よく合わせようと思ったな
……思いっきり『close』の張り紙が張ってあるんだけど……。
しかも開店時間とかも書いて無いし……。
いやでも、ノクティアさんから招待されたわけで……入って大丈夫だよね?
「ホー。ただいま準備中ゆえにもうしばらく待って――」
お店の前でどうしようかと悩んでいたら、店のドアが開き。
中からノクティアさんが登場。
「む、ホッホッホー。待っておったぞ。ささ、早く中へ」
しかも俺の顔を見るなり笑顔になって、めちゃめちゃ強い力でお店の中に引き込まれた。
夜の店のキャッチ以上に強い力だった、うん。
*
「まずはウェルカムティーだホー」
店内に引き込まれ、カウンターの椅子に座らされ、お出しされたのはウェルカムティー。
一口サイズの小さなカップで登場です。こんなカップがあるんですね。
……綺麗なオレンジ色のお茶ですわね。
「いやぁしかし、カジノのチップをたんまりと貰ったことには感謝しかない」
「スイさんにも言いましたけど、この船が安全にクルーズ出来てるのはお二人の力あってこそですからね。俺からの感謝の気持ちですよ」
「ホッホッホー。それでも普通はあんな額を我々には渡さん。いや、もちろん金額の問題では無いのだが……」
まぁ、うん。
分かる。
俺が受けとる側でも全然躊躇うもん。
「ともあれ、おかげで欲しかったガジェットの最新モデルが買えた。感謝するホー」
「それは良かったです」
とはいえ、やっぱり貰えたら嬉しいよな。
で、渡した側としては喜んで貰えたなら嬉しい。
……ところで、フクロウハーピーが使用できるガジェットって具体的には……?
「……うま」
「太陽の雫、という紅茶だホー」
そんな疑問は置いておいて、ウェルカムティーとやらを一口飲んだけど、これ美味い。
フレーバーティーで、ビワの香りが凄くふくよかな紅茶。
じんわりと甘く、ついさっきまでのあまり楽しくない想像を頭の片隅に吹き飛ばしてくれる。
「腹は減ってるかな?」
「ついさっきスイさんと『笹船』に行ってきました」
「ホッホー。あのお店か。美味しかっただろう?」
「滅茶苦茶美味しかったです」
「うむうむ」
ノクティアさんは『笹船』がお気に入りっぽいな。
まぁ確かに、スイさんよりはゆっくりと食事を楽しむタイプな感じがするし……。
昨日の夜……いや、今日か。
今日の早朝に会った時は大量の食事を食べてたけれども。
なんというか、とにかくエネルギー補給! みたいな感じだったようにも思える。
その後にあの戦闘……というか、もはや排除行動とかだったんだけれども。
あの動きだったわけだし。
「であるならデザートにしようか」
「そうですね」
「では、極上のロールケーキをお出ししよう」
そう言ってお出しされたのは、何の変哲もない厚切りロールケーキ。
色も普通のロールケーキだし、マジで特に変わったところは無いと思うんだけれど……。
とりあえず、いただきます。
「……え?」
確かにロールケーキ。
ただ、口に入れた瞬間、ふわっとまるで浮いたか? 位の軽さを感じて。
クリームも、マジで舌に乗った瞬間に溶ける。
ロールケーキよりもスフレの方がイメージ近いけど、スフレほど早く溶けないというか……。
ちょっと待って? 割と表現が難しいぞ、これ。
「不思議な感覚だろう?」
「ですね。なんだろう……口に入った瞬間ケーキが溶けるんですよね……」
「アイスクリームを参考に、口内の温度で溶けるスポンジだそうだ。当然、クリームも同じ性質を持つ」
「何でもありですね」
マジで何でもありじゃん。
信じられるか? ケーキが、口に入れた瞬間に飲み物になるんだぜ?
見た目はロールケーキなのに、口に含むとアイスクリーム。
……う~ん、ややこしや~。
「コーヒーは飲めるかな?」
「もちろん。ブラックでお願いします」
「アイスとホットは?」
「おすすめの方で」
「ホッホー」
そんなロールケーキに合わせるといえば、そう、マスターのおススメの一杯、だね。
という事で出てきたコーヒーは……。
ふむ、アイスか。
アイスコーヒーは欧州ではあまり飲まれない、みたいな話を聞くけども。
――いやまぁ、ここは欧州ではなく異世界なわけですが。
「ん、おもしろ!」
そんなアイスコーヒーを一口飲んだ感想なんだけれど……自分でもコーヒーを飲んだ感想じゃないな、とは思う。
ただ、コーヒーらしい苦みとか酸味よりも、ブドウのような香りが口の中から鼻に抜けたのだからしょうがない。
……そういえば、昔フレーバーコーヒーでパイナップルフレーバーのコーヒーがあったな。
――頑張って飲んだよ、うん。
ただ、それとは違い、このブドウの香りが抜けるコーヒーはそこまで違和感無いな。
ブドウの香りが一瞬、かつ、そこまで強く無いからだろう。
どちらかと言うと、コーヒー豆のフルーティーな部分をより抽出した感じというか……。
「……もう一口」
なんというか、自然と次の一口を欲して手が伸びる感じのコーヒー。
あ、ちゃんと苦みとかはあるよ?
ただ、香りとコクがメインで、苦みと酸味はあくまでおまけ程度かな。
かなり美味しいコーヒーです。
「気に入ったかな?」
「美味しいです」
「ホッホー、ゆっくりしていくといい。沈みゆく夕日を見ながらコーヒーを飲むのも趣があるものさ」
そう言って、ノクティアさんが示す方向には。
こちらに向けて、まぶしいオレンジ色の光を放つ夕日が、ゆっくりと地平線へと消えていく途中。
そんな景色を楽しみながら、ゆっくりと、コーヒーを傾けたのでしたとさ。




