いい人
いやぁ……カオス。
いくら魔法でどうにでも出来るとはいえ、投げたナイフが時間経過でサーベルに変化したり。
飛んでくるサーベルをキャッチして客席に向けたらクラッカーになって紙吹雪を発射したり。
次に何が起こるかって予想が全然出来なくて、普通に見行っちゃった。
――ただ、
「びぇ~~~~っ!!」
流石に子供の目の前に生首だけで飛んでいくのはやり過ぎだと思うな。
トラウマになるだろ、あんなの。
「だ、大丈夫だよ~? 怖くないよ~?」
首だけで浮遊しながらそんな言葉を吐いても逆効果だと思うな、うん。
「あ、飴ちゃんもあるよ~?」
「ぎゃぁ~~~~~っ!!?」
あの、足元の床から棒付きキャンディを持った手が現れたら余計に怖がると思うんですけど……。
なんと言うか、ちょっとテンパってるのかな? このエルフ劇団員さんは。
「お菓子食べる?」
流石に子供が怖がり過ぎてて可哀そうなので、俺から助け舟。
渡すのはもちろんスイさんが絶賛するロウチュウ。
何故なら、この子供もまた、特別な存在だからです。
「食べる」
「いいんですか?」
まだ泣きつつも、俺が取り出したロウチュウに手を伸ばす子供。
と同時に、本当に貰っていいのかと尋ねてくるお母さん。
「構いませんよ。どうぞ」
お母さんに笑顔を向けつつ、子供にロウチュウを手渡して。
助かった……とほっとした顔をしながら床に消えていく劇団員エルフの生首。
お前は反省しろ?
「!? これ美味しぃ!」
「良かったわねぇ」
ロウチュウを口に入れ、噛んだ瞬間。
まだ涙を流した形跡はあるものの、パァッと笑顔が出てくるお子さん。
いやぁ、子供の笑顔はいいものだねぇ。
――と、
「それじゃあ最後に、みんなでビンゴゲームをしましょー!」
司会のエルフお姉さんがそう宣言し、見ている観客の目の前にビンゴカードが出現。
当然俺の前にも出現し、それを掴むと……。
勝手に、中央のフリースペースが黒く塗りつぶされる。
ここまで魔法かぁ……。
「さてさて? 皆さん自分の目の前の座席に番号が振ってありますね?」
言われて見ると、確かに前の座席の後ろに番号はある。
俺のビンゴカードには無い数字だけど。
「その数字が自動で塗り潰されるようになっていまーす! それで、席を移動してビンゴを作っていただくんですが~?」
……マジ?
そんなやり方だと、観客が入り乱れて移動とかするから事故とか怪我とか起きそうなんだけど……。
その辺大丈夫そ?
「それだと、みんな自分の欲しい数字だけを探しちゃいますよねぇ?」
そりゃあね。
「な・の・でー? シャッフルターイム!」
と、宣言した瞬間。
視界が線になり、一瞬、自分がどこに居るのか分からなくなって……。
「はい、流石にまだまだリーチの方は居ませんよねー?」
先ほどとは全く違う席に座った俺のビンゴカード。
その右上の角が、黒く塗りつぶされる。
嘘だろ?
まさか、観客全員の座ってる場所をシャッフルしたの?
なんかとんでもない事やってない?
「じゃあ、みなさーん? リーチになったら手を挙げて、元気よくリーチの宣言をしてくださいねー?」
そう言って、司会のお姉さんが劇団員のエルフ達に目配せすると。
二度目の視界が線。
まさか、誰かがビンゴするまで繰り返す気かよ!!?
*
うえっぷ……。
酔った。
船に、じゃない。
瞬間移動に。
自分がどこにいるかもいまいち把握してないまま、バンバンシャッフルするんだもん。
船酔いよりも3D酔いに近い……。
「あの……」
そんな強制席順シャッフルビンゴも観客の一人がビンゴを達成し、全員で拍手しながら商品を受け取って終了。
雑技団のショーがあってた会場を後にしていたら、声をかけられた。
「先ほどはありがとうございました」
俺に声をかけてきたのは、さっき飛んでくる生首がトラウマになって泣いていた親子。
ショー会場だと明かりがステージを照らしててよく分からなかったけど、この親子、マーメイドかな?
耳がヒレっぽいわ。
「折角のショーだったんで、泣いてると勿体ないと思っちゃって」
「本当にありがとうございました」
「おにーちゃん、ありがとう」
うん、お礼が言えるって偉いね。
「それで、一つお伺いしたいのですが」
「なんでしょう?」
「先ほどのお菓子、娘が気に入ったみたいで……もしよければ、どこで手に入るか教えてもらいたくて」
「あー……」
この世界のものじゃないんですよねぇ。
異世界のお菓子なんですよ……。
「俺が居る異世界のお菓子なんで、こっちの世界だと手に入らないかもですねぇ……」
「そうですか……」
う~ん、がっかりしてるなぁ。
……まぁ、もう少しあるし、大丈夫か。
「お嬢ちゃん、ぶどうと青りんごとイチゴ、どれが好き?」
「……イチゴ?」
「じゃあ、イチゴ味をあげよう」
というわけでリクエストされたイチゴ味をプレゼント。
「え!? いやいや、そんな……申し訳ないですよ」
「構いませんよ。そんなに高いものでもないので」
何なら、スイさんにあげるように持って来たと言っても過言ではないので。
「本当にありがとうございます」
「美味しー」
母親の方は俺に頭を下げてるのに、子供の方はもう既に一個頬張ってるって言うね。
いや、子供はそれくらいでいいのよ。
というわけで感謝の言葉を後ろから投げられつつ、俺は部屋に――戻ろうとして。
「先ほどはありがとうございました!」
さっきのマーメイドの女の子を泣かせた張本人。
生首浮遊エルフ劇団員が俺の前で頭を下げたのだった。
――お前は反省しろ。




