エルフって凄い
……うめぇ。
二日酔いでガンガン響く頭に、お粥の優しい味が沁みる……。
タレはアレだね、鰹出汁っぽい。
かなりたっぷりと鰹節を使って引いた出汁を、葛とかでとろみを付けた感じ。
塩辛いとかも無いし、マジでじんわりと旨味だけを感じる。
これなら全部食べ切れるな。
「……ふぅ」
あっさり完食。
今のが薬膳料理なのかは分からないけれど、普通に食べ切れたな。
量も茶碗一杯分も無い感じだったし、あれくらいはペロリよ。
「なんじゃ。普通に食べられるではないか」
「……確かに」
あれ? さっきまで普通にお腹空いて無かったのに……。
なんか、普通にドリンク飲んで、普通に粥を完食したな?
……何なら、少し物足りない感じですらあるし。
――これが薬膳の力?
「お粥でございます」
――また粥!!
……あ、でも、今度のは何か入ってるな。
「山菜と卵が混ぜられております。お好みで塩を振ってください」
「あ、はい」
山菜のお粥か。
美味そうだな。
……まずは塩を振らずに一口。
「……ほろ苦くて美味い」
「満足そうだな」
少し呆れつつそんな事を言うスイさん。
ちなみにスイさんには、ひき肉がゴロゴロと入ったお粥が提供されてて、既に完食済み。
――早くない? 食べるというか、もはや飲んでないか? それ。
「次は塩をちょっとだけ振って……」
ほろ苦い山菜の風味で食べるのもいいけど、やっぱり少しは塩気が欲しい。
というわけで塩を振り、パクリ。
うんうん、これよこれ。
やっぱり少し塩気があるだけで全然違うね。
「山菜には塩ですよ」
「どれもこれも全部葉っぱであろうに」
なんてこと言うんだこのドラゴンは。
山菜を言うに事欠いて葉っぱだと?
そこに直れ。正座だ正座。
俺が山菜が何たるかをじっくりと説明してやる。
――あ、異世界の山菜は知らないや。
足、崩していいよ。
「ふぅ」
「二杯目もペロリだったな」
「ですね」
いやぁ、想定外。
でも、食欲が戻ったって事は回復の兆候でしょ。
薬膳関係あるかは知らないけど、これだけ早く二日酔いが回復するなら来た甲斐はあるってもんだ。
「お粥でございます」
またまた粥!! 粥! 粥! 粥! 三杯でジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!!
「あ、さっきの……」
「ひき肉が入っております。そのままお召し上がりください」
お出しされたお粥は、さっきスイさんが食べていたひき肉そぼろ入りのお粥。
対してスイさんには……。
「ステーキ?」
「当然だろう」
何がどう当然なのかは知らないけど、彼女が言うんなら当然なんでしょうね。
知らんけど。
「レモンとペッパー、バターソースっと」
じゅうじゅうと美味しそうな音を立て、匂いを広げるステーキを見ながら、お粥をパクリ。
「甘辛く味付けされたひき肉がお粥と合う……」
「この肉汁滴るステーキよ! やはり食事はこうでなくては!!」
……うぷ。
回復の兆候が見えたとは言っても、やはり脂っこいものはまだ胃が受け入れないらしい。
その証拠に、ステーキを見た瞬間にさっき食べた粥が上がってきたもん。
まだしばらくはお粥でいいや。
「デザートが温かいものと冷たいものを選べますが……」
「冷たいので」
「同じく冷たいのを貰おう」
「かしこまりました」
……お粥三杯。
普通に平らげちまったな。
しかも、当たり前にデザートまで食べる気でいるし。
いや、デザートは別腹だから。
夏バテの時でもアイスは食べられるのと一緒で、病気の時でもデザートは入るのよ。
果物ゼリーとかね。
「しょうがと干し柿のスープです」
「こちら、チョコレートパフェです」
……さっきのステーキからなんだけど、薬膳とは? みたいなメニューが出されてない?
スイさんの方の料理。
「? どうした?」
「ナンデモナイデス」
いやまぁ、じゃあ食べるか? と言われたら首を横に振りますけれども。
大人しく出されたデザートをいただきますわよ。
「あ、美味しい」
しょうがと干し柿のスープ、口に入れた瞬間は生姜湯の感じなんだけど、あとから追いかけてくるように干し柿の甘さが広がる。
その干し柿の甘さに、しょうがの刺激というか、ピリピリするような感じが隠されるから、かなりの身安くて甘い生姜湯みたいな。
――まぁ、冷たいんですけれども。
冷たいんだけど、しょうがの効果で飲んでたら体の内側がポカポカする感じがあるし、さっきまで脳内で響いていたシンバルのみのオーケストラも、気が付けば全然気にならなくなってる。
異世界の薬膳って凄い。
「気分はどうじゃ?」
「かなり楽になりました」
「まぁ、二日酔い程度であればな。一食で何とかなろう」
「……その言い方ですと、三食ここで食事をすれば治る範囲が広がる感じです?」
「うむ。初めのドリンクから最後のデザートに至るまで、エルフの育てた薬草がふんだんに使われている」
「ほへー」
「その薬草たちの効果で、体調不良を治す、というのがこの店のコンセプトだ」
「色んな病気が治るんですか?」
「治らない病気もあるが……そうだな、高血圧程度ならばまず治る」
現代日本の抱える代表的な生活習慣病を程度で済ますか。
凄いな、エルフの薬草。
「一か月は通わねばならんだろうが」
「結構かかりますね」
でも、一か月で高血圧が治るなら全然早いか。
「値段も相応にするがな」
「……ですよね」
言うなれば健康を金で買うって事だもんね。
そりゃあ安くない値段ですわ。
「食後のコーヒーです。ミルクはいかがしますか?」
「ブラックで」
「同じく」
という事でしょうがと干し柿冷製スープも飲み干し、お出しされたコーヒーをゆっくり堪能して。
俺は、この船で食べる最後の食事を終えたのだった。




