淡いメロディー
『公民館借りた。場所はここ』
一件のメッセージと共に位置が書かれた地図が送られてきた。行ったことない場所だけどここから2駅ほどの距離でそこまで遠くない。お昼の1時集合で今は朝の9時。まだ時間があるな。朝ご飯を食べながら昨日のバンドを思い出す。昨日、二人組バンドを見たせいで今音楽に対するモチベーションが高い。どうしようかな。ギター持っていこうかな。でも邪魔になるかもしれないしな、。少し考えて私は春谷くんにメッセージを送る。
『ギター持っていっていい?昨日の見てちょっとやりたくなって。』
『全然いいよ』
『いいの?ありがとう!』
許可が出た。行く前に少しだけ触ろうと私はギターを手に取る。久しぶりに触ったな、。おばさんが亡くなってから私はギターを弾かなかった。おばさんは高校生の頃少しギターを齧っていて、弾けたので私に色々教えてくれた。チューニングもおばさんが教えてくれたしFコードの弾き方も教えてくれた。おばさんが亡くなって以降、ギターを触ると思い出して泣きそうになるので私は必然的に避けるようになった。久しぶりに触るギターは懐かしくてやっぱり少し泣きそうになる。ただ弦が痛んでしまっていたので張り直そうと部屋に行き引き出しから新しい弦を出す。これもおばさんに買ってもらったものだ。
「よしっ」
張り替えた。いざ弾いてみるとジャラ〜ンと情けない音がでた。チューニングを忘れていた。気を取り直してもう一度弾く。またしてもジャラ〜ンと情けない音が出た。どうやら問題は私にもあるようだ。私は家を出るまでの間、勘もどすために我を忘れてずっと弾いていた。
「ゼエゼエ、み、見えた。」
駅から降り30分ほど歩いてようやく公民館が見えた。海が近いのか塩の匂いがキツイ。鼻がいい私はこのキツイ匂いと坂道のキツさで汗だくだった。シガミにサポートしてもらおうと思っていたのにシガミは「私、見たいアニメがあるから行かないよ。春谷くんと二人きりで楽しんで来な」と言って来てくれなかった。汗だくになりながらさらに歩き公民館についた。公民館の玄関前で汗を拭い私は公民館に入る。
「おはよーう」
「おはよう」
ステージに寝転んで涼んでいる。先に着いてたのか。
「ギター持ってきたんだ。重かったでしょ。」
「めっちゃ重いよ。運動不足を感じたね」
ハハっと彼は笑う。ここまで重かったけどギターを持って移動している自分を想像したらなんだかワクワクして最初の方は重さは感じなかった。すぐに重くなり始めたけど。
公民館の中に入って私はステージの淵に座る。すると春谷くんが横に座ってきた。
「ピアノ弾かないの?」
「今はまだね、気分じゃなくて。福山さんの弾き語りでも聞きながら作曲しようかな」
そう言いながら彼は白紙の楽譜を膝に置き私を見つめる。
「弾かないの?」
「いや、弾くけど」
「弾いてよ〜」
その目で見ないで。
「しょうがないな、」
「待ってました!」
ふう〜と息を吐き、私は覚悟を決める。
「あーあー、」
軽く声を出しながら弦を薙ぐ。
「淡い月に見惚れてしまうから、暗い足元も見えずに〜」
この歌は昔から大好きな歌。おばさんと一緒に練習していた歌で長い間弾いていなかったのに体が覚えていた歌。
「転んだことに気がつけないまま遠い夜の星が滲む〜」
したいことが見つけられないから
急いだふり振り向くまま〜
転んだ後に笑われてるのも気づかないふりをするのだ〜」
懐かしい、懐かしい。私はこの曲を聴きながら夜に読書するのが大好きだった。この歌の『淡い月に見惚れてしまうから』と言う歌詞が私は大好き。サビに入るのでスウっと息を吸う。
「形のない歌で朝を描いたまま
浅い浅い夏の向こうに
冷たくない君の手のひらが見えた
淡い空 明けの蛍〜んん〜〜」
ベンっと弾きフウっと息を吐き、上を向いた。
「おお〜〜すごーい」
久しぶりなのに思ったよりも歌詞を覚えていたしコードも覚えていた。案外覚えているものだな。
春谷くんからの拍手が気持ちがいい。
「誰かに教えてもらったの?」
「、、おばさんにね教えてもらったの」
「そうなんだ、今の夜明けと蛍って曲でしょ。俺も好きなんだ」
「そうだったんだ。ていうか春谷くんボーカロイドとか聞くんだね」
イメージがなかった。クラシックばかり聴いてるものだと思っていたけど意外といろんなものを聞くんだろうか。
「うん、僕の友達でロックが大好きな変わってるやつがいてさ色々曲を送ってくるんだよ。そこでボーカロイドを知って、色々聞くようになったんだ。」
「へ〜そうなんだ。じゃあ彼の影響でロック聴くようになった?」
「いいや全然。ロック自体あんまり好きじゃないんだよね、、。歌詞とかなんて言ってるか分かんないし、うるさいだけっていうか、。」
「あーね。私もあんま聞かないからよく分かんないけど、歌詞を楽しみたいよね」
「そうなんだよ。やっぱり歌には歌詞がないと」
そう言って彼は手に持った楽譜に目を落とす。
「僕の曲には歌詞が浮き出るような、美しい曲にしたいな。」
「、、、?」
きょとんとする私の顔を見て彼はニヤける。
「曲を聴いたらその情景が浮かぶような曲を僕は作りたいんだ。」
「なるほどね」
「毎日考えてるんだけどな〜、全く思いつかないよ。」
「メロディーが溢れたりしないの?」
「漫画の見過ぎ」
0から1を作るのは大変だな。とか考えていると公民館の扉からおばさんが入ってきた。春谷くんは誰か気づいたのか駆け寄って話し始めた。何やらおばさんの申し訳なさそうな顔が見える。話終わったのかおばさんはどこかへ行き春谷くんが戻ってきた。
「2時から老人会の予定が入ってたのをさっきのおばさんが見落としてたらしくて、悪いけど今日は譲って欲しいって。」
「それでなんて言ったの?」
「あっちが先だし、譲ったよ」
「そっか。じゃあ今日は解散?」
時計を見ると1時45分を示していた。もう出ないといけないと思い私はギターをケースに入れる。
「それでさ、今から海に行かない?」
「へ?」




