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異世界トラベルツアー  作者: 瀧音静


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そこまでなのかよ

 客室に戻ってゆっくりしていたら、何やら動き出した感覚が。

 という事でデッキに出てみると……。


「おー……」


 まさしく今離岸しました、というような状況で、お見送りの人たちが手を振ってくれてるね。

 とりあえず手を振り返しておこう。


「貴様、エルフ陣営だったのか?」


 なんてやってたら、スイさんが俺を見つけて声をかけてきた。


「まぁ、なんというか……どっちかと言うと?」

「エルフ陣営だと食事が野菜ばっかだぞ?」

「……はい?」


 なんて?

 そんなの知らないんだけど……。


「人間が決めた好みの分け方の区分だ。エルフ陣営は野菜とワイン、ドワーフ陣営は肉とビール、ウイスキーだ」

「エルフはラーメンじゃないんですか?」

「実際にはそうだが人間がそんな解像度の高さを持ってるわけがない」


 酷い言われようだな。

 

「じゃあ、人間からはエルフは野菜を好んでワインを飲んでると思われてるって事です?」

「いや? 流石にそこまで認識が甘いわけでもないぞ?」

「じゃあなんなんです?」

「昔からのイメージだ」


 あぁ……まぁ、その、何というか。

 昔からのイメージって、中々変わらないよね……。


「てことは何です? 俺は乗船中は野菜とワインが中心のご飯が提供されるって事です?」

「いや? 普通に料理は注文するし、別に頼むメニューには制限は無いが?」

「じゃあ何のための陣営分けだったんですか……」


 てっきり食事に影響するのかと思ったら、そうじゃないらしい。

 ますます何のための陣営分けなのかわっかんねぇな。


「人間たちの下らん争い……だな」

「下らんって……」

「エルフとドワーフ、この両種族の仲が悪いのは知っているな?」

「まぁ、何となくは」


 エルフが運営するお茶の販売店で、ドワーフの悪口を言ったら機嫌が良くなったし。

 ――ん? 待て待て待て。言ってない言ってない。

 俺は悪口のつもりじゃなかったんだ。

 エルフが勝手にそう解釈したってだけで。


「それに便乗して色々と商品を売り始めたのだ」

「……ほう?」

「初めは『エルフの〇〇が絶賛』とか『ドワーフの〇〇お墨付き』程度のものだったのだがな」

「なんか、よく見るやつですよね」


 アイドルの誰々絶賛とか、テレビで紹介されました、とか。


「それがその内、『ドワーフの○○を倒したエルフの××絶賛!』だとか、『エルフの△△を地に伏せたドワーフの英雄◇◇垂涎の一品!』とかになり出して」

「歯止めが効かなくなった感じですか……」

「ちなみにそのようなエルフもドワーフも存在せん」

「嘘っぱちなのかよ……」


 そこはせめてそんな実績無くても実在するエルフやドワーフの名前を使えよ……。


「で、まぁ、そんな商品が世に出回れば、エルフ陣営とドワーフ陣営が出来上がるのは想像に難くないだろう?」

「どっちが支持する商品の贔屓か、って話ですよね?」

「うむ。まぁそれがずっと広がっているという話だ」

「なるほどなぁ……」


 全く納得出来ないけど。

 でもまぁ、なんというか、現代でも似たような事にはなってるよ、うん。

 流石に異世界程ではないけれども。


「あと、支持する陣営の商品の売りつけを装った詐欺などもある」

「どういうこと?」

「まず適当な……何でもいい質の悪い水があるとするだろう?」

「はぁ」

「で、それを飲ませるわけだ」

「ふむふむ」

「で、質が悪いから当然売れない」

「でしょうね」

「そこで、『どちらの陣営ですか?』と聞くんだ」

「?」

「相手が陣営を答えたら、『申し訳ありません! こちら、対抗陣営の作った水でございました!』と言って新しい、今度は質の高い水を、客の答えた陣営作成という体で持ってくるわけだ」

「あー……」


 つまるところ、自分が贔屓にしてる陣営の水の方がクオリティが高いですよって伝えて買わせるって事なのか。


「で、当然質の高い水を買おうとなるわけだが」

「ふむふむ」

「質の悪い水の倍近い値段を吹っ掛ける」

「はぁ?」

「事前に自分の陣営の水はクオリティが高い、質の悪い方は他陣営、という擦り込みがあり、自分の支持する陣営が作ったならば多少高くても仕方がない、と考えてしまう」

「そんなもんですかねぇ……」

「そんなもんだ、人間なんざ」


 ……俺も人間なんですけど。


「で、明らかに吹っ掛けられた水を買って、客も売りつけた側もホクホクなわけだ」

「買った人は騙されたことに気が付いてませんからね……」


 知らぬが仏……なのかなぁ。

 

「ちなみにその水は誰が作ったかもわからんとりあえず質だけは高い水だな」

「どっちの陣営のものでもないのかよ……」


 凄い話だ。

 これが詐欺って言うのも納得だな。

 

「まぁ、異世界からの旅行者だと言えば、陣営がどうとか言う話とは無関係になるがな」

「あ、そうなんですね」

「次にいつ来るか分からん奴を陣営に引き込んでも旨味が無いからな」

「旨味……」


 なんと言うか、異世界のエルフとドワーフの関係って、人間だと宗教みたいな感じになってるのな。

 

「それに、我が傍に居れば、声をかけて勧誘してくるやつも居るまい」

「傍に居る気なんですか?」

「じゃないとお菓子貰えんだろう?」


 ……この龍族は……。

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