第18話 相棒のいない明日
祠を離れ、ローウェンを探す。しばらく歩き回った末、待ち合わせ場所で待つローウェンを見つけた。
「どうだ、収穫は?」
「……いや、こっちに祠はなかった」
未解放の祠のことは、胸の奥に押し込めた。なんとなく、今は言わない方がいい気がした。
「こっちは一つ見つけた。まだ開けてないんだが、頼めるか。これで報酬は等分だ」
僕に報酬を回すために、わざわざ開けずに待っていてくれたらしい。
ローウェンの案内で、祠まで移動する。
けれど、困った。僕は本当の属性を隠しておきたい。
「召喚獣が暴れると危ないから、少し離れててくれないか? ほら、あそこの大きい木の辺りまで」
「普通はそこまで危なくならねぇんだが……まぁ、お前は色々と規格外だからな」
ローウェンは苦笑しながら距離を取った。十分に離れたのを確認してから、僕は祠に触れる。
淡い光とともに現れたのは、小さな植物型の召喚獣だった。
……地属性か。
これなら、わざわざ離れてもらう必要もなかったかもしれない。
微動だにしない植物に力を貸してほしいと願うと、契約はあっさり成立した。
【エンシェントフラワー】 属性 地
コスト 1
パワー 0
タフネス 3
位相 地
能力 ???
“エンシェントフラワーの蜜は”
……弱そうな見た目に反して、妙に引っかかる言葉だった。
僕はローウェンに向かって大きく手を振り、そのまま駆け寄る。
「地属性の召喚獣だった」
バインダーを見せながらローウェンに説明する。
「風属性じゃなかったのは残念だな。まあ、これで報酬はもらえる。ギルドへ報告に戻ろう」
僕たちはギルドへ戻り、地属性の召喚獣の祠があったことを報告した。
「コスト1の【エンシェントフラワー】 ですね。
はい、こちらでクエスト完了です。では報酬として銅貨六枚、功績値はお二人に200ポイントずつ付与させていただきます」
「低コストの召喚獣は、どうしても報酬が安いんだよな。功績値が高いのはいいんだけどな…
高コストが見つかれば、一気に跳ね上がるから狙うのもいいぞ」
ローウェンは肩をすくめる。
「まぁ、初回の探索なら十分だろ」
僕にとっては、初めての収入だ。
とりあえず、今日の食費くらいはなりそうだった。
――そう思ったところで、現実が追いついてくる。
「じゃあ、返済分として銅貨一枚もらうからな。この調子で返してくれ」
あー……ローウェンに金を借りてたの、すっかり忘れてた。
「いくらだっけ?」
「銀貨10枚だ。別に急がないが、忘れないように返せよ」
カードパック十枚入りが銀貨5枚。
報酬の安さを考えると、追加購入までかなりかかるかもしれない……。
「まだ日も高い。もう一個クエストやるか?」
「いや、少し街を見たいから、今日はいいや」
「そうか。明日からは師匠一人でこなすんだぞ」
ローウェンは軽く笑いながら言った。その言葉に、胸の奥が少しだけ冷える。
「ローウェン、ついて来てくれないの?」
「俺も自分のクエストをやらないといけないんだよ。騎士は召喚者より貢献が必要なんだよ」
ギルドの中では、他の召喚者たちが次々と依頼書を剥がしていく。
僕だけが、取り残されたみたいだった。
「……そっか」
「んな、不安そうな声出すなよ。また飯でも行こうぜ。今、異世界からの召喚者の世話してたおかげで懐はあったかいからな」
その言葉で、ようやく気づいた。
「僕と一緒にいてくれたの、クエストだったのか……」
「最初はな」
ローウェンはニヤッと笑った。
「今は師匠と弟子だろ。困ったら、いつでも呼べ」
そう言うと、ローウェンは別のクエストを受注しに行ってしまった。
思いのほか早く仕事が終わったので、僕はローウェンと別れ、街を探索することにした。
思えば、ローウェンと一緒に館に缶詰になっていたせいで、街中でわかるのはカードショップくらいのものだ。
王都というだけあって、街を見て回るだけでもかなり時間がかかる。
露店の並ぶ通り、行き交う人々、聞き慣れない呼び声。初めて見るものばかりのはずなのに、頭の中では自然とカードのことを考えていた。
タルタロスを使った後、ルナさんとローウェンには一つずつ約束をさせられた。
ルナさんとはタルタロスおよび闇属性のカードを使わないこと。
ローウェンとはタリスマンが壊れた場合、即座に降参すること。この2つだ。
ルナさんにタルタロスと闇のカードを禁止されたせいで、僕のデッキはソウル持ちのカードが大量に入った紙束に戻ってしまった。
唯一の慰めは、ローウェンとの特訓を通して、未解放のカードの解放条件がいくつか見えてきたことだろう。
亀裂の入ったカード。
『未解放 あまたの傷をその身に刻め』
『未解放 闇の巫女に魅入られろ』
新しく確認できた条件もある。
『未解放 眠れる力を呼び覚ませ』
『未解放 折れぬ魂を示せ』
新しく確認できた二つの表示は、どちらも意味がわからなかった。
眠れる力とは、未開放カードのことなのか。
それとも、あの未開放の祠のことなのか。
考えれば考えるほど、答えは遠ざかっていく。
そんなことを考えながら歩いているうちに、活気のある通りに出た。街には熱気が満ち、道の両側には露店が並んでいる。初めて自分で稼いだ銅貨を何に使うか迷う。
何か食べようと思って辺りを見回した。けれど、ローウェンがいない今、どの店がいいのかも、何を頼めばいいのかもわからない。
腹は減っている。それでも、銅貨を減らすのが少し怖かった。
まだ日は高かったが、僕は少し早めに戻ることにした。
初めてのクエストは、無事に終わった。
銅貨は手に入った。功績値も増えた。
けれど、借金はほとんど減っていない。
デッキも弱いままだ。そして明日から、ローウェンはいない。
僕は一人で、あのクエストボードの前に立たなければならない。
数枚の銅貨と、弱いデッキだけを握りしめて。




