↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/18

第16話   魔力測定器の結果

 拳一郎は花緒の軽自動車を借りると、三十分以上かけて市内にあるシーカー協会の福井支部へとやってきた。


 シーカー協会の福井支部は歴史的な福井城址《ふくいじょうし》が残る、城址公園《じょうしこうえん》の一角に存在している。


「なあなあ、拳一郎。どうしてここは他の場所と違って石垣や掘があるんや? どこかの敵と戦争でもしとるんか?」


 車の中でも騒いでいたエリーは、外に飛び出るなり快晴の空を飛び回りながらたずねてくる。


「戦争なんてしてない。ここはもともと大昔に徳川家康の――まあ、この国を治めていた偉い人の次男が築いた城があった場所なんだ。そして周辺は公園になっていたんだが、ダンジョンに繋がる〈迷門〉が出現したことで公園内にシーカー協会の施設が建てられたんだよ」


 拳一郎は得意げに説明する。


 しかし、これらは実家から出発する前にスマホで調べたことだった。


 拳一郎は地元の高校を卒業してすぐに上京したため、今も昔も市内のことはよくわからない。


 それでもこうして県の中心部に来ると、不思議と懐かしい気持ちになる。


「それがあの建物っちゅうわけか?」


 エリーが見つめている先には、歴史の香りが漂う城址公園の一角に鉄筋コンクリートの堂々たる建物――シーカー協会の福井支部がそびえ立っていた。


 専用駐車場からでも西洋風の鎧を着た探索者たちが出入りしているのが見える。


「しっかし、何でこんな場所に来てダンジョンに入る許可をもらう必要があるんや? 〈転移石〉を使ってこっそり入ればええやん。源次郎もそうしたやろうし」


「俺は犯罪者になる気はない。親父が〈転移石〉を使って不法にダンジョンに入ったとしても、俺はダンジョンに入るならきちんと探索者となって正式な〈迷門〉から入る」


 拳一郎は本音を伝えると、建物の出入り口へと向かった。


 途中、自分と同じ私服姿の男女たちとすれ違った。


 探索者になるべく登録をしに来た探索者志望者たちだろう。


 横幅の広い正面入り口の自動扉を通り、両手をアルコール消毒してからホール内を見渡す。


「おお~、すごいな! お前の家とは大違いの広さやないか!」


 エリーがはしゃぐのも当然だった。


 シーカー協会の福井支部は三階部分まで吹き抜け式になっており、一階には何脚ものテーブルと椅子が置かれた休憩ペースと巨大な電光掲示板があった。


 探索者には休みという概念がないため、平日の昼間である今日も休憩スペースには数十人の探索者たちが談話する姿が見受けられた。


 そして横長の電光掲示板にはランクごとに依頼データが表示されていて、年齢に関係なく様々なランクの探索者たちが依頼データを眺めている。


「なあ、拳一郎。うちはちょっとこの建物内を探索してくるわ。帰るときに声をかけてや」


 好奇心の塊のようなエリーは、鳥籠から解放された鳥のように上空に飛んでいく。


 拳一郎も釣られて二階と三階部分を仰ぎ見る。


 二階には様々なオーナーの武具屋やアイテムショップが並んでいて、三階部分には和洋中の色々な飲食店が入っていた。


(まるで小さなショッピングモールだな)


 などと考えていたときである。


「おい、パンピーのおっさん。そんなところで馬鹿みたいに突っ立ってんじゃねえよ」


 後方から声をかけられ、拳一郎は顔だけを振り向かせる。


 拳一郎に険のある声をかけてきたのは、金髪や茶髪、一房だけ白いメッシュを入れた黒髪の三人組――その中のリーダー格と思しき白メッシュの男だった。


 三人とも体格はいいが顔立ちに幼さが残っている。


 十八歳から二十歳ぐらいだろうか。


 西洋風の甲冑に身を包み、長剣や短剣、背中に槍を担いでいる姿はコスプレ色が強いものの、その着慣れた感からは探索者歴がそこそこある青年たちだと判断できる。


「おっさん、聞いてんのか? 邪魔だからどけって言ってんだよ!」


「ああ……すまない」


 入り口付近で立ち止まっていた拳一郎は、すっと横に移動して道を譲る。


 エリーと同様、福井支部の内部を眺めていて人の出入りのことを忘れてしまっていた。


 社会人としてはあるまじきことだ。


 拳一郎が道を開けると、青年たちはなぜか勝ち誇った顔で拳一郎の前を通り過ぎていく。


「そうそう、魔物と闘ったこともないパンピーは探索者の言うことは素直に聞くもんだ」


 そう言ってきた白メッシュの青年は急に立ち止まると、拳一郎の身体を舐め回すように見始める。


「ふ~ん……それなりに鍛えてはいるようだが、肝心の〈魔力〉の潜在量はどのぐらいなんだろうな。〈魔力〉の測定で10を下回ると魔法適性なし――要は探索者になれないんだぜ?」


 白メッシュの青年の言葉は続く。


「いいか、おっさん。Cランクの俺からありがたい忠告をくれてやる。興味本位で探索者になりたいってだけならやめときな。探索者ってのは命懸けで魔物と闘う過酷な仕事なんだ。いくつもの修羅場を潜ってきた俺の見立てだと、おっさんがまともに闘って倒せるのはせいぜい弱ったゴブリン一匹ぐらいだな……おい、お前らもそう思うよな?」


「くくく……おいおい、ヒロ。その辺にしといてやれよ」と金髪の男。


「ゴブリンどころかスライム程度にも手こずるんじゃね?」と茶髪の男。


 拳一郎は含み笑いをしている三人に対して目眉をひそめる。


 心をざわつかせる醜悪な顔だった。


 三人とも若いが正式な探索者なのは間違いない。


 何度かダンジョンに潜り、魔物と渡り合ってきたというのも事実だろう。


 だが、三人の青年たちには決定的に欠けているものがあった。


 一般的な社会常識の欠如だ。


 年齢的に実社会に出ずに探索者という特異な職業に就いたことで、自分たちは特別な存在で一般人よりも偉いと盛大に勘違いしている。


 一方、拳一郎は十年以上も実社会の荒波で揉まれた経験があった。


 なので年若い青年たちの軽口も平然と受け流せた。


 そればかりか、拳一郎はニコリと笑って小さく頭を下げる。


「丁寧な説明ありがとう。何とか受かるように頑張るよ」


「……ああん?」


 拳一郎は平静さを崩さず、ただ事実を伝えただけだったが、ヒロと呼ばれていた白メッシュの青年は丁寧な返しを挑発されたと勘違いしたのだろう。


 拳一郎の片眉がピクリと動く。


 その数秒後にヒロは拳一郎の胸倉を掴み、親の仇のような目で睨みつけてくる。


「てめえ、何ヘラヘラ笑ってんだ? 俺たちのことを舐めてんのか!」


 拳一郎は対応に困った。


 ヒロがこういうことをしてくるのは予想できた。


 正直なところ、胸倉を掴まれる前にヒロの顔面に正拳突きを叩き込むことも十分に可能だった。


 けれども、拳一郎はすぐに踏みとどまった。


 すでに不法にダンジョンに潜った罪があるものの、それ以上に大勢の前で人を殺すという大罪は起こしたくない。


 拳一郎は胸倉を掴まれたまま、意識だけは警戒して全身を脱力させる。


 言葉ではなく、自分は闘う意志はないと相手に伝えたつもりだった。


 それでもヒロがこれ以上の悪意を持った行動をしてくるのなら、さすがの拳一郎も大人しくやられるつもりはない。


「おい、お前ら何をしている!」


 一触即発の空気が漂う中、特殊部隊風の自動小銃で武装した警備員たちが急いで集まってきた。


 ここはまだダンジョンの外のため、警備員たちは万が一も兼ねて対人間用に銃器で武装しているのだ。


 そして拳一郎たちは五人の警備員に囲まれ、自動小銃の銃口を突きつけられる。


 拳一郎は警備員たちを見回し、素直に両手を上げた。


「おいおい、別に俺たちは騒ぎを起こすつもりはねえよ。だから、さっさとそんな物騒なものは仕舞ってくれ」


 ヒロは手を離すと、拳一郎と同じくホールドアップする。


 他の二人も両手を上げるが、表情には気にくわないという色が浮かんでいた。


 警備員の一人が苦々しい顔で舌打ちする。


「お前らもCランクの探索者ならわかっているだろう。シーカー協会の敷地内は〈迷門〉の影響で特別区に指定されている。魔法が使える探索者が協会のスタッフや一般人に危害を加えた場合は重罰だ。もちろん、未遂でも見逃せる限度がある」


 警備員たちは明らかにヒロたちを――魔法が使える探索者を恐れている。


 自動小銃の先端が微妙に震えているのがその証拠だ。


「わかったよ。もう消えるから勘弁してくれ」


 ダンジョンの魔物に銃器は通用しないが、人間には当然の如く通用する。


 ヒロたちは近距離で銃撃を受けるのを避けようと、恐怖を隠すようにへらへらとした態度で休憩スペースへと去っていく。


「あんた、大丈夫か?」


 警備員の一人が拳一郎に声をかけてくる。


「ええ、別に大したことありません。無邪気な子供が絡んできただけですから」


「無邪気な子供って……」


 唖然とする警備員たちを横目に、拳一郎は「お騒がせしました」と頭を下げて再び歩き出した。


 そのままカウンターのある受付口へと向かう。


「すみません」


 受付口の前に来た拳一郎は、担当者のショートボブの女性に声をかける。


「い、いらっしゃいませ……ほ、本日はどのようなご用件ですか?」


 今の騒ぎを見ていた女性スタッフは、作り笑いで拳一郎に応対してきた。


 西洋風の格好をしている探索者たちと違って、受付担当の女性スタッフたちは全員とも清潔感のあるアイボリーの半袖ブラウスを着ている。


「先ほどはお騒がせしてすみませんでした。それで、探索者ライセンスが欲しいんですけど……」


「は、はい。し、新規加入のお客様ですね。では、こちらへどうぞ」


 拳一郎はカウンターの隅に設置された、中心部分に手形が彫られた石板の元へ案内された。


「これはダンジョンから採取された特殊な鉱物と現代の科学技術によって生み出された、各人の潜在魔力量を計測する【魔力測定器】という魔道具です。必要書類にご記入される前に、まずはこちらで魔法の適性があるかどうかを判断させていただきます」


 拳一郎は存在こそ知っていたが、こうして本物の【魔力測定器】で自分の潜在魔力量を計測するのは初めてのことだった。


 ヒロが口にしていたように、この【魔力測定器】の計測で潜在魔力量の数字が10以上ないと探索者ライセンスは発行されない。


 要するに合法的にダンジョンへ潜れなくなるということだ。


 そして、潜在魔力量の上限値は100だったと記憶している。


(まあ、さすがに潜在魔力量が10以下ということはないだろう)


 ダンジョンでゴブリンや巨大鬼を倒した拳一郎である。


〈聖気《アニマ》〉という不思議な力にも目覚めたこともあり、かなりの潜在魔力量があるかもしれないと高をくくっていた。


 拳一郎は女性スタッフの指示に従い、石板に彫られた手形に自分の手を重ねる。


 すると、石板と何十本ものケーブルで繋がっていたデジタル表示パネルに数字が表示された。


 直後、拳一郎は表示された数字を見て言葉を失った。


「こ、これは――」


 女性スタッフも表示された数字を見て驚愕する。


「お客様の潜在魔力量は最低の0です!」


 ホール全体に響き渡った女性スタッフの大声に、他の探索者たちの視線が一気に拳一郎へと集まった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


読んでみて「面白そう!」「続きがきになる!」と思っていただけましたら、ブックマークや広告の下にある★★★★★の評価を入れていただけますと嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。