新人長老
「では、お忘れ物はございませんか?」
「大丈夫です」
陽はすっかり顔を出し、気温は寒い。
紛れもない朝の景色で、俺はゆっくりと列車を後にする。
「到着です」
なお、下車後は転移魔法で即座にエルフの長老とやらの所に送り込まれるわけですけれども。
「フェッフェッフェ、来なすったな」
で、今俺の目の前には何というか、エルフの長老と言われて容易に想像できるような存在が居るわけで……。
曲がった腰、皺くちゃの顔や手、眉毛は白く無造作に伸び、髭は地面に引きずる程の長さ。
杖をつき、左右には若い? エルフが護衛と言わんばかりに佇んでいる。
――一応聞くけど、左右のエルフのボディがグラマラスなのは長老の趣味か?
「それで? 儂に何を占わせるつもりじゃ?」
そんな風にこの場所を観察していると、早速俺に占いの内容を聞いてきて。
俺は、どうしても聞きたかった事を占って貰うために口を開く。
「この世界にもう一度来たいんですけど、叶いますか?」
俺の願いは、またこの世界に来ること。
というか、また異世界のツアーに参加したい。これが俺の願い。
それだけ楽しかったのよ、この三泊二日のツアーが。
「フェッフェッフ――」
俺の願いを聞き、笑っていたエルフの長老は……。
「ゲフッ! オフッ!! オフッ!! ウェッフェン!!」
笑っている最中に咽た。
そして、
「なぁ、もうこの喋り方よくない?」
「長老の威厳が無い、と皆様からクレームが届いています」
「今更それっぽい喋りしろって言われても無理だって」
「前の長老はしっかり務めていましたよ?」
「そりゃあ任期三百年越えてたんだから慣れもするって。儂、まだ二年目よ?」
なんか護衛の人と揉め始めたんだけど。
あと、サラッと長老になって二年目とか言わなかった?
俺の社会人生活より短いじゃねぇか。
「大体先代長老がどっかに旅に行くとか言ってフラッと姿を消すのが悪い。なーんも準備とかしてなかったんよ?」
「それでも、一番の年長者なわけですから」
「儂とお主一歳しか違わんだろ」
とか言ってたら、急に長老の背筋がピーン。
あと、手とか顔のしわも消えてますね。
「あの体勢も辛いし。マジで腰悪なるて」
「お客様が唖然としておられますよ?」
「ん? ああ、そうそう」
で、ようやく護衛の人とのやり取りを辞め、俺の方へ向くと、
「大丈夫。その願い、普通に叶う」
と、特に水晶を覗くとか、なんか棒みたいなのを振り回すとか、タロットを引くとか何もせずに、ただ俺の顔を見ただけでそう断言する長老。
「え?」
俺が困惑していると、
「お主がここに来るきっかけになったツアーあるな?」
「ミステリーツアーですか?」
「知らん。ただ、そのツアーにまた応募していればその内この世界のツアーに紛れ込める」
「マジすか……」
なんか、あっさりと俺の願いが占われたんだけど……。
「ただ、毎回紛れられるわけではない、ある程度のインターバルは必要だな」
「具体的には?」
「そうだな……まぁ、半年に一回とかじゃないか? 知らんけど」
便利な言葉だな、知らんけど。
でも、なんだろう……何となく信用出来るんだよな、この長老の言葉。
「あ、あと」
「なんでしょう?」
「土産は常に持ってきた方がいいな」
「土産……チョコレートとかでしょうか?」
「チョコもいいが、ソフトキャンディやしっとり系のクッキー、米菓なんかもいいだろう」
「あ、それらでもいいのか」
スイさんにはチョコを所望されたけど、いわゆる海外人気が高いお菓子系ならお土産として十分って事か。
まぁ、海外っちゃあ海外だしな、異世界も。
「とまぁこんなところだが、あまりにも呆気なさ過ぎるな。もう一個くらい占えるぞ?」
「んー……急に言われてもさっきのしかないんですよねぇ……」
急にもう一個占うって言われても、特に何か思いつくことも……。
ん~……じゃあ、
「次にこっちの世界参加するツアーがどの種族のものか、とか?」
「お、任せろ」
思いついた内容を口にすると、自信満々にサムズアップ。
そして、何やら茶碗に水を注ぎ始め……。
「ングッ、ゴッゴッゴッ」
喉を鳴らして飲み始める。
随分と変わった占いの方法だなぁ。
でもまぁ、エルフがやるんならきっと色々な理由とか、理屈がある方法なんだろうな。
「ぷはー。いやぁ、喉が渇いててよぅ。生き返るぜ」
――ん?
もしかしなくても、ただただ喉を潤しただけだったのか?
占いのうの字にも関係ない?
「えーっとなんだっけ、次のツアーの種族だったな」
「はい」
「ん~……ん? お前よく見たら結構変な縁がくっついてるな」
――なんか、段々と口調が砕けてきてない?
これが素なのか? エルフの長老さんや。
「エルフ、ドワーフ、獣人に? ――一番濃いのは龍族か」
スイさんだな。
獣人は列車内であった夫婦かな?
ドワーフ? エルフのお酒販売してる所でしか会ってないと思うんだけど……。
「こんだけ混ざってると多分人間だな」
「? 俺は人間ですけど」
「違う違う。次のツアーの種族だよ」
「あ、そりゃそうか」
どの種族のツアーになるか、が俺の占い内容だったもんな。
そりゃあいきなり俺の種族の事を言う訳も無いか。
「人間のツアー……」
「たまに外れるから確定じゃねぇけどな。ま、98%程度って所だ」
疑似連3回、最強ストーリーリーチ、群予告、金文字、赤保留ってところか。
「んじゃ、これからの運命に幸多からんことを」
そう言って、護衛のエルフも合わせてお辞儀をされ、ビオラさんの転移魔法でふもとの駅へと戻った俺は。
「お帰りは、こちらの通路を真っ直ぐお進みください」
言われるがままに進み、気が付けば。
「……戻ってきた」
異世界に辿り着く前の、フェリー乗り場に、いつの間にか戻っているのであった。
なお、確認の為にスマホで位置情報を見てみたら、五分くらいバミューダトライアングルのきさらぎ駅だった時は正直かなりビビった。
何はともあれ……、
「異世界楽しかったなぁ」
初めての異世界旅行を満喫して帰って来たのであった。




