楽しい友人
「ふんふ〜ん」
鼻歌を歌いスキップしながら音楽室へ向かう。あの日から私は休日を除いて毎日放課後音楽室へ向かうようになった。
「お待たせーー」
勢いよくドアを開ける。あの日から1ヶ月、ずいぶん親しくなった。最初の方はお互い緊張して会話が弾まずに気まずくなったりしたけど、だんだんと会話が弾むようになって所謂友達の距離感になった気がする。
「お疲れさん」
「お疲れ様。どう?曲の方は」
「さっぱりだよ。なんかこう、ピンとこないんだよね〜」
曲作りは難航中らしい。音楽室には中途半端に書かれた楽譜が転がっている。音楽室に来るようになって分かったことだが彼はよく喋る。私がイメージする彼は寡黙で天才というイメージだったが、彼は頭から音楽が降ってくるみたいな感じじゃなくて今まで見て感じて聞いたことを音楽に変えてきたので、自分らしい曲を作るのがこれ以上ないほど難しいらしい。「自分らしさってなんだよ」と彼はよく言っている。私が聞いたあの歌は何がモチーフ?と聞いたところ、彼は「海」と言った。そこから30分にわたって海の話を聞かされたのは印象的だった。海の生物で一番好きなのはマンタらしい。
「明日から夏休みだね。曲作りはどこでする?」
「そうだな〜」
夏休みは音楽室が開かない。うちの学校は音楽室が二つありそのうち一つを使わしてもらっているが夏休みは軽音部が二つ使うらしい。かなり無理を言って使わせてもらっているらしいのでまぁ当然である。
「公民館とか?ピアノが使えるならどこでもいいな」
あくびしながら彼は言う。
「春谷くんはピアノのレッスンとかないの?」
「ないよ。高校入る前にやめた。嫌々行ってたから」
「ふ〜ん」
「福山は何かしてるの?」
「何にもしてないな〜、何かしようにも長続きしないの」
「例えば?」
「絵を描いてみたり、歌を作ってみたり、どれも長続きしなかったけど。ギターだけちょこちょこしてるかな」
ギターは卓郎おじさんにもらったもので最近は全く弾けてないけど一応少しできる。それ以外は黒歴史へと成り果てた。
「へ〜、聞いてみたいな〜福山の歌」
「絶対に嫌」
この前、深夜にシガミが本棚の奥にあった歌詞が書かれた紙を発掘した時に一緒に見てしまったのを思い出した。折り畳まれた紙を開いて、見た瞬間私の顔は真っ赤になってその紙を目にも止まらぬ速さでぐしゃっと潰して無かったことにした。歌詞はその時見ていた恋愛小説をイメージして作った歌でポエムチックであまりにも気持ち悪く、シガミは何が何だかわからない様子で「今のはなんだったの?」と聞いてきたので、咄嗟にラブレターと言って、それもそれで恥ずかしかったがシガミは「そう言う時期だしね」と言わんばかりの顔で私を見た後また本を読み始めた。あの時ほどニューラライザーが欲しくなった時はない。死神にも効くのか怪しいけど。
「僕の曲と合わせた歌とか見てみたいな〜」
キラキラした目で私を見る。そんな目で見るな。
「嫌でーす」
こんなことを言いながらも少しだけ、ほんの少しだけ作詞を脳の片隅に置いた。
この日の夜、テレビで音楽番組を見ていると高校生バンドが出ていた。アコースティックギターとボーカルの二人組バンド。男女だったのでこの二人って付き合ってるのかな〜なんてやましい想像をしていると演奏が始まる。綺麗な声と安定感のあるギターが絡み合い、あっという間に一曲終わってしまった。「すごい、、」思わず声が出る。音楽、特に歌詞は年季が必要だなんて思っていた自分が恥ずかしくなるほどいい歌詞でただただ呆然としていると
「清華〜春谷くんからメッセージがきたよ〜」
とシガミが言う。シガミからスマホを受け取ってメッセージを開く。
『今やってる音楽番組見た?』
『見たよ』
『今やってたバンドすごくなかった?ちょっと電話できる?』
『できるよ』
ニマニマしながらスマホを見ている私を見て、察したシガミは私の部屋へ戻ってくれた。音楽トークに花が咲き電話は深夜2時まで続いた。このバンドが良いだとかこの曲のここが良いだとかこの歌詞が好きとか。こう言う時間がずっと続けばいい。恋人とかの関係じゃなくてこの関係。お互いの音楽に対する理解を深め合えるような、ただの友達。この関係で喋るこの時間がきっと一番楽しい。




