ファン
「辞めちゃってたのか、作曲。どうしよう」
「でも希望がないわけじゃなさそうだよ」
「どういうこと」
私はベットから起きシガミを見つめる。
「清華がドアの前でオロオロしてる時に私は音楽室を隅々まで見たんだ。あの時清華から見えない位置に楽譜があったんだよ。作りかけの楽譜があった。彼は多分、作曲を辞めれてない。」
「辞めれてない?馬鹿らしくなって辞めたって言ってなかったっけ?」
「人間は頭でわかってても辞めれないんだよ。彼が作曲が嫌いなら話は別だけどね」
情熱というやつだろうか。私はそれを知らない。
「じゃあまだチャンスが?」
「多分ね。でも一度決意した人間を説得するのは難しいよ」
それはそうだ、わかってる、そんな簡単じゃないことは。私が彼をもう一度情熱の火をおこすことができるだろうか。
「ねえ、シガミ。私なんかの言葉で彼はまたピアノを弾いてくれると思う?」
「大丈夫だよ。彼に足りないのはほんの少しの勇気だよ。君の言葉できっと動くよ。」
次の日、終礼が終わった後、私は音楽室に向かった。
シガミには音楽室前で待ってもらい、私は一人で音楽室の扉を開ける。勢いよく音楽室に入ると驚いている顔の彼がいた。私は詰め寄る。
「しないの?作曲」
「えーっと、昨日言ったように僕はもう作曲はやめたんだ。もう作曲する気はないよ」
「なんでやめたの?」
「それも昨日言ったよね。馬鹿らしくなったって。」
「ふーん、じゃあ、君が持ってるその楽譜は?」
「これは、、」
彼の手には楽譜が握られていた。この目で見るまでは信じられなかったけど、作曲を辞めれてないというのは本当らしい。
「ねえ、なんで作曲が馬鹿らしいなんて言ったの?」
俯き、頭をかきながら彼は答えた。
「怖いんだ、作曲するのが」
「怖い?」
「自分が作った曲を否定されて作曲が怖くなってしまったんだ。誰にも見せないようにして作曲しても、どこか馬鹿にされているような気がしてならなくてね。それで色々しているうちに何がしたかったのか分からなくなってしまったんだ」
なるほど、これが彼を止めている原因か。
「だから、馬鹿らしいって思い込んで辞めちゃったの?」
「そう」
彼は楽譜をピアノの上に置く。
「ねえ、私と一緒にもう一回作曲しない?」
「清華さんって作曲とかしたことあるの?」
「いや、、、ない」
「話にならないな」
そう言いながら彼は楽譜を集めてファイルに片付け始めた。
「、、、ねえ、どうしてそんなに作曲してほしいの?君は僕の全てを見てきたわけでもないじゃないか。」
「なんでって、、私は君のファンだから」
彼は目を見開き私を見つめる。
「ファン、、ファンか」
彼はそう言って黙ってしまった。どうしようと狼狽えているとシガミが「後ひと押しじゃないか」と耳打ちしてきた。
いつの間にか入ってきていたようでそう言った後、壁をすり抜け出ていった。
「私は君の作る曲を馬鹿になんかしない。もう一度でいいから!」
これ以上ないほどのエネルギーを注いだ声はずいぶん大きくなってしまって彼は少し驚いていた。
「わかった、もう一度書いてみる。でもこれだけ約束してほしい。二人で作るんだ。思った感想をそのまま教えてほしい。わかった?」
「わかった、じゃあこれからよろしくね。」
「僕も、、よろしく」
初めて彼の笑顔を見た。爽やかで夏風が微笑んだようなその顔に私はまたおちてしまった。




