛り上がる。

岩のような甲羅を背負った亀が現れた瞬間、四肢を縮めた。次の拍には、弾丸のように飛び出している。


シュバルツが反応するより早い。ロケットタートルが一直線に突っ込み、クリスタルを砕いた。


青い破片が宙に散る。


まず一つだ。


「誰が臆病者だって? 安心しろよ。

ちまちま守る気はない。真正面から踏み潰す!」


シュバルツが鎧の奥で笑っているように見えた。


「なにやってんだ馬鹿!守って勝つ方が勝率高いって言ってたろ!」


ローウェンが慌てて叫ぶ。その反応が、少しだけ可笑しかった。


「護衛能力を中心に守って勝つ、と聞いていたのだけれど。ずいぶん乱暴な守り方ね」


サキさんが薄く笑う。


大型召喚獣を使ったデッキは、小型召喚獣中心のウィニーデッキと相性が悪くて勝率が低い?

そんなこと、知ったこっちゃない。


この前は真正面からの殴り合いで負けた。だからこそ、今回はなおさら真正面から殴り勝つ。


それが僕の答えだ。


「おもしろい……勝負の条件を変えよう。今回負けたら僕に従え。召喚能力は奪わない」


シュバルツが笑いながら言う。


「もし、お前が勝てたらな」


補充された手札が、ぬらりと重い。

目を落とすと、見慣れない茶色の絵があった。


このタイミングで引いたか…。未解放カードの一枚。


「泥田坊、召喚」


途端に泥の塊に一つ目が付いたような怪物が姿を現し、低く唸る。


「田を返せ。田を、返せ!」


その瞬間、シュバルツの様子が変わった。

どこまでも冷静だったシュバルツが、感情を剥き出しにして怒鳴る。


「田を返せだ? 領地を返してほしいのは僕の方だ!」


そうだよな。


泥田坊は、領地を奪われたお前そのものだ。

そして、風を失って地べたを這う僕自身でもある。


僕はこの姿を醜いとは思わない。

けれど、お前は違うんだろう?


「【バンディッド】召喚、その目障りな召喚獣を潰せ」


召喚されたバンディッドが泥田坊を打ち据える。こちらからわざわざ戦闘を仕掛ける手間が省けた。


泥田坊が砕けた瞬間、その真価が発揮される。

騎士の召喚クリスタルの一つに、泥がべったりとへばりついた。


【泥田坊】 属性 地

コスト 3

パワー 2

タフネス 2

位相 地

能力 泥田坊が死ぬ時、相手マスターの召喚クリスタルを汚す。

“田を返せ、その絶叫が聞こえたら気を付けろ”


「ほら、続けて行くぞ。【海賊】を召喚。マスターを狙え」


しかし、シュバルツの召喚が成功する気配がない。


「お前は汚れたクリスタルからはエネルギーを引き出せない」


「クソ、妨害用の召喚獣か?」


「それだけじゃない」


僕は泥に沈んだクリスタルへ手を伸ばす。


「汚れたクリスタルよ、僕に力をよこせ」


泥田坊の役目は、相手のクリスタルを一つ潰すこと。

そして、潰した力を一度だけこちらに横取りすることだ。


泥田坊に汚されたシュバルツの召喚クリスタルから、エネルギーを搾り取る。

自分の召喚クリスタルからのエネルギーと合わせ、そのまま大型召喚獣へつなげる。


一度力を引き出したクリスタルは、本来の持ち主へ戻るが、それで十分だ。


「【塵喰らいの巨兵ドムラグ】 、召喚。シュバルツのタリスマンを破壊しろ!」


【塵喰らいの巨兵ドムラグ】 属性 地

コスト 6

パワー 6

タフネス 7

位相 地

能力 貫通

“立っているだけで、戦場の足場が沈む”


大型の召喚獣。これで蹂躙する。


「【海賊】を召喚。マスターを潰せ!」


しかし、シュバルツも一切引かない。あくまで殴り合いだ。いっそ清々しい。


ドムラグがシュバルツに到達し、その剣を振り上げる。

その瞬間、シュバルツが笑った。


「学習しろよ。【退散】――手札に戻れ」


前回と同じ展開。

召喚クリスタルを積み増してまで呼び出した大型召喚獣だ。手札に戻らされれば、攻撃のプランが崩れる。

青い光が、前回と同じようにドムラグを包み込む。


「何度も同じ手が通じるか。【グリーンアーマー】」


次の瞬間、ドムラグを木の鎧が包み、【退散】の光を弾いた。


「なっ――」


「踏み潰せ」


剛剣が騎士のタリスマンに叩き込まれる。


【退散】はもう見た。対策は、きっちり済ませてある。


「海賊、空賊、そいつを倒せ!」


シュバルツが僕の方へ走り込んでくる。

シュバルツを追っていたドムラグに、僕のタリスマンを狙っていた二匹の召喚獣が左右から食らいついた。

そのまま、ドムラグは相打ちになる。


走り込んできたシュバルツの顔が、もう僕の目と鼻の先にある。


「おい、とうとう守りに入ったな?」


「勝つための攻めだ。そんなこともわからないか?」


ヘルム越しに視線を交わした瞬間、シュバルツは、こらえきれず声を出して笑った。つられるように僕も笑っていた。


お互いのタリスマンは、もう半分を切っていた。

ここからが、後半戦だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ