馬鹿らしい
「あれが春谷くんだよ」
放課後、音楽室の扉の前でシガミに教える。
「ふーん」
シガミは春谷くんには見えないのをいいことに壁を透けて音楽室に入っていってしまった。そして私はまだ音楽室に入れずにいる。私はあの日彼の音に魅入った日から放課後に音楽室の前で彼のピアノを聞く毎日を送っていた。音楽室のある校舎は人通りが少なくたまに人が通ることがあるがほとんどの人はスルーしていく。初めの方は怪訝な表情で見られたが続けていくうちに誰も気にしなくなった。幸か不幸か私は友人も少ないし人脈もほとんどないので噂も立たなかった。友人の茜ちゃんに彼のことを聞いたことがあった。彼はピアノの天才と呼ばれていて数々の賞を受賞。うちの音楽室を独占して使えるようになっているらしい。クラスが一緒だけどいつも昼休みはどこかに行ってるし人と話すところもほとんど見ない。人見知りなんだろうなと、私も人見知りなので勝手に親近感を抱いていた。
音楽室前で入ろうとソワソワしてるとドアが開いた。
「あの、その、よかったら入る?」
固まっている私を見て彼はそう言った。彼の後ろでシガミはニタニタしている。
「、うん」
小さい声で返事をして私はピアノが近い適当な椅子に座る。彼は引き続きピアノを弾き始める。シガミに関しては窓度の外を眺め始めている。シガミは音楽に興味ないんだろうか。夕陽がシガミの体を透けている。
「福山さんは、ピアノに興味があるの?」
「うーん、」
言葉が詰まった。別にピアノが弾きたいわけじゃないから。
「いや、ピアノに興味があるわけじゃなくて、その、春谷くん自身っていうか、」
まずいまずい変なことを言ってしまった。決して間違ったことを言ってるわけじゃ、いやでもこれは、変な誤解を、。頭がグラグラする。
「聞きたい曲があって、高校入ったばかりの時に弾いてた曲。あれが聞きたいなーって」
「あれは、、」
「?」
「あれは僕が創ったんだ。」
「え、すごい!お願い!聞かせてくれないかな?」
そうせがむと彼は下を向く。
「ごめん、もう作曲はやめたんだ、その、馬鹿らしくなってね」
「あ、そうだったんだ、ごめんね」
気まずい空気が漂う。シガミはピアノに興味を持ったのかピアノの中に顔を突っ込んでいる。死神の考えることはイマイチよく分からない。
「じゃあ、私帰るね、今日用事があって」
「そう、気をつけてね」
そうして私は教室を出た。帰りの電車の中で動画投稿サイトで彼の演奏を聴いた。なめらかで嫋やかな彼の演奏は息を呑む美しさだった。けど、演奏が終わった後の彼の顔は少し悲しそうな顔をしていた。なんでやめたんだろう。馬鹿らしくなったか、、熱中しているものがない私には、分からないな。




