第13話 黒い勝ち筋
僕は黒いパックを、恐る恐る開いた。
封を切った瞬間、指先がひやりと冷えた。紙を破っただけのはずなのに、まるで墓石に触れたみたいな感触が残る。
中から、一枚の黒いカードが顔を出した。
未解放のカードとは違う。
あれは、まだ中身が見えないだけの黒だ。
けれどこれは違う。最初から何かを塗り潰すために作られたような黒だった。
見ているだけで、軽く目眩がする。
【死兵】 属性 闇
コスト 2
パワー 3
タフネス 3
位相 地
能力 ???
“死兵を操るなら、痛みを覚悟しろ”
カードに描かれていたのは、武装した死体だった。
鎧は古く、剣は欠け、肌は土気色に沈んでいる。それでも、そいつは倒れていない。死んでいるはずなのに、まだ戦うためだけに立たされている。
見た瞬間、嫌でも死を意識させられる。
「……強いな」
思わず、そう呟いていた。
コスト2で、パワー3、タフネス3。
普通に考えれば破格だ。序盤から出せる戦力としては、文句のつけようがない。
けれど、フレーバーテキストが引っかかった。
“死兵を操るなら、痛みを覚悟しろ”
痛み。明らかに、デメリット付きのカードだ。風見鶏とはまた違う形で、何かを代償にするのは間違いない。
カードを持つ指に、じわりと嫌な汗が滲んだ。
僕は死兵から目を離し、順番にほかのカードへ視線を落としていく。
召喚獣のカードは能力が読み取れず不確定要素が多い。なら、まずはスペルカードだ。その方が情報を拾いやすい。
【闇の儀式】 属性 闇
コスト 2
自分の召喚獣一体に2点のダメージを与え、対象の召喚獣に6点のダメージを与える
“強力な魔法には、常に犠牲が必要だ”
……なるほど。
この一枚だけでも、闇属性の特徴は見えてくる。
キーワードはたぶん、「犠牲」だ。
自分の召喚獣を傷つけて、その分だけ相手を大きく削る。
まともな感覚なら、使いたくない。少なくとも、気持ちよく撃てるカードではない。
だが、確実に強い。
ソウルを残す召喚獣をあえて犠牲にすれば、タルタロスの条件にも近づける。ソウル持ちの弱いカードも、ただの穴埋めでは終わらない。闇属性のカードのコストに当てる前提なら、むしろ役割がある。
気持ち悪いくらい、噛み合っていた。
禍々しいカードを使うことには抵抗がある。
けれど、僕が勝つためには闇属性を使うしかない。
スペルは増えた。
ソウルも何とか足りる。
弱いカードにも、犠牲になるという役割ができた。
あと、明日までにできることがあるとすれば、ローウェンの能力を探ることくらいだろうか。
ローウェンのデッキは、明らかに僕のデッキより強い。そのうえ能力までわからない状態だと、勝ち筋がなくなる。
過去の対戦を思い出しながら、何かヒントはないか探す。
だが、小一時間考えていても、それらしいものは見つからなかった。
「おい、戻ってるか? 飯食おうぜ」
扉の向こうから、ローウェンの声がした。
少しだけ、わずらわしい。けれど、これ以上考えても頭が煮詰まるだけだ。今は休憩した方がいいのかもしれな
部屋を出て、リビングに向かう。
机の上には、パンにスープ、それからオレンジに似たフルーツが盛り付けられていた。
「しかし、結局七日粘るとはな。本当に俺に勝つ気なのか?」
ローウェンがパンをちぎりながら言う。
僕は椅子に座りながら、できるだけ何でもない顔をした。
「最後ぐらいはね。ところでさ、僕の能力はデュアル適性だろ? ローウェンの能力は?」
ローウェンが、ぴたりと手を止めた。それから、目を細める。
「あれだけやって気づけないなら、しばらくわからんさ。知られて不利になる情報を、ライバルにやるわけないだろ?」
やはり、能力は秘匿するべきものか。
初見の能力は対処しにくい。一方的に能力を知られている状況は、不利でしかない。
「けち。教えてくれよ」
「嫌だね」
即答だった。ローウェンはスープを一口飲んでから、少しだけ口元を緩める。
「まぁ、一般的な能力だ。兄さんと違って、珍しくない。地味な能力だよ。本来は能力がわからない相手とやるんだから、今のうちに慣れとけ」
自嘲気味な言い方だった。だが、僕は笑えなかった。
地味で堅実な能力の方が厄介なことは、経験で身に染みている。
嫌な予感がした。
部屋に戻り、召喚獣のカードを漁る。
何とか、ヒントを見つけないといけない。
ふと、見慣れた召喚獣に目が止まった。
【護衛兵】属性 風
コスト 3
パワー 1
タフネス 5
位相 地
能力 護衛
“僕があなたを守ります〜砦の兵士の言葉”
ローウェンが使っていた護衛兵のカードだ。
あのとき、こいつはジャイアントラビットを一撃で倒していた。
ジャイアントラビットのタフネスは2。だが、護衛兵のパワーは1。
本来なら、一撃では倒せない。
つまり、あの場の護衛兵は、パワーが2以上あったことになる。
……ローウェンのカードは、固有能力で強化されている?
僕はずっと、ローウェンの使う召喚獣は、僕が召喚するものより元から質が高いのだと思っていた。
けれど、そうじゃない。自分の能力で、足りない数字を補っていたんだ。
特定の属性への永続強化。
そう考えると辻褄が合う。
なんだそれ?めちゃくちゃ強いじゃないか。
同じデッキを使ったところで、勝てる要素がない。
同じコストで出した召喚獣が、向こうだけ一回り強い。しかも、それが一枚だけじゃなく、場に出るたびにずっと続く。
積み重なる分、派手な一撃より性質が悪い。
同じ土俵で殴り合えば、まず勝てない。なら、勝負を決める場所を変えるしかない。
ソウル持ちの弱い召喚獣を並べる。
闇属性のカードで犠牲にして、場を維持する。
ソウルを貯める。
そして最後は、タルタロスに賭ける。
能力のわからないタルタロス頼りになるのは、不安要素しかない。
それでも、それが今の僕に残された唯一の勝ち筋だった。




