ボキャ貧
このワイン……味がある!!
いや、何言ってんだって思われるかもしれないけどこれがマジな話で。
ワイン単体で飲めって言われた理由がよく分かるわ。
ワインだけで楽しんでいるはずなのに、俺の舌はワインと共に分厚いリブステーキを感知。
あるいはハンバーグステーキだな。
バターのきいたステーキソースと、肉汁が口の中で暴れて、そこに重厚な赤ワインが非常によく合う。
――これがイマジナリーステーキってマジ?
「二十年熟成させると、そのようにワイン自身が自分によく合うツマミを飲み手にイメージさせるようになります」
そうはならんやろ。
なっとるやろがい!!
「一応、数に限りはございますが販売もしておりますので、お求めの方は是非ともお声がけください」
というワイナリーダークエルフさんの言葉に、このワイン試飲ツアーの参加者の何名かが反応し。
即座に購入の交渉へと動き出した。
いやまぁ、俺も欲しくはあるんだけれど……。
絶対にお高いじゃん? こんな、無をツマミに出来るワインなんてさ。
「まだまだツアーはあるしねぇ」
と、俺の隣の席に座っていたエルフのお姉さんもこう言ってるし。
もしかしたら、この先でもっと魅力的なワインに出会うかもしれないし……。
――そうか、ツアーだからまだまだワインの試飲があるのか。
普通に結構飲んだんだけど?
いやまぁ、ワイン一つ一つの量は少なかったよ?
でも、それを六回も繰り返すと流石に中々の量を飲んだことになるんだよね……。
「ふぅ……」
ワインに含まれるイマジナリーステーキとマリアージュさせるの、最高だな……。
自分で味を作るってインパクトでは星空ワインに軍配が上がるけど、ツマミも何もいらず、ワイン単体で楽しめるって考えたら、このワインは相当に強いぞ?
それにしても、流石異世界。
現代では絶対に再現出来ないであろうワインがいくつも出てくるな。
そこに痺れる憧れる。
「ご馳走さまでした」
というわけで大変美味しゅうございました。
堪能させていただきました。
いやぁ、マジで美味かった。
「口直しと酔い覚ましです。よろしければどうぞ」
と言って渡された飴玉を咥え、口の中でカラコロ転がしながら最初のワイナリーを後に。
また川をボートで登って行きますわぞ~。
ちなみに貰った飴玉はぶどう味でした。
――口直し……?
*
「続きましては、神にワインを捧げる祭壇の近くのワイナリーになります」
ほぅ。
「生憎とワインを捧げる日ではございませんので儀式の内容は見られませんが、それでも、祭壇は見学が可能です」
ほうほう。
というわけでボートを止め、歩くこと数分。
なんというか、祭壇だなぁって物が佇む開けた場所に到着。
そして、
「お待ちしておりましたにゃ~」
安直な語尾と、その語尾に見合った耳と尻尾の生えた猫の獣人がお出迎え。
――なんで男なんだよ!!
しかも、俺より身長高いし!!
「皆様には一昨年に神に捧げさせていただいたワインを試飲していただきますにゃ~」
今年のじゃないんだ。
……あ、もしかしたら今年はまだ捧げていないのかもしれない。
じゃあ去年のじゃないのか……が正解なのか?
「去年はマーメイドにワインを捧げる権利を持っていかれましたからにゃ~」
……明らかに俺の方を見て喋ってるんだけど、思考読まれてる?
大丈夫かな……アルミホイルなんて持って来てないぞ?
あと、マーメイドもワイン作ってるんだ?
イメージ沸かねぇ……。
どっかの孤島とかでブドウを栽培してるのか?
「海ブドウのワイン美味しいもんね~」
……他のツアー客の会話が聞こえてきたんだけど、海ブドウってそうじゃなくない?
俺が知ってる海ブドウと、この世界の海ブドウが違う可能性が出てきたな……。
「というわけで、本日は我がワイナリー悲願の奉納ワイン、『濡れた猫の髭』を試飲してもらうにゃ~!」
……ネーミング、もうちょっとどうにかならなかったのか?
*
「チーズにジャーキー、ナッツにチョコレート、どれも合うから好きなのを選んで合わせるにゃ~」
と言ってワインのお供を持って来てもらったのはいいんですけれどね?
全部が一つの皿に盛られてるのはちょっと……。
しかも、ツアー客一人一皿だから、ナッツとチョコ、ジャーキーとチョコ、チーズとチョコが普通にくっついてるのよ。
溶けてないっぽいからまだいいけど、これで気温が高くて溶けてたらアウトだぞ、色々と。
「それじゃ、お注ぎしますにゃ~」
というわけでグラスに注がれる濡れた猫の髭とやらのワイン……ん?
気のせいかワインの色がグレーなんだけど?
いや違うな、こう……なんていうんだろ。
すっごくくすんだ黄金色というか、例えるならジンジャーエールとコーラを混ぜたような……。
あ、でも陽に当てるとくすんだ部分が消えて綺麗な黄金色になる。
面白いな、これ。
香りは……う~ん。
雨が降り始めた直後のアスファルトの匂いっていうの?
正直、食欲が沸く匂いではない。
あ、でもその匂いの奥底から新鮮なマスカットみたいな匂いはするな。
アスファルト臭がめっちゃ邪魔だけど。
「それじゃ、乾杯の音頭を取らせていただきますにゃ~。……かんぱ~い」
なんて、猫獣人の言葉に乗せられ、周囲の人たちと軽く乾杯。
それじゃ、濡れた猫の髭とやら、味を確かめさせてもらうぞ。




