夏が旬
カキフライでも十分にメインなのでは? と思わなくもない。
だって、カキフライ定食とかあるし。
いやまぁ、こうして出てきて食べられるのはいい事なんだが。
「いただきます」
なんか紫色のレモンのようなものを絞り、小さいソースポットに入ったソースをかけて……。
いただきます。
あ、ソースポットっていうのはカレーとかが入ってるあの説明が難しい謎の食器の事ね。
「衣サックサク」
サクッっと音を立てる衣、その中からトロリと溢れてくる牡蠣。
紫色のレモンっぽいものは、レモンよりは酸味は控えめかな。
でも、ハーブのような清涼感が鼻から抜けて、ソースはフルーティなウスターソース。
つまるところうめぇってことだな。
「タルタルソースもお使いください」
くぅ~、これこれ。
やっぱりカキフライにはタルタルソースが無いと。
ハンバーガー食べる時にコーラが無い様なもんだよな。
あるいは、ハンバーガーにピクルスが入ってないようなもんだ。
「うんま」
ゴロゴロとした卵とオニオンのピリッとした刺激。
マヨネーズのコクと酸味がカキフライに合い過ぎるんじゃ~。
辛口ワインとの相性ももちろんよろしい。
というか、この白ワイン、結構色んな料理に合うな。
ワイン自体のポテンシャルがかなり高いように感じる。
「美味かった……」
気が付いたらあっと言う間に食べ終わってたな。
久しぶりにこんな美味いカキフライ食べたかもしれん。
間違いなく日本のレストランと戦えるレベルのカキフライだった。
何ならお代わりしたい。
「口直しとパンでち」
で、食べ終わった頃を見計らってお出しされる口直し。
ベリー系のシャーベットかな? 赤紫色の一口サイズ。
パンは普通のバゲットですわね。
「お、なるほど」
ベリー系かと思ったら、さっきカキフライに使ったレモンっぽいもののシャーベットですわね。
スッキリサッパリとした酸味と、ほんのりとした甘さが口の中を洗い流してくれるようですわよっと。
そこにパンを食べてワインで流し込めば、メイン料理を受け入れる準備は万端。
さぁさぁ、鬼が出るか蛇が出るか。
「『タナカのパイ包み焼き』でち」
――なんて?
聞き間違いじゃなければ、凄く日本語チックな名前が聞こえてきたんだけど。
何のパイ包み焼きって?
「なんて?」
「『タナカのパイ包み焼き』でち」
聞き間違いじゃない……だと!?
田中って名前の魚が居るのか?
――あ、これもしかしてあれか?
スズキのパイ包み焼きが元か?
スズキ⇔田中って事か?
いや、スズキは鱸であって鈴木じゃねぇから!
ちくしょう……理解出来ちまったよ……。
「いただきます」
納得……はまぁ半分くらいしかしてないけど、田中のパイ包み焼きとやら、いただきましょう。
……ん、パイ生地はサクサクだな。
「うぉおぉっ!?」
サクッとした生地! ふわりとした身! 噛んだ瞬間に和牛のソレの様にとろける脂!
淡泊なのに濃厚で癖のないうま味!
全部が爆発的に美味い!!
生地に使われているバターの香ばしさも! パイ生地と田中の身の間に挟まれている何かのペーストも! サッパリながらも奥行きがあり、一切身のうま味の邪魔をしないソースも!!
全てが完璧すぎる。
「気に入っていただけたようでちね」
「そりゃあもう!!」
こんなに美味いもの食べて、気に入らないやつが居たらそれはもう日本人じゃない。
あ、いや、ライバル店のシェフとかはワンチャン可能性あるか?
でもまぁ、俺はシェフでも何でもないんでね。
もう大満足よ。
「……ふー」
パイ包みの余韻を楽しんだ後に、ワインを飲んで余韻を追加。
あー……パイ包み自体の濃厚な旨味やソースとワインの相性やべー。
こーれは美味しさがバイキルトですわ。
「ちなみに、パイと田中? の身の間に挟んであるのは?」
「田中の皮とキノコのペーストでち。皮にはコラーゲンがたっぷりでちから、プルプルとした食感になるでち。そこに風味とうま味を増幅させるキノコを混ぜてペースト状にしてるでち」
「なるほど」
「うちの飛行艇に乗ってるシェフのスペシャリテでち。ご堪能くださいでち」
皮とキノコのペースト……そんなのもあるのか。
確かに皮のサクッとした食感と身のふわりとした食感とは違う何かを感じたけど、それが皮のコラーゲン感だったとは。
にしても、マジで美味いな、このパイ包み焼き。
現代のスズキのパイ包み焼きもこんな感じなのだろうか?
「や」
「ホウスさん」
と、晩御飯を堪能していたら、ホウスさんが遅れて登場。
「遅かったですね」
もうメイン料理まで届いちゃいましたよ、俺は。
「ちょっと色々打ち合わせをね」
「このツアーの事?」
「いや、仕事の事でちょいと」
ノクティアさんもそうだったけど、ガーディアンが本業じゃないっぽいんだよね。
他の仕事をしていて、ついでにガーディアンもやってる、みたいな。
バイトみたいな感覚なんかな。
「お、もうメインまで届いてるじゃん。美味しいでしょ?」
「めちゃウマです」
「だよねぇ。俺も初めて食べた時は衝撃で、何日かそれ食べるだけに通ったりしたもん」
「マジすか」
「まじまじ。俺もコース始めてもらお。すいませーん」
という事で、ホウスさんも合流し、周回遅れ寸前でコース料理が開始されましたとさ。




