次は無いホー
「そういえばなんですけど」
「うん?」
コーヒーの二杯目を飲みつつ、ノクティアさんに疑問をぶつけてみる。
「喫茶店とバーが一緒になってるんですよね? ここって」
「そうだが?」
「どうやって分けてるんです? 時間とか?」
「いやいや、カウンターに仕切りがあるだろう?」
「ありますね」
「あれより奥がバー。手前が喫茶店としているホー」
「あ、物理的に分けてるんですね」
お店でどこに座るかでどちらの客か判断しているって訳か。
なるほどな?
「ちなみにバーはもう少し待って欲しい」
「? 何かあるんです?」
「いや、まだまだ仕込み中ゆえな」
「あ、なるほど」
まだ開店前だもんな。
そりゃあ仕込みとかの途中だよな。
「なので、しばらくはコーヒーとケーキで時間を潰して欲しい」
「十分です」
こう、喫茶店とかの時間がゆっくり流れているような空気大好き。
その中に身を置けば、日常の喧騒から離れられる気がするから。
「ホットコーヒーを貰えます?」
「では豆を変えよう。お茶菓子も、クッキーにしよう」
なお、コーヒーとケーキのセットはすぐに崩れたんですけどね。
*
さっきまでのフルーティーなコーヒーとは一転して、オーソドックスなストロングスタイルのコーヒーが出てきた。
色は漆黒、香り高くて苦み、コクがしっかりしてる。
俺はこっちのコーヒーの方が好きだな。
いや、さっきまでのフルーティーなコーヒーも美味しいんだよ?
単に俺の好みという話でして……。
酸味が控えめなのがまたいいのよ。
「美味いです」
「冷めると酸味が強くなるから早めに飲み切るのをお勧めするホー」
「なるほど」
あるよね、そういうコーヒー。
ただまぁ、飲めなくなるほどの酸味じゃないだろうし、その辺はあまり気にしないかな。
……クッキーもいただきましょう。
よく見る普通のチョコチップクッキーだけど、何か異世界要素はございますでしょうか?
「――普通」
無かった。
ごくごく普通のしっとりクッキーっていうの?
サクッとした表面と、しっとりした中身。
年々小さくなっていくカントリーマザーみたいな感じだけど、あれよりは大きい。
あと、チョコがしっかり入ってるね。
コーヒーとの相性は言わずもがな。
「……プリンってあります?」
「もちろん」
なんかさ、喫茶店ってプリンのイメージ無い?
しかもなめらか柔らかなプリンじゃなく、しっかりと固いプリン。
クラシックプリンって言うのかな?
折角の喫茶店だし、注文しようかなって。
「固いのと柔らかいの、どちらがいいかな?」
「固いので」
どうやらノクティアさんの喫茶店では固いプリンと柔らかいプリンが選べるらしい。
当然のように固いのを選択。
「パフェにも出来るが?」
「プリン単体でお願いします」
結構お腹一杯なのよね。
お寿司のおまかせの後にロールケーキとコーヒーをいただいてるわけで。
入ってもプリンが限界かな。
「ほい」
そしてお出しされる、想像通りの固いプリン。
これこれ、こういうのでいいんだよ、こういうので。
「いただきます」
いやぁ、しかし。
……緑色の卵料理にも慣れたものだね。
――慣れていいのだろうか?
考えない事にしよう……。
「ん~、これよこれ」
カッチリと固いプリン、ほろ苦いカラメル、そして、より苦いコーヒー。
今この瞬間だけは、俺はきっと大人の階段を上っている事だろう……。
「さて、そろそろ店を開けるぞ?」
「お構いなく」
チップのお礼とはいえ、お邪魔させて貰ってるのは俺なわけで。
俺の事は気にせずに店を開いちゃってください。
「少々うるさくなるかもしれんが、まぁ大目に見てやってくれ」
「……?」
ノクティアさんが何の事を言ってるかは分からなかったが、とりあえず軽く頷いておく。
――その意味は、すぐに分かることになった。
「?」
ノクティアさんが恐らく店のドアにかかったプレートをcloseからopenに変えた直後。
地鳴りにも似た響きが近寄ってくる。
……船の中だよな?
「マスター!! 『月の雫』!!」
「俺は『仲良く喧嘩』!!」
「『雪の上の花』を二杯!!」
そんな地響きを引き連れて、文字通り店内に飛び込んできたのはドワーフ三人。
入るなり、バーの仕切りの向こう側に座って一斉に注文。
――うるさくなるってこれかぁ。
確かに、酒好きであろうドワーフが、バーに来ないわけが無いよね。
納得。
あと、妙にみんなお洒落なの頼んでるな。
いや、マスターが名付けたお酒がお洒落なだけか。
……仲良く喧嘩だけ浮いてる気がするけれども。
「サラミでいいかい?」
「「おうよ!!」」
なお、おつまみはサラミのもよう。
……もう少しコーヒーを楽しんだら、仕切りの向こう側に行くか。
もうしばらくはこっち側でいいけど。
「マスター。コーヒーとプリン。それと、果物の盛り合わせを」
「ホッホー。少々お待ちを」
ドワーフ三人衆の方を見てたら、隣の席に誰か座った事に気が付いて無かった。
その人はごく普通の喫茶店メニューを注文し、何やら本を読み始める。
……ドワーフの方でしたか。
珍しい、お酒じゃなくコーヒーを飲むなんて。
「お、ハイドワーフのねぇちゃんじゃねぇか。こっちで一緒に飲まねぇか?」
「そういう場所ではございませんのでご遠慮ください」
ドワーフ三人衆の一人が俺の隣の人に声をかけるけど、即座にノクティアさんから止めが入る。
……喉元にナイフ突きつけてない? き、気のせいだよね。
――うん? ハイドワーフ?




