表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/30

第17話 はじめてのクエスト

「おい、師匠。いい加減に準備しろ。遅れるぞ」

「ローウェン、ちょっと待ってくれ。もらった服の着方がわかんなくて」

「練習しとけよ、馬鹿」


あの一戦が終わり、約束通り僕はローウェンの師匠になった。

もっとも、師匠と呼んでいるだけで、尊敬の気配は欠片もない。

むしろ完全に世話を焼かれている側だった。


僕は、異世界から召喚された人間が集められる寮に入ることになった。一緒に召喚された七人も、みんなこの寮で暮らしている。

先に召喚された先輩たちはすでに独り立ちしていて、今ここにいるのは僕たちだけらしいが。


「とりあえずギルドに行くぞ。召喚師として働くなら、まずそこだ」


ローウェンは、出遅れた僕の指導役として、しばらく面倒を見てくれるらしい。騎士が異世界人につくなんて本来はあまりないことらしく、本人いわく「ありがたく思え」とのことだった。


ありがたいかどうかはともかく、右も左もわからない僕にとって、案内役がいるのは助かる。


ギルドには、所狭しと召喚師たちが集まっていた。

ローブ姿の術師風の人が多いが、鎧を着た騎士もちらほら目に入る。


「ギルドは召喚された異世界人だけの場所じゃない。こっちの世界の人間も使うし、騎士や貴族も出入りする。

揉めるなよ」


「誰かと揉めたことなんかないだろ。安心してくれ」


「だといいんだが……初級はこっちだ」


ローウェンと並んで、掲示板にびっしり張り出されたクエストを眺める。


「ここにあるクエストを受注してこなす。すると召喚師としての功績値が貯まるし、金ももらえる」

「お金はいいけど、功績値って何?」

「ああ、ランキング形式になっててな。ちょっとこっち来い」


ローウェンはギルドの受付の姉さんに話しかけると、何やら紙をもらって戻ってきた。

見せられた紙には、びっしり文字が書かれている。


「ほら。召喚師は一覧化されて、ポイントで格付けされる。師匠は一番下だな」


「ローウェンは?」

「俺も新米騎士だし、そう変わらんさ」


これ、何か影響あるのか?

査定とか、そういうやつだろうか。

僕が難しい顔をしていたからか、ローウェンが肩をすくめる。


「評価が上がれば給金が増えたり、上から声がかかったりする。逆に低いままだと目を付けられるし、貢献点には月々のノルマもある。どっちにしろ、高く保つに越したことはない」


なるほど、ただの飾りじゃないらしい。

僕はもう一度掲示板に向き直った。ローウェンが持ってきたランキング表はよくわからない言葉で書かれていたが、掲示板の依頼書には日本語も併記されている。


「近隣の村への召喚師レクチャーに、カードショップの手伝い、騎士との模擬試合、祠の調査……まだまだあるぞ。好きなの選べ」

「僕が受けられるの、あるかな」

「祠の調査とかどうだ? 召喚獣も集まるし。まあ、報酬は安いけどな」


召喚獣を集める。人脈を広げる。ポイントを稼ぐ。

要素が多くて悩ましいが、どうせ最下位なら、今は功績値にそこまでこだわらなくてもいいか――そんなことを考えていると、不意に後ろから声をかけられた。


「御厨さん? よかった、合流できたんですね」


振り向くと、僕と同じ風陣営所属のサラリーマン、皆川さんが立っていた。


「お久しぶりです。なんとか復帰できました」

「それはよかったです」


皆川さんは少し不思議そうに、ローウェンへ視線を向けた。


「こちらの方は?」

「トオル殿の世話役、騎士ローウェンと申します。以後お見知り置きを」

「私は皆川です。風陣営の騎士なんですね。今後ともよろしくお願いします」


ローウェンが猫を被ってやがる。

さっきまで「馬鹿」と言っていた男とは思えない丁寧さで、なんだか癪だった。


皆川さんは、僕が手にしていた依頼書に目を留めた。


「クエストですか? 最初は人の役に立つ依頼を選ぶと、感覚が掴みやすいですよ。収穫や運搬なんかは、弱い召喚獣も使えますし」


「召喚獣って、戦う以外にも使えるんですか?」


「弱いものなら。強い召喚獣は星儀戦の中でしか呼び出せません」


「星儀戦?」


「召喚師同士が戦う正式な決闘です。強い召喚獣はその時しか呼び出せません」


「トオル殿。あくまで弱い召喚獣だけだからな。変なものを召喚するなよ」


ローウェンは目が笑っていない。

タルタロスの鎖に捕まった件が、完全に尾を引いているらしい。


「とりあえずトオル殿は、祠探しでよかろう。皆川殿、助言感謝する。ほら、早くしろ」


おい、最後の方、全然隠せてないぞ。


受付に行き、ローウェンが手続きを始める。


「すまん、こいつ初めてなんだ、召喚師カードを発行してくれ」


「はい、召喚師カードを発行しますね。身分証と、受注記録を兼ねています」


受付嬢はそう言うと、薄い金属板のようなカードを差し出した。

表面には、僕の名前と属性、そして功績値らしき数字が刻まれている。


【御厨透】

属性 風

功績値 0

等級 見習い召喚師


「これで、正式にギルド所属の召喚師として扱われます。星儀戦の勝敗や、クエストの達成記録もここに残ります」


カードを手に取る。

金属製のはずなのに妙に軽く、触れると文字が淡く光った。


「ありがとう、2人でこれを受注するから、説明を頼む」


ローウェンが剥がした依頼書を受付嬢に渡す。彼女は軽く目を通すと、しばらくして地図を持って戻ってきた。


「探索してほしいのは、王都西の森です。旅人が迷い込んだときに祠があったそうなのですが、場所がはっきりせず……」

「わかりました。このクエスト、受けます」


【祠の調査】

西の森で祠を探す。

報酬 クロム銅貨6枚

   功績値は成功に応じて


「助かります。祠の属性がわからないので、受けてくれる人がいなくて」


属性? なぜ属性を気にするんだ?

そう思ってローウェンを見ると、ちょうど目が合った。


「自分と属性違いの召喚獣の祠を開けると、一発かましてくる奴が多いんだよ。4回に3回は失敗するわけだから、あまり好まれない」


まあ、僕ならノーリスクだな。

ローウェンに火属性がばれるのは避けたいが。


しかし銅貨3枚だと、またクレープくらいしか買えないな……。

甘味が高いとはいえ、感覚としては日雇いのバイト程度の給金だった。


「では、よろしくお願いします」


ギルドを出て、ローウェンの案内で森へ向かう。移動手段は相変わらず徒歩だ。


「なあ、祠の場所って、まとめられてたりするのか?」


歩きながらローウェンに尋ねる。

祠の場所がわかれば、召喚獣の数も増え、戦術の幅も広がるはずだ。


「ああ、一般向けに販売はされてるぞ。それなりに値が張るから、カードショップで買う方をすすめるけどな」

「じゃあ、その情報、誰が買うんだよ?」


「召喚獣を自由に利用できるのは王族関係の上級召喚師だけだ。一般の召喚師は祠や、払い下げられたカードしか使えない」


僕も一応上級召喚師なのか。

一般召喚師が力をつけすぎないように、抑え込んでいるように見える。


そんな話をしているうちに、森へ着いていた。


「分かれて探すか。師匠は西側、俺は東側な」


ローウェンの提案で、別々に探索することになる。

うっすら暗い森の中は木が生い茂っていて、一人だとどうにも心許ない。


しばらく歩いて探していたが、気づけば少し奥まで来てしまっていた。


「……っち……て」


何か聞こえた気がした。

足を止める。風の音に紛れるような、かすかな声だった。


「……来て」


声のした方へ目を向けると、大きな木の幹に穴が空いていた。人が一人入れそうなくらいの大きさだ。

普段の僕なら、一人でこんな場所に踏み込んだりはしない。

けれど、そのときは妙に気になった。呼ばれている、という感覚の方が近かったかもしれない。


身をかがめて中を覗き込むと、奥に小さな祠が安置されていた。


僕は祠を開けようとした。

けれど、びくともしない。


その拍子に、祠の表面に刻まれた文字が目に入る。


「未解放」


カード以外にも、未解放の祠なんかあるのか……。

いや、待て。そもそも僕は、何に呼ばれた?


その瞬間、胸元のバインダーが軋んだ。

骨でも噛み砕かれたような、嫌な音だった。

恐る恐る取り出すと、空白だったはずの一枚に、文字が浮かび上がっている。


【未解放カード 我が半身を解き放て】


半身。その言葉を読んだ瞬間、祠の奥から、もう一度声がした気がした。


――来て。


ぞわりと寒気が走る。

僕は祠に背を向け、逃げるようにその場を離れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ