第11話 開けてはいけない扉
勝負が終わり、ローウェンに声をかけられた。
「森ふくろうなんか、どこで契約したんだ?」
「街の前に祠があったから、ローウェンが手続きしてる間に契約したけど、なんかまずかった?」
ローウェンが唸る。
「本来、適性のある属性は一つだ。風狼と契約できたから、風属性だと思っていたんだが……もしかして、風と地の、デュアル適性なのか?」
「もしかして、すごく強い?」
他の人間が複合属性のデッキを組めないなら、僕だけデッキの幅が広いことになる。
「召喚師には、それぞれ固有の能力がある。
兄さんの場合は、属性適性が二つあるのが能力だな。デッキの組み方にもよるし、どの能力が強いかは、一概には言えない」
それは、少し困る。
強いデッキを見つけても、それがカードの力なのか、召喚師本人の能力込みなのか判断できない。
他人の勝ち筋を、そのまま自分の勝ち筋にはできないということだ。
「しかし地と風か。前例がないから相性がいいのか悪いのか、よくわからないな」
ローウェンは一つ勘違いしている。
僕をデュアル適性だと思い込んでいるが、僕は火属性の炎猿もデッキに組み込んでいる。少なくともトリプル適性だ。
けれど、わざわざ自分から手札を明かす必要はない。僕はこの情報をデッキに入れた炎猿とともに、秘匿することにした。
「さて。一週間の期限は与えられていたが、兄さんが召喚師として使えることはわかった。他の奴らと合流するか?」
「まだ、ローウェンに勝ってない。僕が勝ってから合流しよう」
その言葉を聞くと、ローウェンは冷笑を浮かべた。
「その構成だと、百回やっても無理だろ。いいぜ。七日間で一回でも勝てれば、兄さんのこと師匠って呼んでやるよ」
言ってくれる。
ローウェンの言っていることは、その通りだ。
けれど、僕はカードでだけは勝ってきた。負けっぱなしのまま終わるわけにはいかない。
「じゃあ、とりあえずあと十戦頼む」
「そんなにやるのか……一日十戦もしたことないぞ」
なるほど…その程度なのか…
僕は一日中でもカードで遊べる。ここは大きなアドバンテージだろう。
まずは数をこなして、戦い方を分析してやる。
二戦目。
場には、ローウェンのゴブリンが二体いた。
「来い、風見鶏。ゴブリンを潰せ」
召喚した風見鶏は、勢いよくローウェンの陣営へ向かった。だが、敵陣に入った瞬間、くるりとこちらへ向き直る。
その瞬間、謎に包まれていた能力を理解した。
【風見鶏】属性 風
コスト 1
パワー 2
タフネス 2
位相 空/地
能力 召喚獣の多い陣営に移る
“風の向くまま、気の向くまま”
だからこんなに強いのか。
デメリット付きの強召喚獣だった。
「召喚獣の能力は、効果を発揮できる時しかわからないからな。よくわからない召喚獣は、使わない方がいいかもな」
風見鶏が裏切ったせいで、あっさり負けた。
タリスマンが壊れたあと、風見鶏に蹴りつけられたときは、さすがに腹が立った。
その後も、日が暮れるまで対戦を繰り返した。
「ほら、召喚獣にはすぐ指示出すんだよ」
「スペルの使い方があめぇ」
ローウェンは僕の問題点を指摘しながら、的確に戦闘を進めていく。
気づけば日は暮れていた。息を切らすローウェンと、傷だらけの僕が地面に転がっている。
「本当に十戦もやると思わなかった……」
「やるって言ったろ。明日も相手してもらうからな」
「付き合ってやるから、タリスマンが全部壊れたら降参してくれ……」
ため息をついたあと、ローウェンは懇願するように言った。
どうやら、僕が怪我を負うのが心苦しいようだ。
だが、未解放カードの条件である以上、ここは曲げられない。
「七日間、全勝できたら聞いてあげるよ」
「何で笑ってるんだよ。完全にイカれてやがる。もう俺は休むから、好きにしろ」
ローウェンは館の方へ戻っていった。
「ふふふ、あーはっはは」
自然に笑いがこみあげてきて、大声で笑った。
暮れゆく空を見ながら考える。今のデッキでは、ローウェンには勝てない。
しかし、僕の手の中にある二枚の未解放カードには、小さな亀裂が入っていた。
ローウェンに勝つには、僕の敗北が解放条件になっているカード――こいつの条件を満たすしかない。
七日間、負けまくって条件を満たしてやる。
翌日から、僕はひたすら負けた。
護衛兵に殴られ、ゴブリンの棍棒で叩かれ、どんどん傷が増えていく。
五十回負けたあたりで、数を数えるのをやめた。
何回負けただろう。
ローウェンは日に日に苛立ちを隠さなくなっていった。
「何も変わってないのに、勝てるわけないだろ」
「何も学んでねぇな」
辛辣な言葉を、ただ受け止めるしかない。
ローウェンの指摘は、その通りだ。僕が彼の立場でも、同じことを言うだろう。
だが、表面上は何も変わっていなくても、静かに前進していた。
それが嬉しかった。
毎日、少しずつ亀裂の広がっていく二枚のカードを眺めることだけが、僕の楽しみになっていた。
六日目の午後。
護衛兵に殴りつけられ、もんどり打って倒れ込む。
その瞬間、胸の奥で、バキバキと何かが壊れる音がした。
倒れたまま、僕はローウェンに声をかけた。
「ローウェン、六日間ありがとう。今日はこれでいい」
「珍しいな。ようやく懲りたか?」
ローウェンがこちらに来て、顔を覗き込んでくる。
「そうだね。明日の午前は休みにしてくれ。午後から最後の勝負をしよう」
「だから変わんねえって。まあ最後だから付き合ってやるけど。負けたら、今後は俺の言うこと聞けよ」
「準備が今、終わったんだよ。
だからこの六日は無駄じゃなかった」
「はん、そうかい。相変わらず何考えてんのか、わかんねえな。
ほら、これやるから、少しはデッキ強化しとけ」
そう言うと、ローウェンは黄色いカードパックを投げて寄越した。
六日間と短い付き合いだったが、ローウェンのこういうところは好きだ。
だからこそ、不安を押し殺すように僕は言った。
「明日は恩返しするよ。君に勝ってね」
懐のカードバインダーから、怨嗟の声と悔恨の念が伝わってくる。
二枚のうち、どちらのカードが解放されたのかはわからない。だが、どうやら開けてはいけない扉を開けてしまったようだ。




