居るんだねぇ
「お騒がせしましたホー」
そう言って、ハイドワーフの女性へプリンと、カットフルーツの盛り合わせと、ロールケーキを差し出すノクティアさん。
「……ケーキは頼んでいないのだけれど?」
「あちらの三人からの詫びの品ですホー」
「そう」
……一応言っておくけど、そんな事あの三人は言ってないからね。
普通にノクティアさんの独断だろう。
――請求はあの三人にするだろうけれど。
「……」
「……」
「……」
「……」
あの、なんか、めちゃめちゃ見られてるんですけれど。
ハイドワーフの方から。
俺、何かしましたっけ……。
「あの……あなた……失礼だけど人間よね?」
「そうですけれど……」
「人間がこの場所に居る事が珍しくてね。良ければ色々と話を聞かせて貰えないかしら?」
「構いませんけど……」
と思っていたら声をかけられた。
確かに言われてみたら、そんなにお客さんは入って来ないまでも、それなりには居る中で。
人間、というのは今のところどうも俺だけっぽい。
バーの方にはドワーフが多いのはまぁ当然として、喫茶店の方にもエルフやハーピー、マーメイドは居る。
マジできれいに人間だけ居ないな、俺以外。
「なんでこの場所を利用したの?」
「ノクティアさんから誘われまして」
「マスターから? また珍しい事」
「昨夜食事で同席してね。その縁から誘ってみたんだホー」
まぁ、うん。
間違えては無いかな。
深夜に出会わなければカジノのチップを渡そうなんて考えは出てこなかったわけだし。
ただ、そのカジノのチップをあげた、という部分は隠されているけれども。
「へぇ。その、こんな事を聞くのもなんだけれど、人間としてこの場に居にくくない? 周り見ても同族が居ないでしょ?」
同じ人間の事を同族とまとめられたのは初めてかなぁ……。
まぁ、本音を言うとね? 心細くはあるよ。
周囲に人間が居ないの。
でも、居心地が悪いかと言われると……。
普通に雰囲気の良い喫茶店だしなぁ。
……仕切りのこちら側は。
向こう? ドワーフ達の賑やか()な声が響いてますよ。
「特別感があっていいじゃないですか。それに、喫茶店としての雰囲気はいいですし、居心地の悪さは感じませんね」
「なるほど……」
と、何やらメモをしだすハイドワーフさん。
さて、と。
「ちなみに、ここに人間が居ない理由って知ってます?」
「船内にはここ以外にも喫茶店はあるし、バーもある。それに、この場所はドワーフ達に人気だから……」
「静かに飲みたい人間の方々は別の喫茶店やバーに行ってしまう、というわけだ」
ノクティアさんも会話に入ってきた。
ふ~ん? でも、それでも人間のお客さんが少数でも来店していいように感じるけどなぁ……。
「あとは――」
「有名なドワーフのインフルエンサーがこの場所をおススメしていたから、というのも大きい」
「……うん?」
異世界らしからぬ単語が聞こえてきたな。
インフルエンサー?
「それのせいでドワーフのお客さんがこぞって押し寄せ、一時はドワーフ以外はほとんど来店しなくなったほど」
「その名残で、全体的にドワーフ以外の種族の客足が遠のいたんだけど、一番遠のいたのが人間だった、という事ね」
なるほど。
という事はしばらく時間が経てばまた人間のお客さんも来るって事かな。
にしても、インフルエンサーか。
居るんだねぇ、異世界にも。
「……そうねぇ。珍しい人間のお客、という事で、一つ記事でも書こうかしら」
「ホッホー。そうして貰えると私としては助かりますがね」
「……記事?」
「私、雑誌の編集者をやっているのよ」
「様々な旅行記事や料理の記事を書いている方なのですよ」
……意外。
ハイが付こうがドワーフだから、鍛冶系の仕事をしているもんだとばかり。
雑誌の記事を書いているとは……。
「てことは、この船にも取材で?」
「いえ。これは完全なプライベートよ」
さいですか。
「ちなみに、何を注文したのかしら?」
「ロールケーキとプリン、コーヒーはホットとアイスをいただきました」
「しっかり満喫してるわね」
「先ほども言いましたけど、雰囲気いいですからね」
まぁ、ノクティアさんに招待して貰えたってのが大きいんですけれども。
「コーヒーは美味しかったかしら?」
「もちろんですよ。ちなみにホットの方が好みでした」
「ブラックで?」
「ですね」
ふむふむ、とメモを取るハイドワーフさん。
「……あ、すっかり忘れてたわ。私、グリムダって言うの。よろしくね」
「御厨忠といいます。ミクリヤと呼んでください」
「ホッホー。ミクリヤ、という名前だったのか」
そういえば、ノクティアさんに名前教えてなかったんだっけ?
……そうか、俺はノクティアさんの名前は名刺で確認したから、俺から名前を伝えてなかったのか。
なんという……社会人としてあるまじき失態。
――まぁ、それを言うなら名刺を貰った時に返してない時点で、とはなるが。
「珍しい名前ね。ツアーギルドの代表もそんな感じの名前だったけれど」
珍しいか? ……いや、うん。珍しいな。
俺の苗字。
しかも地元以外で初見で読める人が少ないという。
難読苗字に一応入る……と思う。
異世界でもその珍しさは健在、と。
「まだ何か飲む?」
「コーヒーのお代わりを」
「私も。あと、チョコレートの盛り合わせをお願い」
「かしこまりました」
というわけで、グリムダさんからの質問はまだまだ続くらしいです。




