よだれが一筋
「あ゛ー……めっちゃ気持ちいいっす」
「結構凝ってますねー」
ただいま極楽の真っ最中。
ああ、素晴らしきかな異世界ミステリーツアー。
なんと俺の部屋にあるサービスの中に、マッサージ無料プランが入ってました。
しかも一日一回。つまり、家に帰るまで毎日マッサージを受けられるという事。
これは活用しない手はないでしょうって事で、早速マッサージして貰ってるわけです。
ちなみに施術してくれてるのは人間。
流石にここで獣人やドワーフが来たら体が壊れちゃうからね、人間で良かった。
――欲を言えば女性がよかった……。
「肩とかかなり固いですよ?」
「デスクワークが長くて……」
「じゃあ眼精疲労もほぐしときますねー」
座った状態で肩を揉まれ、そのまま首周辺へ。
首と頭の付け根部分をギュッと押されると、鈍い痛みが。
「そこ結構痛いです」
「眼精疲労が溜まってる証拠ですね」
そうなのか。
あ、でも、鈍い痛みの中に気持ち良さもある……。
「顔失礼します」
で、こめかみ付近や目じり、目頭、眉の中心と親指で圧迫され。
「じゃあうつ伏せで寝てください」
手が離れて、寝そべるように指示がされる。
手が離れた瞬間から、なんか目の周りが軽くなった気がする。
多分プラセボ効果。
「腰と、あと足もしっかりほぐしていきますねー」
「お願いします」
というかあれだな、異世界のマッサージだからってなんかファンタジー的なマッサージとかは無いんだな。
残念だと思う反面、ちょっとホッとする自分が居る。
よく分かんない施術されるのも普通に怖いしね。
「魔鉱石を使って腰のマッサージをさせていただきます」
……なんて?
というか、ホッとした直後に異世界流マッサージを導入すな。
俺の安心は何だったんだ。
「多少の重さはありますが、それ以外は特に問題ないはずなので」
「はぁ」
「万が一死ぬほど熱いと感じた場合はお声がけください」
「普通に暴れるのでは?」
死ぬほど熱いと感じたなら。
まぁ、なんと言うか。いいんだけれども。
「では始めていきますね」
という宣言と共に、腰に確かな重さを確認。
まぁでも、そうだな……多分缶コーヒーくらいの重さだな。
で、じんわり温かい……ん? これあれか? お灸とか、そんな感じなのか?
「ふっ、ふっ、ふっ」
と思ったらその魔鉱石? とやらで腰を押し始めたし。
どうやらお灸っぽい使い方ではなさそう。
……あと、思ったよりも気持ちがいいな。
魔鉱石って言う位だから石なんだろうけど、石のごつごつした固さはない。
かと言って柔らかいわけではないんだよな。
何だろう、ゴムボールが付いた肩たたき機ってあるじゃん? あれぐらいの固さ。
固くはあるんだけど柔らかい硬さというか……説明がむずいな。
「結構骨が歪んでますね」
「マジです?」
なんかマッサージ受けてたら怖い事言われた。
あー……でもなんか、姿勢が真っ直ぐなってないとかは言われたことあるかも。
「変な体勢で仕事したりしてるんじゃないです?」
「普通に座ってますけどねぇ……」
その普通がずれてる可能性は確かにあるけれども。
「戻しときますねー」
「……へ?」
メキャァッ!
――とはならず、なんか腰持って左右に揺すられて。
お腹持って揺すられて、最後に肩持って揺すられて。
「真っ直ぐなってる感覚分かります?」
「あー、なんか確かにさっきよりは真っ直ぐなってるかも?」
言われてみたら何となく真っ直ぐなってるような……。
いやでも、左右に揺すられただけだぞ?
それで歪みが直るのか?
いいや、魔鉱石の力って事にしとこう。
「続いて足に移りますねー」
「はーい」
ちなみにこの辺からだいぶ記憶が薄い。
柔らか固い温かい器具使ってマッサージされてるんだもん。
普通に心地いいし。
「ちなみに普段どれくらい歩かれます?」
「千歩とかですかね」
そんな一日どれくらい歩くとか意識した事無いな。
多分それくらいでしょ。
「しっかりマッサージしときますねー」
「ふでばこ」
*
……あー、えがったー。
かなーり気持ち良かった。
気が付いたら寝てたし。
なんか足揉まれる辺りまでは覚えてるんだけど、そこからは記憶がない。
変な返事してないと良いけど。
「体が軽い気がする」
マッサージを受けた後あるある、なんか体が軽い気がする。
ちなみに三十分くらいでそんな感覚は抜ける。
「おやつタイムにするか」
俺の腹時計的におやつの時間。
いや、普段そんな決まった時間におやつとか食べないけど。
こういうクルーズ船なら、どこかしらでビュッフェで提供してるでしょ、多分。
「……お、あったあった」
全客室のお客さんが利用出来るスペースに一番大きなビュッフェ会場があってさ。
そこは基本的にいつでも料理を提供してるんだって。
今の時間は軽食とお茶に合うスイーツだそうな。
これはもう行くしかないでしょ。
「紅茶と言えば、エルフ街で買った紅茶は美味かったな」
飲み進めるにつれて段々と飲み切るのが勿体なくてさ。
あと少しだけ残してあるんだよね。
いや、半年くらいのインターバルで異世界に来られるって占いだったのにそんな事無くて。
じゃあ、これ飲み干したらエルフ街で買った商品が一個無くなる!? と思ったらもうね。
飲めなくなったよね、うん。




