第22話 氷冠の白鷲
「月末までに何ポイント必要なんだ?」
「毎月、王家に功績値1000ポイント納めないといけない。納められないやつは、どこかに連れていかれて、帰ってこない」
「そりゃ物騒な話だな」
「茶化すなよ。殺されるのか、どこかで強制労働させられるのかは知らないが、かなりきな臭い……
なんとしても1000ポイント稼げ!」
月末まで、あと8日か。
店番で稼げるのが400ポイント。全然足りそうにない。
「俺も忙しいから、あまりかまってやれないが、どうしようもなければ相談してくれ」
「ああ、助かる。だけどなんとかするよ」
ローウェンにあまり情けないところは見せたくない。
別れたあと、僕は受付に向かった。
「短期間で功績値を貯められる依頼って、ありませんか?」
「そうですね……月末が近づくとそのような相談が増えるんですが、条件が厳しいものが多いです。
住み込みの重労働なら、一日で功績値100ポイントの仕事があります」
「他にも仕事をしているので、できれば一日でまとめて稼げるものありませんか?」
「討伐系の依頼ならもしかすると…少しお待ちください」
受付嬢が机の中を漁り始める。
「討伐系の依頼は初級にはなかなか回ってきませんからね……」
紙束を何枚かめくったあと、受付嬢が「あっ」と声を上げた。
「ひとつだけありました」
差し出された依頼書を見る。
"盗賊退治 功績値1200ポイント"
思わず息を呑んだ。1200ポイント。
今の僕が欲しい額を、たった一度の依頼で稼げる。だが、冷静に考えると妙だった。
そんな依頼が、なぜ今まで残っていたんだ?
「ちなみに、この依頼……」
僕が尋ねるより早く、受付嬢が気まずそうな顔をした。
「あまりおすすめはしません」
その一言で、だいたい察した。高額依頼には、高額依頼なりの理由がある。
僕は依頼書の詳細へ目を落とした。
【盗賊退治】
北の街道に出る盗賊を退治する
報酬 銀貨十枚
功績値1200ポイント付与
備考 身柄引き渡しのみ報酬支払い
難易度に合わせ報酬は増額
報酬はでかい。
どうせポイントが足りなくてペナルティを受けるくらいなら、盗賊相手に負けたって同じことだろ。
そう思うと、妙に腹が据わった。
僕は依頼書をまじまじ見つめた後、受付嬢に告げる。
「このクエストを受注したいです」
「こちら、詳細情報がほとんどありません。
相手が一般召喚師なら、通常は負けないです。ですが、上級召喚師が相手だった場合は保証しかねます」
召喚具店を使えるのが上級召喚師で、使えないのは一般召喚師だったか?
カード資産に差があるので、当然一般召喚師は僕たち上級召喚師にはかなわない。
「どっちか、わからないんですか?」
「そうですね。召喚獣を操る、というところまでしかわかっていません。もし上級召喚師が相手だった場合は、報酬も引き上げられることになります」
なるほど。正体不明だから、誰も受けていないのか。
上級召喚師が相手なら危険だ。だが、その可能性は高くない。
もし本当に上級召喚師なら、こんな辺境で盗賊なんてやらず、もっと稼げる仕事がいくらでもあるはずだ。
一般の召喚師が相手なら、ほぼ負けない。
もちろん、読みが外れれば終わる。けれど、このまま何もしなくても終わる。
賭けとしては悪くなかった。
「この道を通る隊商に同行してください。襲われたら撃退、何もなければ護衛の報酬をお渡しします」
ますます悪くない。空振りしても最低限の保険にはなる。
自分の力でなんとかするつもりだが、どうしようもなくなれば、その時は誰かに頼ろう。
「護衛が見つかり次第、出発したいそうなので、お呼びしますね」
そう言うと、受付嬢は奥へ引っ込んだ。展開が早くて助かる。
その直後だった。近くのテーブルから声が聞こえた。
「討伐依頼か……よく受ける気になるな」
「召喚獣にやられるだけならまだいいんだがな」
ひとりが苦い顔をする。
「負けたあとが面倒なんだよ」
「ああ。盗賊は功績値なんて興味がないからな。何を要求されるやら」
思わず耳を傾ける。召喚師同士の勝負。負けること自体より、その後の条件の方が問題らしい。
しばらくして受付嬢に呼ばれ、隊商の人と面会する。
「おお、あなたが? 誰も護衛を引き受けてくれなくて困っていたんです。助かりました。ささ、馬車に乗ってください」
促されるまま、馬車の御者席の隣に腰を下ろす。
「では、行きますよ」
商人はゆっくりと馬車を走らせ、小一時間もすると街の南側の出口にたどり着いた。
「私たち一般人は、召喚師が出てくるとお手上げですからな。一般の召喚師に頼んでも、正直あまり頼りにならないし……」
「僕も似たようなものですよ?」
「いやいや。賊が一般召喚師なら、それだけで逃げてくれますし、心強いですよ」
上級か一般か、どこで見分けてるんだろう。
そんなことを考えながら話しているうちに、商人の男とは年齢も近いせいか、少し打ち解けていた。
「私一人の商会ですけど、これでも王族の方にお墨付き貰っているんです。服飾関係全般取り扱っております」
「その時は、僕の服も頼もうかな」
「任せてください」
商人は照れたように笑った。
森の中の狭い道に差しかかった、その時だった。
馬車が激しく揺れた。
「うわっ――!」
反射的に振り向く。大型の獣が、馬車に体当たりを食らわせていた。
「風狼、そいつを止めろ!」
呼びかけに応じて、風狼が姿を現す。
そのまま得体の知れない獣へ噛みつき、二匹はもつれるように道脇へ転がった。
だが、遅かった。衝撃で馬車が傾き、次の瞬間、横倒しになる。
「いっ……!」
投げ出されながらも、どうにか地面に手をついて起き上がる。
顔を上げた先に立っていたのは、薄い青色のライトアーマーに兜を被った騎士だった。
「……荷物を置いて、去れ」
声は静かだった。だが、その静けさがかえって威圧感を際立たせていた。
「誰が従うか。こっちも召喚師がいる。星儀戦で――」
勝負を挑もうとした、その瞬間。
「まずい、あの鎧の紋章……あれは!」
商人の悲鳴みたいな大声に、動きが止まる。
ライトアーマーには、薄青の鎧には、氷冠を戴く白鷲の紋章が刻まれていた。
「逃げましょう」
商人は震える声で言った。
「あれは、ただの盗賊なんかじゃない。氷冠の白鷲……王家に逆らう者を狩る騎士の紋章です」




