願い
「それで、お願いはなんにするんだい?」
「どーしよっかな〜」
あのあと医者が来て簡単な検査をした後退院した。医者に死神の事を話そうか迷ったけど面倒なので言わずに帰ってきた。部屋の机にうつ伏せながら死神の問いについて考えた。死神にお金を出すとかの願いは叶えれそうにないし、やっぱり日常の願いがちょうど良さそうだ。
「死神って恋愛経験あるの?」
「ん?」
「だから恋愛経験。恋したことあるの?」
「いや〜それはね〜ほら、私死神だし。」
くねくねしながら死神は答える。この感じ、あるかないかは微妙なところだ。
「じゃあダメじゃん、死神に恋愛相談しようと思ったのに。」
『それなら任せてほしいな。私は結構本を読んでるからその辺の知識はあるよ。」
「それっていつの時代?」
「確か大正」
「大正って参考にならないよ、、、て言うか死神って本読んだ事あるの?」
病院から出る時は私の後ろをついてきていたので壁を透けたりするところは見ていないが足が透けているので物体に干渉できないと思っていた。
「うん、あるよ」
「え、ちょっと待って、死神って物理干渉出来るの?」
「出来るよ、ほら」
そういうと死神は机の上にあるコップを掴み取った。驚いたと同時に興味が湧いて私は死神に触れようと手を伸ばした。ただその手は死神がいるはずの位置に触れても感触がない。まるでそこにいないようだ。困惑する私を見て死神はニヤニヤと笑っている。ダメだ、これ以上詮索すると願いどころじゃなくなってしまう。話を戻そう。
「ま、まぁいいや。それでね、死神には私がとある人へ想いを伝える後押しをしてほしいの」
「なるほどなるほど」
興味深そうにうんうんと頷きながら死神は答える。
「そのとある人ってのはどんな人なんだい?」
「努力家でピアノがすごく上手いの」
高校に入ったばかりの頃、放課後に忘れ物をとりに教室に戻っている時に音楽室からピアノの音が聞こえた。淡く美しいその音色に私は惹かれ音楽室を覗いた。私は忘れ物のことなどすっかり忘れて聴くのに夢中になっていた。曲が終わって彼が息をついたタイミングで覗き込んでいる私と目があった。私はハッとして逃げるように教室へ走った。あの弾いた後のやり切ったようなすんだ表情に私は魅入ってしまったのだ。
「ふ〜んピアニストなんだ。」
「そう。でも最近は弾いてないみたい。」
「それはどうして」
「わかんない。死神にはそれを聞くのを後押ししてほしいの。そしてまた彼の弾くピアノを聞く。それが私の願い」
「なるほど。私に任せなさい。しっかりとアドバイスして君の願いを叶えてあげよう」
「よろしくね死神っ。じゃあ私は疲れたから寝るけど死神はどうする?死神も寝るの?」
『死神は寝ないよ。そうだな〜君が寝てる間は〜』
そう言いながら死神は部屋の本棚をジロジロ見始めた。私は割と本を読むので本棚はかなり埋まってある。
『私は君の本棚の本を見て暇を潰すよ。今の時代の恋愛観を学んでおくよ。』
「そう、別にいいけど」
興味津々に本を見る死神はなかなか面白い。初めて見るものばかりなのか本の表紙を見て感動している。
「ねえ見てこの線!絵が動いてるよ!」
「フッ凄いでしょ〜それは効果線って言うんだよ。」
自慢げに言うが死神は私の話をそっちのけで漫画に夢中だ。
「ねえねえ、死神って名前あるの?死神って呼びづらいからあるなら教えてほしい。」
「名前?私の?」
他に誰がいるんだこの部屋に。
「名前ね〜」
「死神は死神?」
「考えたことなかったな。つけてよ名前」
「私が?う〜ん、じゃあシガミ。」
「シガミ、いい名前だ。」
気に入ったらしい。分かりやすく声のトーンがあがった。おばさんが死んでここ最近、夜は一人だったのでこんなに騒がしいのは久しぶりでとても楽しかった。




