第26話 勝ち筋を探せ!
サキさんが召喚具店から出ていき、後には店長のコハクさんと僕だけが残った。
「ちぇ、横からトオル君もっていかれちゃったな。
まぁ、私に言えるのは、できるだけ早くお金を返しなさいってことくらいかな……」
コハクさんがぼそりと言う。それから背後のカード棚に手を伸ばし、一枚のカードを抜いて僕に差し出した。
「これ、使ってよ。ソウル持ちのカードは役に立つよ」
【見習い魔術師】属性 地
コスト 3
パワー 2
タフネス 3
位相 地
能力 ???
“魔術師には嫉妬深いものが多い”
見習い魔術師のカード――風属性もあったな。シリーズ物なら、火・水・風・地の四種類が揃っているはずだ。
……こういうの、妙に集めたくなるんだよな。
「ありがとうございます。大事に使います」
「いいよいいよ。契約の前払いみたいなもんだから」
契約?
さっき言ってた、魔女の契約ってやつか?
いや待て。あれ、まだ僕は了承していないはずなんだけど。
コハクさん、勝手に話を進めてません?
なにはともあれ、これで必要なカードは揃った。
掃除を終わらせ、丁寧にお礼を言って、店を後にした。
自室に戻ると、さっそくカードパックを開封していく。まずは地属性の特徴を掴まないといけない。
【バジリスク】属性 地
コスト 4
パワー 4
タフネス 5
位相 地
能力 ???
“バジリスクには近づくな。死にたくなけりゃな”
風属性の召喚獣に比べると、地属性の召喚獣は明らかにサイズが大きい。
風なら、どれだけ強くてもパワー4、タフネス4あたりが一つの壁だった。
けれど地属性には、それを超える召喚獣が普通にいる。
大型を並べて盤面を押しつぶす。それが、地属性の基本戦術になりそうだ。
【収穫】属性 地
コスト 2
召喚クリスタルを一つ増やす
“大地に感謝を”
そして、その大型を支えるのが召喚クリスタルを伸ばすスペル群だった。
先に条件を整え、相手より早く大型を出して押し切る。たぶん、それが地属性の戦い方だ。
問題は、その戦い方がシュバルツの速度に間に合うかどうかだった。
買ったカードで、ある程度デッキの形にはなる。だが、決め手に欠ける。
大型を出せば強い。けれど、出す前に押し切られたら終わりだ。
「勝負の鍵は、やっぱり未解放カードか……」
風属性を封じられたあのとき、確かに一枚の未解放カードが使えるようになったのを感じた。
あの場では後回しにしたが、あのカードからは、恨みみたいな感情が流れ込んできていた。
タルタロスほどの禍々しさはなかった。
けれど、また同じように制御できない力だったら――そう思うと、背筋が冷える。
僕は、ぶるりと身震いした。
この先にあるのは、ただのリベンジじゃないのかもしれない。
恨みをぶつけ合う、修羅の道。そんなものに足を踏み入れようとしている気がした。
サキさんとコハクさんから受け取ったカードを何度も見返した。
地属性の基本は見えてきた。大型の召喚獣、召喚クリスタルの加速、そして相手の攻撃を受け止める守りの厚さ。
だが、それだけでシュバルツに届くとは思えない。
未解放カードも、ソウル持ちのカードも、まだ扱い方が分からない。結局、机上で考えているだけでは何も変わらなかった。
だから翌朝、僕はローウェンに頭を下げた。三日でいい。地属性の戦い方を叩き込んでほしい、と。
「地属性な。ウィニー系のデッキと戦うなら、護衛持ちのカードを入れて相手のテンポを殺してやりゃいい」
「召喚クリスタルを加速して、大型召喚獣で決める構成は?」
「召喚獣を手札に戻されると困るからな。俺は護衛持ちを増やすのが本命だと思う」
ローウェンの経験は当てになる。僕もその二択だと思っていたから、二つのコンセプトでデッキを用意していた。
「じゃあ、ローウェン。頼む」
三日間、訓練場は貸し切ってある。これでなんとか形にしたい。まずは護衛持ちのデッキから試す。
「ほら、行くぞ。ハリケーンコンドル召喚」
「バラの壁召喚」
ハリケーンコンドルが上空から爪を振り下ろす。だが、薔薇の蔦が壁のように広がり、その一撃を受け止めた。
【バラの壁】属性 地
コスト 2
パワー 1
タフネス 4
位相 地
能力 ???
“薔薇のトゲも意外と馬鹿にできんな”
「疾風の兵士、斥候、タリスマンを破壊しろ」
「タンクベア、受け止めろ」
前に出たタンクベアが疾風の兵士を正面から受け止める。
体格差は明らかだった。疾風の兵士の刃が毛皮に浅く食い込む。
だが次の瞬間、タンクベアの爪が振り抜かれ、疾風の兵士を一方的に叩き伏せた。
ローウェンは後続を次々に召喚し、手数で押し込んでくる。
こちらは速くない。展開力も、風属性には及ばない。
けれど、一体一体が重い。一度受け止めてしまえば、簡単には崩されなかった。
やがて盤面はこう着し、しばらく睨み合った末にローウェンが手を上げた。
「降参だ。師匠の召喚獣の方がサイズがでかいから、序盤で攻め切れないとこっちが不利になるな」
「確かにね。ただ、運良く回っただけな気もする」
「何戦かやってみるか」
そこから十戦した。結果は五勝五敗。
悪くはない。悪くはないが、今一歩という印象だった。
守れれば勝てる。
けれど、初手で守りの召喚獣を引けなければ、そのまま押し切られる。
シュバルツのデッキがローウェンより速いなら、このままでは危ない。
「じゃあ明日は、大型の召喚獣で踏み潰すデッキを試すからよろしく」
「また毎日十戦する日々が戻ってくるとは思わなかった……」
感触としては悪くない。付け焼き刃の地属性デッキで五分の勝負ができるんだから、十分なはずだ。
「このデッキにはこのカード入らないか?いや、入れたほうがいいか?」
まあ、今は試す段階だ。
翌日。
「行け、バインドスネーク」
「遅えよ、ハリケーンコンドル行け。……ほら、タリスマン全破壊だ」
「う、まいった。降参だ」
召喚クリスタルを伸ばして大型の召喚獣を呼び出す構成は、なかなかかみ合わなかった。
こちらが完全に立ち上がる前に崩される。少しスペルのバランスが悪い気がする。いや、単純にカードが足りない。
「俺の八勝二敗。完全に昨日のデッキの方が上だな。負けられない勝負で五分ってのは少し不安だが……」
「五分なら、僕が勝つからいいんだけどね」
口ではそう言ったものの、少し引っかかっていた。
シュバルツが、何も対策していないとは思えない。
こっちにデッキの傾向が割れても平気な顔をしていたし、何か算段があるのかもしれない。
「どこから来るんだよ、その自信……」
「経験からかな?」
ローウェンが微妙な表情をする。
「よし、今日は終わり。明日が最終日だからよろしく。本番も同行してくれるんだろ?」
「まあ、心配だからな。けどこれで最後だぞ。あまり面倒ごとに頭突っ込むなよ」
「わかってる、わかってる」
「……絶対わかってない」
それは最終日に起こった。三回目の試合の途中、バインダーが軋み、未解放カードが解放される音がした。
「ローウェン、少しタイム」
バインダーをめくる。
未解放カード【諦めるな】は、【追放されしアエネアス】へと変じていた。
その名を理解した瞬間、頭の奥に古い声のようなものが流れ込んでくる。
――強きものに虐げられし者よ。
――それでも抗う意思があるならば、我と共に歩め。
ぞくりとした。
ローウェンの方が格上判定されているのは気に入らないが、今はそれどころじゃない。
ここに来て三枚目の未解放カードが使えるようになったのは大きい。
効果はまだわからない。けれど、わからないままでも使い道を探るしかない。
「もういいか、次やろうぜ」
「あぁ、頼む」
ローウェンに声をかけられ、さらに試合を続ける。その後も何度も試した。
護衛持ちを中心に、相手の攻撃を受け止める。召喚クリスタルを伸ばすカードは最低限に抑える。
大型召喚獣は、出せれば勝ちを決める札として数枚だけ残す。
結局、地属性でシュバルツに勝つなら、欲張らない方がいい。
「だいぶ形になったな」
「助かったよ。これで勝てる」
「じゃあ明日はお前のパトロンにも会うし、正装で行くわ」
明日、リベンジマッチを行うことはサキさんにも伝えてある。
ローウェン、多分鎧で来るんだろうな。まあ、いいけど。
相手のカードを受け止め、勢いを殺す。やはり、それが一番いい手段だとは思う。
だが、それでも一抹の不安は拭えなかった。
シュバルツがこちらの対策を読んでいたら。
護衛持ちを無力化する札を用意していたら。
二枚の未解放カードは、どう扱えばいいのかまだ明確な答えが出ていない。
朝までには、結論を出さないといけない。
負ければ今度こそ本当に終わる。明日で全てが決まる。




